倉庫




:その血脈に呪われる


 何も知らずにのんびりと任務から帰還した自分を呪いたかった。
「…虎杖くん、が?」
暗い顔で俯く二人から聞いたのは、たった四人しかいない同期のひとりが、任務において命を落としたという話だった。
「なんで」
「…宿儺が暴走した。虎杖の心臓を抜き取って、…虎杖は体の主導権を取り戻して、そのまま…」
「……」
なんで。その言葉は「なぜ虎杖が死んだのか」という疑問だけではない。「なぜ虎杖の死を綱吉の超直感が捉えなかったのか」、この意味も大きい。超直感が仲間の危機を感知しなかったことは、綱吉の記憶において一度もない。ある意味呪いのようにこの血脈に宿る、そういう質の力だ。血脈の中でもいっとう呪いに愛された綱吉だ。人に聞かれれば自信過剰もいい所だと失笑されるかもしれないが、これは事実に裏づけされている。
「虎杖くんには、もう会ったの」
「会えない」
「それは、なぜ」
「両面宿儺の受肉体として解剖される、らしい」
きな臭い。疑わしい。嘘の匂いが立ち込めている。
どちらにしろ今の状況では、虎杖の亡骸にすら会えないらしい。
「…わかった」



 今日は授業にならなかったなと、教室の椅子に座って五条は息を吐いた。無理もない。一昨日同期が死んだのだ。実際には死んではいないのだけれど、それを知らせてやることも出来ない。せっかく都合よく虎杖の身を隠して力をつけるチャンスなのだから、少しのリスクも負いたくなかったのだ。とはいえいつまでもジメジメしている三人でも無いだろう。交流会の話を持ちかけてやれば、そちらに意識を向けてくれると信じたい。
「で、そんなとこで僕のこと見つめて、どうしたの?授業でわかんないとこでもあった?綱吉」
教室の出入口で立ち止まっていた綱吉は、五条のアイマスクに覆われて見ているのか見ていないのか分からない視線に刺されて、ぴくりと身体を揺らす。それから、何も言わずに中へと入ってきた。
「…俺の父親の血筋の人間って、物凄く勘がいいんです」
「…うん?」
突然言葉を発し始めた綱吉に、首を傾げる。何の話題だろうか。
「賭け事なんかでの負けは基本的に無いですし、対生物だと精度はさらに上がったりします。俺たちの血筋の人間は、この勘のことを超直感と呼びます」
「なに、どうしたの」
「特にこの超直感は、仲間の危機を敏感に予感します」
「…」
「その上で」
伏し目がちだった綱吉の瞳が、五条のアイマスクに隠された瞳を見透かすように視線を合わせてくる。
「俺の超直感は、仲間の生死に関して外したことは、一度もありません」
五条の肉体は無限に守られている。それだと言うのに、まるで身体や心臓までもを炎の手で撫でられたような心地がした。焦がして燃やし尽くすような炎の点る瞳。琥珀が彩度を上げて爛々と輝く。
言外に、虎杖は生きているのだろうと問いかけられていることを理解した。
数秒の思考の後、五条は両手を上げる。
「…一体どー言う仕組みなわけ?僕の眼には綱吉は諧調術式以外に何か持っているようには見えないんだけど」
「術式でもなんでもないですよ。言った通り、俺の血筋がやたらと勘がいいってだけで」
「…神宮家の方、ではなさそうだね。勘で済ませられるようなものかなぁそれ。予知とか透視とか、その類のものでしょ、そこまで行くとさ」
「予知なんてできたらどれだけ楽でしょうね。こんなことも起きてないですよ、多分。…それで」
「うん。着いておいで。ついでに今、綱吉にやってもらうこともできたからね」
スタスタと歩き出した長身のペースに追いつくべく、綱吉は小走りで五条を追いかける。やはり虎杖は生きていたのだ。安堵と共に、なぜそれが自分たちに知らされなかったのか疑問に思う。
五条はそのまま、綱吉の入ったことの無い地下室へと進んでいく。こんな所があったことすら知らなかった。
「呪術界のお偉いさん方は自分がかわいくてかわいくて仕方ないらしくてね。僕が悠仁から離れている間に、恵や野薔薇まで巻き込んで、不相応な任務に当らせたんだよ。…あわよくば不慮の事故として死んでしまえばいいってことでね」
「……」
「問い詰めてわかったことだけど、綱吉が他の任務で遠くの方に飛ばされてたのは、神宮家が介入したかららしい。あそこもそれなりに古い家だから顔が利くし、ほら、綱吉って唯一の跡継ぎでしょ。間違って死なせる訳には行かなかったんだろうね」
「…だから、あんなに緊急性も危険性も大してないような任務に、わざわざ三日もかけて行かされたんですね」
ただでさえ人手が足りないと言うのに、呪術師を二人も割いて。
「上は両面宿儺の器を始末したい。だから僕達は悠仁の生存を外に漏らしてはいけない。だから言えなくて、ごめん。…さ、ついた。この部屋の中だ。静かに入ってあげてね。怪我しちゃうから、悠仁が」
「どういう…?」
言われた通りゆっくり静かに部屋へ入ると、中は薄暗かった。ソファに座っているのは見慣れた同期の後ろ姿。その彼が見つめるのはテレビの画面。映っているのは…映画、だろうか。
「おーい悠仁。やってるー?」
「うぉわっ!?へぶっ!!」
綱吉には静かにしろと言っておいて、五条は大声で背後から虎杖に呼びかけた。なにやら集中している様子だった虎杖は驚いた声を上げて…次の瞬間には、鈍い音と共に、彼の身体はソファの上から吹っ飛んでいた。


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