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「ミミック?」



ポートマフィア内で起きた幹部襲撃事件が太宰とナマエの手によって闇に葬られ一週間。
ようやくナマエの監視体制が解かれ、通常と同じ生活に戻った此の日、ナマエは織田に呼び出され何時もの酒場に居た。

久方ぶりに会う織田に襲撃事件での傷は治ったのか、本当にもう平気なのかとしつこく聞かれ、呆れ気味に呼び出した本題を聞き出したナマエだったが、織田の口から発せられた言葉に首を傾げた。



「組織の名前なの?」
「ああ。何か知らないか?」
「…残念だけど聞いた事無いわ」
「…そうか」


表情からは見えないものの、織田から感じる雰囲気が何時もと違う事を察したナマエは、沈黙を破り声を発した。



「私の執務室の資料の中に何か載っているかもしれない。もう自由に使えるし、幹部専用の資料室でも調べてみるわ」
「悪いな、頼む」
「…珍しく参ってるみたいね」



何かあったの、という言葉を飲み込み押し黙るナマエ。
聞いてしまえば楽なのだが、何時も自分を優しく包み込んでくれる織田とは思えない程鬼気迫る横顔を見て、何も声を掛けられずにいた。



「…安吾が」
「え?」


そんなナマエの考えを察したのか、織田の方から口を開いた。



「坂口安吾。知ってるか?」
「うん…治とも仲良いんでしょう?組織の情報員、よね」
「…その安吾が行方不明になった。今俺は安吾を探し出す任務を仰せつかっているんだが、ミミックはその手掛かりになると考えてる」
「え…?」



行方不明?
その言葉を聞き、ナマエは目を見開いた。

ナマエの知る限り坂口安吾という男は組織内の超機密事項を脳内にインプットしている、云わばマフィアの頭脳である。
そんな彼の行方が分からなくなったのであれば、幹部クラスが総動員で捜索にあたる重要案件だ。

織田の実力はナマエ自身も理解しているが、組織内では下級構成員として雑務ばかり任されている男一人に捜索を任せるなど、ナマエは内心驚きを隠せなかった。



「待って、その坂口安吾が行方不明なのは分かったけど、どうしてミミックなんて組織が出てくるの?」
「…今はまだ憶測だが、安吾がミミックという組織と繋がっている可能性がある」
「…スパイ、という事?」
「まだ断言出来ない。だが、太宰も可能性の一つだと云っている」



太宰の云う事ならば間違いは無いだろう、とナマエは言葉を飲み込む。

脳内で状況を整理しながら黙っていると、織田が持っていたグラスを置きながら視線をナマエに向ける。



「おいナマエ、くれぐれも無茶はしてくれるなよ」
「何よ無茶って」
「俺はミミックの情報さえ手に入れば十分だ。別に奴らと戦争がしたいわけじゃない」
「わかってるわよ」
「…本当か?」
「本当」



そう云ったナマエの表情から感情を読み取った織田が大きな溜息を吐く。
やっぱりお前に聞くんじゃ無かった、と呟く声を聞き流しながらナマエは酒を煽った。


「まぁ、とりあえず何か分かったら連絡するから」
「…無茶だけは、するなよ」
「分かったってば、もう。信用無いわね」
「信用はしているが心配もしている」
「はいはい」


グラスを空にした所でカウンターの上に自分の代金を置こうとすると、織田の手でさりげなく制される。


「え、どうしたの?何時も出してるじゃない」
「今回は俺からの依頼料だと思ってしまってくれ」
「やだ、やめてよ。今更こんな、」
「良いから」



「一回位、俺にも格好つけさせてくれ」




そう云う織田の目があまりにも優しくて、ナマエは身体が動かなかった。


一回位だなんて、また飲めるでしょう?

これが最後みたいに云わないでよ



冗談っぽく笑い飛ばしながら云いたい言葉が、何故か喉の奥に詰まって声にならなかった。




「じゃあ、気を付けて行けよ」
「…うん、」



少し猫背な織田の後ろ姿を振り返りながら、ナマエは静かに店を後にした。




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