倉庫




:閑話1


 綱吉たちが生活する寮には男女共有スペースがある。テレビがあったりちょっとした給湯スペースがあったり、各々自由に過ごすことの出来るスペースだ。
朝食後偶然そこに集まった一年男子三人に、服装も化粧もバッチリな釘崎から声がかかる。
「ねえ、今日これから誰かショッピングの荷物持ち、付き合ってくれない?報酬は昼奢りで。どう?」
「断る」
「えーとごめん俺も用事が」
「…虎杖はともかく理由なしに即答ってどーなのよ」
「釘崎さん、俺行くよ。俺も都心慣れてないし、良ければついて行かせて欲しいな」
ひょこりと手を挙げた綱吉に視線を向けて、ぱちぱちと目を瞬かせた。
「…私、アンタに怖がられてるんだと思ってたわ」
「え」
「見るからに気弱そうだし、たまにノリについてけないって顔してるし。化粧とかケバいの苦手なんだと思ってたんだけど」
「それは誤解!釘崎さん美人だしカッコイイし、ノリについてけないのはこう、俺の中身が老いてるというかジジくさいせいというかそういう感じなだけで!」
事実綱吉の中身は老衰で大往生したおじいちゃんである。今は身体に引っ張られて諸々若い感覚を取り戻してはいるが、やっぱり生きた年数というのは無かったことにはならないもので。
「ふーん?まーいいわ。十時半には出るつもりだから、玄関集合で」
「了解、準備してくるね」

 約束通りの十時半、現れた綱吉にふむ、と釘崎は満足気に頷いた。
「モサいかと思ってたけど、結構イケるじゃない」
「釘崎さんの服装が分かってたから助かったかな。出かけるの久々だし、合う服あってよかったー」
主張が強すぎず地味すぎない、釘崎の今日のファッションと系統を揃えたコーディネート。荷物持ちが確保できれば程度に思っていたところだったから、予想外にテンションが上がった気がした。
「さ、行くわよ!」
「ちなみにどのくらい回るの?」
「確実に行きたいのは三ヶ所ね。試したいコスメとこの間ネットで見かけた服が気になってて、そのお店と、あとはもう一箇所行って夏服見たいのよね。それ以外も気になれば見てみるつもり」
「うんうん、いいねぇ。夏服選びがいあるし」
「わかってるじゃない。コスメも久々に新しいの買うし、給料の使い所ってカンジ!あ、ここ気になるから入るわね」
「どうぞー」
案外話しやすい奴かもしれないと釘崎は思った。一年四人の中では伏黒よりはマシなものの主張は少なめ、聞き分けのいい善人タイプだ。だから今日の会話を進めるのはこちら側かと思っていたら、思ったよりもぽんぽんとテンポよく話題が提供される。ついでに言えばつまらない自分語りなどではなく、釘崎の本日の目当てである服やコスメのことを質問されたり、そこから話を広げたり。こいつ、会話上級者かもしれない。
「そう、そろそろ夏だから明るい色のリップとかアイシャドウとか選びたいんだけど、髪色が今コレだからさ、ちょっと選ばないとなんか喧嘩しちゃうのよね」
「染めてるんだっけ?」
「そりゃ染めてるわよ、元は黒髪だもの。…もしかしてアンタ地毛?虎杖もだけど珍しいのも居るのね」
「俺は地毛。純日本人ではないかな。虎杖くんがどうかは分かんないけど」
「…呪術師の旧い家じゃなかったっけ、アンタのとこ」
「神宮家はね。俺分家にもほとんど関わりないくらい遠くの家から引っ張り出されたからあんまり血筋は…」
「後継ぎ問題ってやつ?胸糞ね、やっぱり嫌だわ呪術師ってやつは、古臭くて陰湿で。…そういえばどこの国なの」
「イタリア。て言っても血は薄いはずなんだけどね。父方の五代前が純イタリア人で、そこからどんな感じに血が薄まったか知らないけど、なぜか父親はしっかり金髪だし」
「隔世遺伝とか言うやつかしらね。言われてみれば肌めちゃくちゃ白いわねアンタ」
「日焼けしんどいかも」
「女子か」
思わず吹き出した釘崎に、同じように楽しそうに綱吉が笑い声を上げる。
「イタリアねえ。いつか行ってみたいわ、海も見たいしピザもジェラートも食べたい」
「その時は言ってよ、オススメのお店教えるから。まあ電車は遅れるんだけどね」
「それマジなの?」
「マジだよ」
「ヤバいわね…」
話しつつ、コスメのカウンターが並ぶフロアへ踏み入れる。隣を歩く綱吉も、独特の雰囲気に臆することなく着いてくる。目当ての商品を見つけると、複数のカラーバリエーションを前に釘崎は唸り声を上げた。
「迷う…」
「元から目付けてたのは?」
「こっち。夏っぽくて良くない?」
「夏っぽいし、髪色とも合ってていいと思う」
「当初の目的としてはこっちなのよね、しかももう片方は定番色だし。でもこの値段のリップってぶっちゃけそう何個も手出せないし…」
「俺たちまだ単独任務できないもんねー…」
二級より下は単独任務は不可。従って難易度も下がる。つまり報酬もそれなりと言ったところだ。それでも一般的な社会人と比べれば、この歳にしてはかなり稼いでいる方ではある。しかし釘崎の爆発するほどの物欲を満たすには足りないのだった。
「そういえば釘崎さん、こっちのほう、似た感じの色つけてた事無かったっけ?寮に来てすぐだから先週…先々週?原宿行くって言ってた時に」
「………よく、覚えてたわね。私も忘れてたわよ。確かあれ、こっちに来てから一度しか使ってなかったと思うけど」
「似合ってたし、記憶に残ってて。それなら今回はお目当ての色でも良さそうじゃない?」
「…そういうむず痒いこと言うのはイタリア仕込みな訳?」
「あー…、気持ち的には口に出して褒めないのはむしろマナー違反って感じかも。日本だとこう、引かれるか下手すると気持ち悪がられるかもしれないから会ったばかりの人にはしないけど…」
嫌だったらごめん、と頬を書いた綱吉に不快な媚びを感じず、確かにこれが彼にとっての普通なのだろうと理解する。むず痒くはあるが、嫌ではない。
「良いわよ別に。嫌じゃなかったし。褒められるのに悪い気はしないわ。じゃあこれ買ってくるから。この後お昼にしましょ」


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