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中原の車でマフィア本部に移動したナマエだが、執務室は使用出来ない為、この日は同じ幹部である尾崎紅葉の執務室で仕事をする事になっていた。

尾崎の執務室に向かうべく廊下を歩いていると、見慣れた姿が顔を出した。


「やぁ御二人さん、仲良く同伴出勤なんて妬けるなぁ」
「何が妬けるだ。誰の代わりに行ってやったと思ってんだ、感謝位しろ手前」
「…ふぅん?そう云う割には随分遅い時間の出勤だね?」


私が中也に連絡したの結構早い時間だったと思うけど、と云う太宰の声にナマエの表情が固まる。

にこりと笑みを浮かべているものの、目が笑っていない太宰の表情程、彼女にとって苦手なものは無かった。



「まぁいいや、姐さんの部屋に行くんでしょ?私も用があるから一緒に行くよ」


そう云いスタスタ前を歩く太宰の後ろ姿を見て、彼に皮肉を云われる原因を作った隣の男にナマエは軽い蹴りをお見舞いする。

痛がる反応を見せながらも、中原からの仕返しは無かった。










「お早う御座います姐様」
「おおナマエ、難儀な生活を強いられさぞ不便じゃろう。可哀想に」


執務室に入ると待っていたかのように尾崎に出迎えられ、抱擁を受けるナマエ。

同じ女性幹部という事を抜きにしても、これまで長い間公私共にナマエの面倒を見て溺愛している尾崎にとっても、今回の騒動は衝撃的なもののようだった。本部のセキュリティの甘さについて首領である森鴎外に直接文句を云った位である。

太宰や中原以上に付き合いが長い尾崎を、ナマエもまた慕っており、男所帯の中で数少ない相談相手になっていた。



「望みの物があれば直ぐに云うのじゃぞ。不都合があれば申してみい、私が鴎外殿に取り次いでやろう」
「そんな、不都合だなんて。御迷惑をおかけして申し訳ありません」
「迷惑なぞ感じておらんわ。愛い其方の事は幼き頃から守ると決めておるからの」
「ふふ、有難う御座います」



「…相ッ変わらずの溺愛ぶりだな」
「姐さん、ナマエの前だと本当顔が変わるよね」


見慣れた光景を前に、太宰と中原は何時まで待てばいいのかと溜息を吐きたい所であった。
すると、今まで存在を消されていたかのような二人に尾崎の視線が向く。



「して、小僧共」


先程までナマエに向けられていた顔と同じ人物の物とは思えない程、冷たく射殺すかのような表情を向けられ、思わず二人は背筋を伸ばした。



「ナマエに万一の事があってみよ。金色夜叉の錆にしてくれようぞ」



まるで喉元に切先を突き付けられているかのような圧力に、太宰と中原は米神から嫌な汗が流れるのを感じた。



「…姐様、今日の任務は良いのですか?」
「何、もうそんな時間かえ?」



ナマエの助け舟により尾崎の圧力から解放され、二人は大きく息を吐いた。


「そうそう、その任務の件で姐さんに相談があるのだけれど」
「…主の場合相談じゃなかろうが」
「えー?そんな事ないでしょう」
「有無を云わさぬ話は相談とは云わん」


太宰と共に部屋を出ようとする尾崎だったが、ナマエを振り返り声を掛ける。


「ナマエや、部屋は好きに使うて構わんからの」



が、その声はナマエの耳には届かなかった。




(この風景、何処かで)




そう思ったと同時に、激しい頭痛に襲われるナマエ。


急に黙り込んだ彼女の異変に気付き、中原が声を掛けた。

「…ナマエ?」


太宰と尾崎も足を止め、ナマエの表情を伺う。
すると額に手を当て、ナマエはその場にしゃがみ込んだ。


「ナマエ、」
「ナマエ!如何したのじゃ!」
「…だ、いじょうぶ、ですよ。ただの…立ち眩みです、」
「真っ青な顔で何云ってんだ手前は」
「何時もの貧血、だってば…」



冷や汗を浮かべて俯くナマエに、何時もの体調不良と違う気配を感じ、太宰はナマエを抱きかかえ立ち上がる。


「兎に角医務室に行こう。姐さん、悪いけど任務は遅れて行くよ」
「…仕方なかろう。ナマエ、無理するでないぞ」
「ごめんなさい、姐様…」
「おい太宰、医務室に電話すんぞ」


太宰の腕の中で周囲の動きに目線を向けながらも、先程の残像が脳内をよぎり目を閉じる。

頭を殴られているような頭痛に耐えられず、ナマエは意識を手放した。




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