入寮してから数日。伏黒は何やら任務で不在だったが、今朝方隣室に戻ってきた気配があった。ひとまずはそっとしておいて、完全オフであった綱吉も二度寝をきめてしまおうと布団でごろごろ転がっていたところ、部屋の外から会話が漏れ聞こえてきた。所々聞こえた内容的に、新しく寮にやってきた生徒だろうか。今年の男子生徒は自分と伏黒の二人だけだと聞いていたはずだけど、と首をかしげ、綱吉は好奇心の赴くままに部屋から出た。
「あれ。もしかして君、沢田綱吉くん?」
視界に入ったのは首が痛くなるほどの長身。光を含んだような白髪に、目元を覆う黒いアイマスク。その奇抜なスタイルに、浅くなっていた呼吸を忘れ、思わずギョッと目を見開いた。生来の気質からつい突っ込んでしまいたくなる気持ちをセーブして、ひとまずは問いかけに応える。
「…え。あ、ハイ…?俺が沢田綱吉です…?」
「うんうん。いやーようやくご対面だ!こないだはゴメンネ!急に任務入れられちゃってさー。恵にお願いしたんだけど。あ、僕、五条悟。君たち一年生の担任なんでヨロシク〜」
「いや五条先生めっちゃ引かれてるけど…」
「分かってても言わないでよねそういうこと。じゃ、自己紹介ね。ハイ悠仁」
「えーと、俺、虎杖悠仁!呪術師のことマジでなんも知らんけど、色々あって呪術高専に入ることになったんだ。よろしく!」
にかりと明るく笑った虎杖の朗らかさに思わずつられて笑顔になる。けれど、部屋を出て彼と対面した時から感じていた、彼の内側で渦巻く不自然な威圧感とのギャップに脳がついていけなくなってしまう。とりあえず色々疑問を置いておいて、右手を差し出した。
「沢田綱吉です。その、俺も実は呪術のこと知ってから半年くらいしか経ってないんだ。だから知識とかは同じくらいかも…、よろしくね」
「え、マジで。なんか親近感わいたわー!よろしく沢田!」
綱吉の右手と重なった虎杖の右手に何となしに視線を落とす。少し話しただけで彼が気のいい人柄であることがよく分かった。
けれど、だからこそ、彼の中から感じる何かが恐ろしくてたまらなかった。中身と側がどうしてもちぐはぐで不気味な感じ。ここで聞かなければ今後、ずるずると引きずってしまうに違いない。こくりと唾を飲み込んで、意を決して綱吉は口を開いた。
「…あの、ごめん、気を悪くしたら。でも…、虎杖くん、君の中、何かいるの?」
*
神宮家の前当主が突然どこかから連れてきた、跡取りになる予定だという沢田綱吉という、五条が受け持つ今年の一年生の生徒のうちの一人。
前もって得ていた情報からわかることは、彼が自身の持つ術式を自覚してから半年も経っていないということ。彼の持つ術式は神宮家の相伝では無いということ。それから、ちょっとした両親に関する情報。これくらいだった。
神宮家での詰め込み教育の質が良く、それが上手いこと実を結んだのか、綱吉に才能があったのか。おそらく後者であろうとは思うが、それにしても、一人の体の中に異なるふたつの存在が収まっていることを呪力感知によって感じ取ることが出来るくらいに練度を上げていたとは。おそるおそる、けれど疑念ではなく確信を持った綱吉の問いかけに、五条は思わずおっ、と声を漏らした。
虎杖が自身の身に起こったことを掻い摘んで話せば、綱吉は苦々しい表情をしてなるほど、と頷いた。死刑執行猶予の単語が出た時には肩を強ばらせ、憤りを感じているようにも見えた。最後に、俺にできることは力になるよ、と言葉が添えられた、生粋の呪術師同士ではまず起こることは無いだろう、善人の対応を絵に描いたような会話。
…いやあ、眩しいねえ。
今現在呪術界きっての善人トップツーと言えるだろう二者の対面に、五条はにんまりと唇を釣りあげた。
二人の自己紹介も終わったところで、五条は虎杖の自室となる部屋を案内する。伏黒の隣の部屋だ。綱吉と虎杖で伏黒の部屋を挟む形になっている。
部屋の広さにはしゃぐ虎杖を見ながら、同じように虎杖の様子を眺めている綱吉に話しかけた。
「綱吉の術式、諧調術式だっけ。神宮家の術師は何人か知り合いにいるけど、ソレは初めて見たなあ」
「前例はないらしいです。相伝術式とも、見た目的には似てはいても、俺の使う炎は石化はさせるけど燃焼させる機能は無いから…」
「調和ね。うんうん、発展させ甲斐があるし、工夫し甲斐もありそうじゃない」
「神宮家の人達に軽く教えられて、実はいくつか応用の案はあって…、でもぶっちゃけ俺の呪力操作がお粗末すぎて実際に運用はできてません」
諧調術式。文字通り、対象を調和する術式である。六眼で見たところ、特別に強力ではないものの、発想によっては汎用性の高い便利な術式であると思われる。神宮家の相伝は、簡単に説明すると炎を放出するというとてもシンプルな術式であるため、どうしても強さは呪力量に依存するが、比較的綱吉の術式ではそれは起こりづらいと言える。
「ま、それも訓練のうちだよ。呪力操作は特訓あるのみだからさ」
「う…頑張ります」
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