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 ハーマイオニーが熱っぽく『計画』を話してくれたのは、そんな翌日の朝のことだった。

「『闇の魔術に対する防衛術』の自習」
「そう、ハリーを先生に。……どうかしら?」

 朝食後、大広間をでてすぐ、一人で廊下を歩いているところを呼び止められる。話を聞き、こっちも早いなと瞠目した。もっかい言うけどまだ一週間、とちょっとしか経ってない。アンブリッジへの見切りはやぁ。判断が早いのは魔法省くんだけじゃなかった。

「とってもいいと思うよ」
「でしょう! エレナならそう言ってくれると思ったわ」

 ちょっと不安げに窺いたてていたハーマイオニーだったが、私が賛同すれば、嬉しそうに顔色を明るくさせた。しかしすぐに「けどハリーは」と曇らせてしまう。
 ハリーを先生に、というのは昨夜思い付いた案だという。いい考えだと思って提案したのに、ハリーからはまたブチ切れられてしまったらしい。あららどんまい。でも私に話してる時点で全然諦めてないよね。本人から拒絶されてるのに。つよい。

 私はそんな強かさに手を貸すつもりで、しおらしい様子をみせる彼女に「ハーマイオニー」と呼びかけた。

「押してダメなら引くんだよ」
「……スリーパー効果の応用ね」
「えっなにそれ」
「簡単に言うと情報をしばらく寝かせるってこと」

 へえ、と理解しきらないままで言葉を転がす。正直ハーマイオニーが何言ってんのかちょっとよく分かんない。豆電球を光らせようと思って小さなスイッチ押したらどデカいイルミネーションがチカチカ光りだした気分だ。いや分かりづらいな。
 でもとにかく、私が言いたいことは彼女に伝わってるのだろう。ニュアンス的に。この話題をちょっとの間黙っておいて、また時間をおいてから打診しようって言いたかったんだし大体合ってるはず、多分。


 ハーマイオニーは最初のホグズミード休暇──十月最初の週末には人数を集めて企画会議を開きたいと言った。となればあまり長期戦には持ち込めない。

「じゃあとりあえず、二週間である程度メンバーの声掛けしておく?」
「そうね。でも二週間だけで大丈夫かしら……」
「大丈夫だよ。ハリーって結構流されやすいし」

 あっけらかんと言えば、ハーマイオニーは小さく吹き出した。ひどい、と笑いながらも異論はないらしい。彼女は顔に笑顔を残したまま、「そうだ」と私を見る。

「あなたにもぜひ、ハリーの助手として参加してほしいの」

 息を吸い込み、天を仰いだ。窓の外にはすっきりとした気持ちのいい青が広がっている。うーん、素敵な秋空。いいレジスタンス日和だ。

「なんて?」
「あなたも助手として参加するの」

 しまった選択肢間違えたからルート入っちゃった。迂闊、セーブ忘れてた。ログから分岐まで遡らせてくれないかな。
 いや参加するのは全然いいんだよ、むしろずっと前からそのつもりだったもの。でもなんか、なんか『参加』の前に変な言葉がついてるんだよね。不要な枕詞が。

「エレナは叔父さんが闇祓いでしょ? だから色々知ってる魔法も多いだろうし──それに、クラスで最初に、一発で、それも楽々簡単に、消失呪文を成功させたわ」
「(根に持っとる〜……)」

 後半の声の冷ややかさは絶対気のせいじゃなかった。
 私がハーマイオニーよりリードしたのは最初の一回だけなのに。それ以降の授業はずっと並列に進んでいる。というか今ではもうハーマイオニーの方が完璧で上手だ。変身術なのもよくなかったのかもね。ハーマイオニー、マクゴナガル先生のこと特に尊敬してるし。しかもO・W・Lがなんとかだって言われてたから尚更。

 困ったなぁと顔を逸らせば、渡り廊下にいた人物に気付く。ちょうどよかった、責任とってもらおう。

「参加はするよ。一生徒としてね」
「でも──」
「私があのミラクル起こしちゃった元凶──じゃない、今の忘れて──理由の人ならあそこにいるよ」
「……セドリック?」

 私の視線の先を見て、ハーマイオニーは驚いた顔をした。


 セドリックは手摺りを支えに腕を組んで凭れかかり、外の景色をぼんやり眺めていた。山から吹いた風がふわりと彼の黒鳶色の髪を撫でていく。遠くを見つめる憂う瞳に億劫そうな吐息。セドリックはなにかを考え込んでいるのか、なんともアンニュイな雰囲気を醸し出していた。遠巻きに見つめる女子生徒たちがほう、とうっとりした顔をしている。

