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ガチャリ、と扉のドアノブを捻る音がやけに響いた。

真っ白なその部屋の奥に眠る男に繋がれたチューブや点滴の数は減ったものの、未だ予断を許さない状態だった。


男が眠るすぐ横には、変わらず彼女の姿がある。
何をする訳でも無く、ただベッドに横たわる男を見つめていた。





爆発により重症を負った中原が本部の治療室に運ばれてから丸二日、未だ目を覚ます気配は無い。




ナマエのマンションで起きた爆発はマフィアの裏工作により、ガス漏れによる小規模の爆発という事で処理され、メディアにも大きく取り上げられる事は無かった。

しかし、真相としてはナマエの部屋に爆弾が仕掛けられていたという危機迫る内容である。爆発の前、オレンジ色の閃光をナマエが見ていた事や被害の状況から、使用されたのはプラスチック爆弾だと推測された。


あの後、爆音に気付いた太宰がいち早くマンションに戻ると、血塗れで動かない中原にナマエが必死に呼びかけている所を発見。
すぐ様本部に連絡し、応援を要請した後に応急手当をしようとナマエを一度離そうとするが、余りの事に彼女はパニックを起こし絶対に側を離れようとはしなかった。

ナマエも大怪我をしており、至る所から血が流れていたが、彼女の頭には中原の事しか無く、痛みを感じていない様子だった。

到着したマフィア員に中原を任せ、太宰はナマエを落ち着かせ、一緒に本部に帰還し、現在に至る。



本部で治療を受けたナマエはその後中原の側を片時も離れず、今もこうして静かに彼が目覚めるのを待っている。

事後処理に追われ、やっと中原の病室に訪れた太宰はベッドの横に座るナマエに声をかけた。



「ナマエ」


太宰の声に反応は無かったが、構わず足を進める。



「ナマエ、少し休んだ方が良い。あれからまともに寝ていないだろう」


食事も睡眠もまともに摂っていないナマエは、横顔からもやつれた様子が伺えた。

黙ったままのナマエだが、諭すように太宰は話を続ける。



「…中也が目覚めた時にナマエが寝込んでたら怒って暴れそうだ。それを止めるのは御免だよ。それに、ナマエの怪我にも障るだろう?」
「……私はもう平気だから良いの」


漸く口を開いたナマエだったが、発せられた言葉に太宰は目を細めた。

中原のように生死を彷徨う程では無いが、彼女もそれなりに大怪我を負っていた。今も頭や腕、首筋に包帯が巻かれ、見える所にはガーゼや湿布が貼られている。



ただの痩せ我慢か、と再び声を出そうとした太宰だったが、目の前の光景に言葉を失った。


ナマエが腕の包帯を解くと、爆発により吹き飛んだガラスでぱっくりと裂けていた腕の傷が、痕も残さず綺麗に治っていた。

彼女の治癒能力については理解しているつもりだったが、此処まで高い治癒力をまざまざと見せられると流石の太宰も声を出せずにいた。



「…こんな身体だもの、私は平気」


と視線を中原に向けたまま、ナマエはポツリと呟く。



「…私のせい、」



紡がれた言葉を、太宰は静かに聞いた。


「私はどんなに傷付いても治る、気持ちが悪いこの身体なのに、」

「…私のせいで中也が、何で、私じゃないの」


何で、何でと答えのない問いかけを繰り返すナマエを見兼ね、太宰は近付き声を掛けた。



「ナマエ」
「…おさむ、」


漸く合わさった視線。

ナマエは今にも泣き出しそうな表情で、ゆっくりと立ち上がり太宰の胸に縋り付いた。
太宰もまた、少し痩せたナマエの身体を力強く抱き締め、存在を確かめた。



「ナマエ、落ち着いて。中也はまだ死んだ訳じゃない。アレの生命力の強さは君も知っているだろう?まるで害虫並だ。大丈夫、すぐに目を覚ましてまた喚き出すさ」
「…違う、私のせいなの」


太宰の胸に顔を埋めたまま話すナマエの表情は見えなかったが、落ち着かせるように彼女の背中を撫でながら話の続きを促した。



「夢が、」
「夢?」
「…中也が、怪我する夢、…あの時と同じ中也の夢を見たの」



堰を切ったように話し出すナマエ。
まだ冷静に話せる状態では無く聞き取るのが難しかったが、太宰はただ静かに耳を傾ける。



「あの日、朝からおかしいと感じてたの。夢で見た光景が続いて、正夢にしては続くから、変だと思って」


「部屋の前で嫌な感じがして、中也を止めようとしたのに、足が動かなくて。…やっぱり無理矢理にでも止めてれば中也は、」
「ナマエ」


ナマエの言葉を遮り、太宰は口を開く。

両手でナマエの頬を支え自分と目が合うよう上を向かせる。
交わった視線の奥に、震える瞳が見えた。


「中也じゃなければ満足だったかい?他の構成員だったら?私だったら?…ナマエ自身だったとしたら、それこそ中也は怒り狂って何をしていたか分からないよ。勿論、私もだけど。それはナマエも分かっているだろう?」
「……」
「これは誰のせいでも無い。中也も私もナマエも、何時でも成り得る事だ。自分を責めた所で何も変わらないよ」
「……う、ん」
「今すべきは後悔よりも前進だ。その為にもナマエには休息が必要だよ」



額を合わせ、言い聞かせるように語る太宰の声は自分の胸にストンと入り、ずっと不安定だった気持ちが自然と安定していくのをナマエは感じた。

ぼやけて見えていた視界がハッキリと見え始め、そこで初めてナマエは太宰の顔をしっかりと認識した。



「…御免なさい。…私、」
「無理も無いさ。今回の事は私も予想外の事態が多かったからね」
「…そうなの?」
「まぁでも今回の事でおおよそ見当はついたよ」


そう云いながら太宰はナマエを抱き上げ、部屋に備え付けられているソファに寝かせる。


「本当は私の部屋で休ませたい所だけど、ナマエは中也から離れそうに無いからね」
「…うん、有難う」


膝枕をしながら自分の外套を掛けてやり、入眠を促す。



「…ねえ、ナマエ」
「何…?」
「……否、何でも無いよ。さぁ、目を閉じて」
「ん…、」



プツリと糸が切れたように、ナマエは直ぐ寝息を立て始めた。




「…御休み」



ナマエの額に唇を落とし、サラリと揺れる髪を撫でる。


安心したように眠るナマエの寝顔を見つめながら、先程云いかけた言葉を頭の中で思い浮かべた。







”もし、私が中也の立場だったら

同じ様に苦しんでくれるかい?”





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