■カルマの忠誠
「…ヒロミツ」
「クローム?あれ、なんか集合でも掛かってたか?」
「ううん。夜遅くにごめんなさい。…話を、したくて」
「話?」
夕食後。さすがに一晩城の中に完全部外者の安室を留めておくことは難しいらしく、城の付近の宿の部屋を与えられた安室は、外出の許可をとった諸伏と夜通し話し続けるつもりでいた。酒を買い込んできた諸伏とテーブルに着き、ぽつりぽつりと会わなかった数年間を埋めるように会話を続けていた。そこへやって来たのが、凪だった。
凪と名乗り、これまでエルシオと共にポアロへやってきていた彼女は、本名をクロームと言うらしい。ポアロではごく普通の人見知りの女の子に見えた彼女は、あの城の中でも指折りの戦闘力を有しているのだそうだ。夕食の際、当然のようにエルシオの隣に立ち安室と顔を合わせた彼女の姿にはに驚かされた。
日本に居る際には下ろしていた藍色の髪は、ハーフアップに結われており、片目は眼帯に覆われていて、どことなく骸と似たようなスタイルであるように感じられた。
彼女は諸伏に、安室に話があって来たのだと断り、室内へと入ってきた。ポアロでもさして彼女と会話をしたことは無いし、イタリアで先ほど彼女と会ってからも言葉を交わした記憶はない。何か、エルシオからの伝言でも預かって来たのだろうかと、部屋に通しソファをすすめる。
ありがとうと小さく呟いてソファに腰かけたクロームは、口を開いては閉じ、開いては閉じとしばらく繰り返してから、ぽつり、と言葉を零した。
「…ボスが、貴方にここまで肩入れするとは、思ってなかったの」
「…ボス」
「ヒロミツとよく、誰かの話をしているのは知ってた。そのころから貴方のことを気に入っていたのも。…ボスは、当たり前にボスとして振る舞えるようになったけど…でも同じだけ、大事な人を作るのが下手になった。ボスはそもそも、人を疑うのに向いてない。…仕方ない、けど。勝手に信用して用が済んだら裏切られる、そんなことが当たり前の世界に浸かってしまったから。…だから、一方的に貴方のことを信じているボスが、裏切られて苦しむ姿は、見たくないの。……警察相手に、言うことじゃ、ないけど。私たちの、大切な人なの」
「…君は、彼の彼女、のような相手だと思っていたのだけれど、違ったのですか」
ポアロで見た、幸せを体現したようなエルシオと彼女が並び立つ姿。それが偽りだったと、安室には思えなかったというのに。
「違う。私はボスの守護者。誰にもボスを傷つけさせない」
「君はなぜ、マフィアに?」
「…色々、あるけど、最終的にそうしなければ私は死んでしまっていたから。元は死人同然だった私を救ってくれたのは骸様で、私が私の意思を持って生きる意味をくれたのがボスだった。マフィアかどうかなんて気にしない。私は骸様の助けになれて、ボスを護ることが出来るなら、マフィアだろうとそうでなかろうと、どんな場所でも構わないわ。ボスについてきた人はきっと皆、そう思ってる」
何が言いたいのか、ぼんやりと安室は理解した。
ただ一つ、彼女は彼女の主を傷つけるなと、そう言いたいのだ。しかし安室にも立場があることを彼女は理解している。それを承知の上で、こうも回りくどく安室に訴えてきたのだろう。
「…うん、やっぱりあの人は信頼できると思うぞ、ゼロ」
「…ああ」
「俺があの城で過ごし始めてからずっと見てきたけど、あの人の守護者って呼ばれてる、クロームたちの優先順位は基本的にあの人なんだ。…どこで生きているかなんてどうでもいい、クロームたちはあの人そのものに惹かれたんだろう」
きっと自分たちが完全に理解することは難しいのだろう。エルシオは、安室のことをよく眩しい、心が強い人だと言うが、諸伏からすればエルシオに向けられる守護者たちからの忠誠心、ともすれば行き過ぎて執着心にすら成り得そうなそれらは、昔から彼の幼馴染に見ていた羨望の混じる眩しさとはまた何か違う尊さや美しさを感じるものだと思えた。
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