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もういい、いっそ開き直ろう。
そうです私は無能です。だからそんな役立たずの私が叔父さんを引き込めたのはとてもラッキーなことなんだ。きっと叔父さんなら私のようなグダグダな計画も立てないだろうし、闇祓いの本領を発揮してさくっとみんなを助けてくれるに違いない。
「セドリック、シリウス……マッドアイやフレッド、リーマスとトンクスもか。──言っておくが、この先はもうセドリックのときのような手は使えんからな」
「……無理やり立場を取って代わること?」
「というより、彼らに代わって死の呪いを受けたりすること──端的に言えば肉壁になることだな」
いや言い方よ。その通りだけど。
「エレナが死の呪いを受けても無事だったのは、おそらくだが──お前が『二魂持ち』と呼ばれる存在だからだ」
聞き覚えのある単語に驚いて思わず「あっ」と小声をあげた。意外そうに「知ってるのか?」と訊かれて組分け帽子が言っていたことを話す。叔父さんは納得したように唸り声をあげた。
「『二魂持ち』という言葉と概念は何世紀も前に書かれた文献が初出なんだが──ジャンルがジャンルというのと、執筆者が魔法界とはなんの関係も持たない普通の人間なものだから、人間界でも魔法界でもほとんど知られていない」
「ジャンル?」
「『前世』だとか『転生』だとか、そんなものだ」
「え、意外。そういうスピリチュアル系って結構人気ありそうなのに」
「眉唾な娯楽前提に楽しむ者はいても、本当に信じる者は極々ひと握りさ」
そんなもんなのか。なんでだろ、ちょっと宗教ぽいからかな。「占い学が楽単だから履修者が絶えないのと同じ理屈だよ」なるほど、一瞬で理解した。誰も(ラベンダーやパーバディを除いて)真面目に受け取ってないってことね。……そういえば水晶玉のときトレローニー先生が言ってた白い部屋ってもしかして病室のことだったのかしら。
「組分け帽子なら知っていてもおかしくはないな。千年の間で『二魂持ち』の生徒を少なからず振り分けてきたんだろう」
「その言い方……叔父さんは組分けのときなにか言われてないの?」
少し苦々しい顔で「ああ、笑われただけでそれ以上は特になにも」と首を横に振った。脳内の組分け帽子が楽しげに「ホホーッ!」と笑う。脳内で想像とはいえうるさかった。そりゃ苦々しくもなるね。
「でも叔父さんは私と同じって……」
「転生したからといって必ずしも『二魂持ち』であるとは限らないんだ。──『二魂持ち』とは、まだ魂が生きているにも関わらず別の世界で新たな魂を目覚めさせてしまった人間のことを指す」
“まだ魂が生きている”
その言葉に先日の病室を思い出した。砂嚢のように重い体。私の死んだはずの年からきっかり十四年過ぎた西暦を示すカレンダー。『はやく起きて』と縋る声。
「『二魂持ち』の人間は本来の魂の場所へ──元の世界へ帰る機会を必ず与えられる。死に直面したときの一度だけ。お前なら心当たりはあるだろう?」
「うん……石になってたとき、声が聞こえた。前世の私の家族が呼ぶ声が。それにこの前も──」
どちらの件も断片的に話して聞かせると、話し終えるころには車内は重苦しい空気になっていた。
「それが、エレナの選択のときだったんだろう──しかし、やはりそうか」
叔父さんは噛み締めるように「そうか」と再び繰り返した。
「お前はこの世界を選んだんだな」
静かになった車内に、そう呟く声がぽつりと落ちる。その声は少し悲しそうだった。
「……でも本当に一度だけなの? 私は二度も──むしろこの前なんかバジリスクのときより意識がはっきりしてたし」
「選ぶことができるのは一度きりのはずだ。もっとも私自身“そう”ではないから絶対とは言い切れない。ここからは推測になるが──エレナはバジリスクの眼を直視したわけじゃない。ゆえにあれの呪いがお前の命を奪うまではいかなかったことが影響しているんだろう」
通常ならその時点で声だけではなく、意識自体がしっかり元の世界の自分の体に戻る、らしい。魔法使いが長い調査の末に記した『二魂持ち』に関する資料にもそう書かれていると教えてくれる。
