じろり、と音がしそうなほどじっくりと、釘崎野薔薇と名乗った目の前の四人目の同級生は綱吉たち三人を眺めていた。
(見るからにイモ臭い…絶対ガキの頃ハナクソ食ってたタイプね。こっちは…きっと重油まみれのカモメに火つけたりするんだわ…で最後は…なんか…細くてなよなよしてんなぁ、将来絶対女の尻に敷かれるタイプね)
物色が終わったのか、諦めたように気だるく溜息をつく野薔薇に、おおよそ何を考えているのかが透けて見えて、綱吉は思わず苦笑いをした。なんと言うか、女性に値踏みされている時の視線は分かりやすいのだ。前には日常的にその視線に晒されていたし、なんならよそのお偉いさん(男)にこれ以上に不躾に眺められたことだってある。ついでに言えば、なんだかろくな評価をされなかったことも、よく分かってしまった。
「これからどっか行くんですか?」
わざわざ釘崎を迎えに来るためだけに四人を集めた訳では無いだろう。伏黒の問いかけに綱吉もうなずいて同意すると、得意げに顎を上げた五条は東京観光やら六本木やら、東京に憧れる地方民には眩いような単語をチラつかせ……、
「いや六本木じゃないじゃん!?」
「いますね呪い」
「嘘つきーーー!!」
辿り着いたのはおどろおどろしい空気を纏った廃墟だった。
思わず叫んだ綱吉と虎杖、釘崎を置いて、五条の説明が続く。
霊園と廃墟が並び立っているせいで、両方への負の感情がダブルパンチで襲ってきた結果、呪いが発生してしまっているらしい。
「やっぱ墓とかって出やすいの?」
「…そっか、怖いとか不気味だとか、そういう感情で呪いは生まれる…んでしたよね。何だかんだ俺、まだしっかり呪霊と戦ったことってないや」
「ちょっと待って、コイツらそんなこと知らないの?」
釘崎から怪訝な視線を送られ、思わず首を竦める。なんというか、目ヂカラがすごい。それだけならばともかく、これはあんまり周囲にいた事のなかったタイプな気がする。
呪術を学び始めたばかりの綱吉は、今はまだ基本的な呪力操作の訓練の途中だ。術師の家系に生まれれば、術式を自覚するのも比較的早く、幼い頃から練習をする機会があるが、綱吉はと言えば呪力を認識し術式を自覚したのもつい最近。ありとあらゆることが初めてで、まだ実践に出されたことは一度もなかった。前の記憶を思い出してから、死ぬ気の炎を灯せないかと試したことがあったが、どうやらこの世界において死ぬ気の炎は呪力に置き換えられてしまうらしい。この分だと、トゥリニセッテも存在していないのだろうと考えられた。
「ごめん、俺まだ全然ド素人なんだ。呪力操作の訓練中」
「…は?」
「俺はついこの間特級呪物飲み込んじゃったばっかで…」
「は?!」
「綱吉は術式を自覚したばっかの超超超ヒヨコちゃんだからね!悠仁に関しては呪力すらなかったから、中身はともかくぶっちゃけまだほとんど一般人だし?だから君たちがどれくらい出来るのか知りたい。実地試験みたいなもんだね。ってことで、三人でこの廃墟の中の呪い、片付けてきて」
*
何やら揉めながら上階と下階に別れて行った釘崎と虎杖に、じゃあ残った真ん中あたりを…と綱吉は数階上ったあたりで探索を開始した。
「うわ、なんか嫌な空気…」
任務になるくらい呪いが溜まっているのだから当然と言えば当然だが、実践が初めての綱吉としては、とんでもなく澱んだ空気のせいで、どこに呪霊がいるのかいまいち感知に支障が起きていた。仕方が無いので目に頼りながら、ゆっくりそろそろと足を進めていく。
綱吉の諧調術式は、端的に言えば呪力をもつあらゆる物を調和する。呪力を扱う感覚は、死ぬ気の炎を操るのに少し似ていて、だからこそやりやすいように綱吉は敢えて呪力を炎の形に変えて扱っている。
綱吉の記憶に焼き付いている戦闘の技能には、死ぬ気の炎を利用したものも多い。大空の炎のような推進力は呪力では再現できないため、できることは限られるものの、ある程度の技術を再現することは可能だろうと綱吉は考えている。あの倫理観を疑うような思考と発言をしていた孝継や、機会がなく会ったことは無いが神宮家の現当主などが持つ相伝の術式は、本物の炎を操る術式であると聞いた。自分が持っていた術式が、戦う場所や方法を限られそうなそちらではなく良かったと思う。
