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誰かが此方に向かって走って来る。


音と気配を感じて、ナマエはゆっくりと頭を動かした。



気配からして一人、きっと目的はこの先の部屋だろう。
それがミミックの人間なのかポートマフィアの人間なのか、今のナマエにとっては何の関心も持たない事ではあったが、ふと顔を其方に向けると予想外の人間の姿が視界に入り目を見開いた。



「お、さむ…!治!!」
「っ!?ナマエ…!??」



ナマエの声に反応した太宰も、信じられないといった表情でナマエに駆け寄る。
彼女の腕と足が鎖で拘束されている事を確認すると、素早く銃で撃ち破壊した。


「ナマエっ!如何して此処に…!?この怪我は、」
「私は平気、だから…!この先で、」
「一体何があった…?これはミミックにやられ、」
「ッ、良いからっ!!聞きなさい!」
「っ!」


想定外の事態、そしてナマエが大怪我をしているという状況に太宰は未だかつて無い程取り乱していた。

きっと太宰は織田を助ける為に此処へ来たのだろう、とナマエは理解したが、目の前の太宰は其の事すら忘れてしまう程頭に血が上っているように見えた。

今は自分よりも織田が優先、ナマエは太宰の意識を戻すために太宰に向け声を張り上げた。



「この先に作之助がいるの!お願い、…きっと作之助、死ぬ気で、」
「!わかった、…立てるかい?」



ナマエの身体を支え立ち上がる太宰。



しかしその瞬間、奥の広間から二発分の銃声が聞こえた。


















最後に同時に撃ち放った銃弾は、真っすぐ互いの身体を貫いた。



「サクノスケ、」




ジイドの声が静まり返った広間に響く。




「最後まで…素晴らしい弾丸、だ…」



その言葉を最期に、ジイドは倒れた。

その姿を見届け、織田も後方へと倒れこんだ。




「織田作…!!」


織田が倒れたと同時に広間へ入った太宰とナマエ。
倒れた織田の姿が視界に入った途端、太宰は織田へ駆け寄った。



「…さ、くのすけ……」


ナマエは倒れた織田の姿から目を逸らせず、ただただ立ち尽くす事しか出来ないでいた。




「馬鹿だよ織田作…っ!君は大馬鹿だ、」
「…嗚呼、」
「…あんな奴に付き合うなんて…っ」
「太宰…お前に、云っておきたい事がある」
「っ、駄目だ!止めてくれ…!まだ助かるかもしれない、いやきっと助かる!だからそんな風に…っ」

「聞け」



現実を受け入れられずにいる太宰を落ち着かせるように、織田は血濡れの手で太宰の髪を握り声を発した。


「…お前は云ったな、”暴力と流血の世界にいれば、生きる理由が見るかるかもしれない”、と」
「嗚呼、云った、云ったが今はそんな事は…っ」
「見つからないよ」
「っ、」


織田のやけに真っすぐな声に、太宰は息を飲んで織田を見つめた。



「自分でも判っている筈だ…、人を殺す側だろうと救う側だろうと、お前の予測を超えるものは現れない」



織田の言葉が胸にささり、太宰は身体が震えるのを必死に我慢した。



「お前の孤独を埋めるものは、この世のどこにも無い」

「…お前は、永遠に闇の中を彷徨う」


だが、と織田は静かに続ける。

そして頭をゆっくり動かし、入口近くで未だ動かないナマエに顔を向けた。




「その闇から救ってくれる存在に、"お前達"はいずれ気付く時が来るさ」



優しい目で自分を見る織田に、ナマエはようやく震える足を動かした。


一歩、また一歩近付く度に足の震えが強くなる。
早く近くに行きたい、織田の声が聞きたい筈なのに、距離が近付けば近づく程織田との別れがより現実的になるようで、ナマエは鉛のような足を動かすのに必死だった。



「作之助、」



太宰の隣に座り込み、静かに語りかける。

ナマエの存在を近くに感じ、太宰も顔を彼女に向けたが、その表情を見て目を見開いた。




(ナマエが、泣いている)




広間の窓から差し込む夕日に反射して、ナマエの琥珀色の瞳がキラキラと光る。

その瞳から感情として涙が流れる様を、太宰は彼女と出会って初めて見た。



戦場で強大な敵を前にしても、弾丸が身体を貫いても、中原が怪我を負った時も、ナマエは一度も涙を流さなかった。

そんな彼女が織田の為に泣いている。
この光景に、太宰は目を逸らせずにいた。




「…何処にも行かないって、云ったじゃない」
「悪い、な。お前との約束は守れない事が多かった」
「銃の撃ち方、まだ教えてくれるんじゃ無かったの?」
「お前はもう、十分、成長したよ」
「…私に生きる意味をくれたのは作之助なのに、…救って、くれたのは、さくの、すけなのに…、わたしはっ何もしてあげてない、のに」
「ナマエ、」
「…いや、だ」



「嫌だよ…っ、作之助…、おいていかないで…!!」




悲痛なナマエの声が広間に木霊する。


その声から伝わる痛みは、織田の胸にも突き刺さっていた。





「織田作…私は、どうすればいい…?」



太宰の救いを求める声に、織田は静かに口を開く。



「人を"救う側"になれ」
「!」


織田の言葉に、太宰と共にナマエも顔を上げた。



「どちらも同じなら…佳い人間になれ。弱者を救い、孤児を守れ。…正義も悪も、お前には大差無いだろうが…、その方が、幾分か素敵だ、」
「…何故判る?」
「判るさ。…誰よりもよく判る」



「俺は、お前の友達だからな」



言葉一つ一つが太宰の頭に響き、身体に染みわたった。



「…判った、そうしよう」


絞り出したその声を聞き、織田は静かに微笑んだ。
そしてゆっくりとナマエに顔を向ける。



「…ナマエ、」


名前を呼ばれ、ナマエも織田を見つめる。



「笑ってくれ」
「っ、」
「…お前の泣き顔が、こんなに苦しいなんて知らなかった。…最期に、頼む」


掠れた織田の声に、ナマエはまた一粒の涙を溢した。

それを拭きとり、織田に顔を向ける。



「…作之助、」




そして静かに口を開いた。




「ありがとう」





ナマエのその言葉に、織田も笑みを浮かべる。



「…人は、自分を救済する為に存在する、か…」



織田はゆっくりと天井を見上げた。



「確かに…その、通りだ……」





ゆっくりと織田の瞼が降りていく。


太宰とナマエはその最期の時まで動かず、ただ、静かに織田を見守った。





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