叔父さんは、私の場合、死ぬでもなく石になっただけだから『二魂持ち』の救済措置とやらがきちんと作用しきらず、結果声だけでの選択に落ち着いた──と自らの仮説を話した。
「しかし『選んだ』とはいえ半端な状況での選択だったから魂も完全には消滅できなかった。だから組分け帽子も『半分壊れかけてる』と言ったんだろうな」
「……てことは、今回意識まであちらに戻れたのは──ピーターのアバダ ケタブラがちゃんと効いてたから?」
「その通り。だが“ちゃんと”というとまた語弊がある。この前話したこともまったくの無関係というわけではない。あいつの呪いがしっかり発動しなかったのも事実だ。なぜピーターに覚悟がなかったのかは分からないが、突然声が出せなくなり焦っていたことは確かだろう。やけくそで無理矢理捻り出されたアバダ ケタブラは──」
「私を短時間昏睡させるに留めた」
「そう、結果的にはな。私は、引っ掛かったまんまだったもう一つの魂が、ピーターの中途半端な死の呪いを引き受けたんだろうと睨んでいる。それによって完全に選択を終え、今度こそあちらの魂は消滅した──もし元の世界の魂が残っていなければ、エレナは、死ぬことはなくとも永遠に眠り続けていたかもしれない」
神妙な面持ちで「今こうして無事なのは奇跡に近いよ」と続けられた。
要するに、もしバジリスクを直視してたらもう一つの魂は消滅してしまい、今回のピーターの死の呪いを肩代わりすることはできず目を覚ますことはなかった、と……改めて言葉にしてみると、あまりの綱渡り加減に今更恐ろしくなってくる。おかしいな、こんなスリリングに生きてきたつもりないんだけど……。
ていうかやっぱりシレンシオだけじゃ無茶だよね。おかしいとは思ってた。私とネビルが疑ってるくらいなんだしダンブルドアも当然怪しく思ってるんじゃ。夏中うっかり会ったときうっかり話しちゃったらどうしよう……。
「──本来ならば選んだ時点でどちらかの魂は消滅、つまり死ぬ。石になるとか曖昧な状態だったから選びきれてなかったんだろ。まあそもそも石にもなってないしな」
「え?」
「あの時のエレナは『石になった』のではなく、言うなれば『抜け殻になった』状態だったんだよ」
よ、よく分からない。さっきから知らない情報しかなくて知恵熱で倒れそうなんだけど。
え、魂があっち行ってこっち行っての宙ぶらりんだったから、っていう意味での『抜け殻』? いまいち想像がつかないけど──というよりこれまでの話で想像がついたところなんてほとんどないけど。で、結局石になったわけではないからマンドレイクの薬が効かなくて目を覚まさなかった? それで十日も寝てたの? そんなこと──いやあったんだよなぁ。信じられなくてもそれが真実だった。寝汚いのとどちらがマシな真相かな。
「そも、『二魂持ち』の人間は普通より魔法が効きづらいんだ。魂が二つあるから、効果が分かれるんだと。ああ、それと動物からも嫌悪されるらし──」
「もういい、一旦ストップ!」
とうとう堪らずタイムをだしてしまった。無理だ、そろそろ止まってくれないとキャパオーバーで爆発する。叔父さんは黙ってくれたがやれやれという風に肩を竦めるばかりだ。情報なんてなんぼあってもええですからねといっても限度があろうかと思われます。
じゃあクルーシオとかめちゃくちゃ痛かったのにあれで軽減されてたの? 絶対うそ……あ、でもルシウス・マルフォイの忘却術が解けたのもそのおかげなのかも? いや分かんないな、あれに関してはあの人の術がシンプルに下手くそだっただけの可能性のほうが高い気がする。そういうことにしとこ。
改めて、あの病室のときのことを思い返す。
声も出せず、指さえ動かせず、瞼を僅かに開くことしかできなかったのは朧気であろうとも私が既に『選んでいた』から。
二魂だかなんだかはまったく知らなかったけれど、それでも直感的に思ったことは正しかったらしい。
ここまで考えるだけでかなり疲れたが、やっと大体の情報を自分の中で整理できた気がする。もう何時間も経った気分だ。車内の時計を確認するが走行しはじめてからまだ二十分も経っていなかった。うそじゃん。時計壊れてるんじゃない?
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