術式を自覚し、同時に前の記憶を思い出してから半年ほど、コツコツと身体を鍛え、体力面を強化し、とにかく何とか動ける状態へ肉体を持っていこうと努力してきた。リボーンが居なかったから、死ぬ気弾を使った無茶かつ高効率のトレーニング方法は使えなかったから、本当にコツコツと。だからまだ、今の自分の身体の動きと記憶の中の自分の動きには大きな差がある。その差が戦闘に響かなければいいと思いながら、綱吉は背後からゴムまりのように飛び出してきた小さな呪霊を、炎を帯びさせた拳で殴り飛ばした。
大した力もなかったのか、一撃当てただけで呪霊には容易く炎が燃え移り、あっという間に身体を石化させていく。ぼろりと崩れたそれを見て、咄嗟に反応できたのは感知に引っかかったと言うより、無意識下の超直感によるものだろうなと思わず苦笑する。情けない。
「びっ…くりした、感知はまだまだ練習必要だなぁ…」
初戦からこんな調子では、この奥から感じる大物との戦闘に若干の不安を感じる。
「でもまあ、五条先生も伏黒くんもいるし、何かあっても大丈夫、だよね」
*
「お。見落としたと思ったけど、いい反応するじゃん。やるう」
「アイツらいきなり三人別行動し始めたんですよね?…大丈夫なんですか、これ」
「見る限り苦戦してる感じはなさそうだから平気じゃないかな。…うーん…悠仁は身体能力オバケだし宿儺も居るから正直規格外だけど、綱吉の方は…割といいセンスしてるかもね」
「練習中とは言ってたけど、呪力操作が上手いんですかね、沢田。何回か戦ってるっぽいですけどまだ全然バテてないし」
「ヒヨコちゃんにしては上手い方。でも術師としてはまだまだ粗い。本人が気づいてるかは知らないけど、単純に普通より呪力が多いね。特別強力な術式でもないし、ド素人の割に入学時点で三級術師だった理由はこっちだろうねえ」
「ああ…なるほど」
「さて、野薔薇と悠仁の方もそろそろ…」
ふと建物の上階を見上げたのと同時、壁をすり抜けて飛び出してきた呪霊が、自由落下の最中に釘に貫かれて消え去った。五条が野薔薇の術式だとにんまり笑う。
「いいね、ちゃんとイカれてた」
その後すぐに小さな子供を連れて戻ってきた虎杖と釘崎は、綱吉はどうしたのかと問いかけてくる。まさか初心者すぎてどうにかなってしまったのかと焦った顔を見せ、迎えに行くべきかと五条へ視線を向ける虎杖に、その目によって全て見えている五条はケラケラと笑って大丈夫と返した。
「大丈夫大丈夫、心配しなくても今来るよ」
「うわーーーーーッ!!!なんだそれぇぇ!!!」
まるでギャグ漫画みたいな叫び声とともに爆音。窓ガラスがアクション映画よろしく内側から弾け、ガラスの破片と一緒になって綱吉が飛び出してくる。ぎゃあぎゃあと叫んでいる割には空中で危なげなく体勢を整え、しっかりと地面に着地を決めると、綱吉を追いかけるように一緒に落ちてきた巨大な呪霊に振り向き、流れるように腰を落として橙の炎を纏った拳を振り抜いた。どうやら弱点は頭部だったようで、拳の当たった部分がガラリと石化して砂のように崩れ落ちる。
「…お、終わりました…、えっ、俺もしかして最後ですか!?おまたせしました!!」
「…あんたなよっちそうな顔して、ド近接タイプだったのね」
「なよっちそうに見えてたんだ…」
「綱吉は初戦闘、どうだった?怖かった?」
「怖い…のは、それは怖かったです。でもやらなきゃ、俺がやられてしまうので。それは困るから」
眉をたれさげさせて答えた綱吉に、心底面白そうににんまり笑った五条は、三人とも頼もしくて何よりと頷く。
「よぉーしそれじゃ今度こそ飯行こうか!」
「ビフテキ!!」
「シースー!!」
「あ、奢りなんだ!?」
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