「(どうせクィディッチのことだろうな……)」
「そう、セドリックに教えてもらってたのね。たしかに彼なら納得だわ……監督生、いえ、首席ですもの」
「でしょ──ヘイ、ミスター・ホグワーツ!」
「ちょっとエレナ!」

 少し声を張ると、セドリックは怪訝そうにこちらを向く。ハーマイオニーが少し焦った声で私の腕を掴んだ。「なにしてるの?!」と小声で囁かれる。え、話しかけちゃだめだった?
 当のセドリックは、茶化した呼び方をしたのが私だと分かると、眉根を寄せて顰め面のようなくしゃりとした笑顔を作った。もたれていた体を起こし、私たちに向かって手を振る。私はその間もなぜかずっと背中を小突かれていた。

「人集めるんじゃないの?」
「集めるわよ、でもだからってセドリックは──だって彼、首席なのよ? こんなこと、参加してくれるわけないわ」
「そういうあなたは監督生ですが」
「それは──」
「やあ、エレナ、ハーマイオニー」

 そんなやりとりの間に、セドリックは近くに来てくれていた。呼び掛けられたハーマイオニーはぎこちないながらも笑みを向ける。

「どうかしたの?」
「あー……ちょっと待って」

 私はセドリックなら喜んで協力してくれると思う。けれど本当にハーマイオニーがだめだと判断するなら言わない。
 そう彼女をじっと見つめる。ハーマイオニーは困った顔で私とセドリックを交互に視線を送り、悩ましげにぎゅっと目をつぶった。そうして少し考えたあと、彼女はセドリックをしっかり見上げ、「実は──」と計画の詳細を語りだす。

「──それで私たち、参加してくれそうな人たちに声をかけようって思ってて」
「いいね、僕もぜひ行きたいな!」

 ハーマイオニーが緊張した声で話し終えると、間髪入れずにセドリックは人懐っこい笑顔を浮かべた。拍子抜けした表情の彼女にほらねという顔をしかけたが、あれ、ハーマイオニーってセドリックと初絡みだっけ。あっそれは申し訳ないことをした。他寮の上級生で首席。話しかけるの躊躇して当然だね。こちらの配慮不足でした、ごめんね。頑張ったハーマイオニーにはあとで百味ビーンズをあげよう。
 内心で決めていると、「人を集めてるっていったよね」とセドリックが慎重な声で言った。

「ええ。習いたい、戦いたいって思う人で、尚且つ──できれば、信頼のおけそうな人を」
「……一人いるんだけど、いいかい?」
「もちろん! 誰か教えてくれたら私が──?」
「いや、僕から直接話をつけさせてほしいんだ」

 真面目な声でそう頼み込まれる。なんだかちょっと、どこか物騒にきこえるのは気のせいだろうか。
 私たちは彼の真剣な剣幕にたじろいで、そんなに言うなら、と彼にお任せすることにした。セドリックは嬉しそうに「ありがとう!」とにっこりする。

「絶対連れてくるから。引き摺ってでも」
「いや無理強いはしないでね」

 そんな爽やかな顔で言うな。物言いが引っかかったのは気のせいじゃなかったらしい。ハーマイオニーがぎょっとした顔をしてセドリックをまじまじ見た。そう……どんなに首席だ甘いマスクだ言われていても、所詮彼もクィディッチ馬鹿のスポ根──そしてついでにいうと鬼コーチ──なのだ。彼女もどうやらその事実に気付いてしまったらしい。

「……セドリックってあんな感じなのね。結構その、強引というか」

 セドリックの背中を見送り、ハーマイオニーが言葉を濁してぽつりと呟く。「少し勘違いしてたかも」どこか複雑そうな顔だった。

「ハーマイオニーってミーハーなとこあるよね」
「なにが言いたいの?」
「べつに? ただニニィは可愛いなって」
「ニ……どうして知ってるの?!」

 本人から聞いたので。
 顔を赤くして慌てふためくハーマイオニーにニヤニヤしていると肩をばしりと叩かれた。痛いけど満足。だってずっと言いたくて言いたくて。もういっそ震えてた。

 今の二人はペンフレンドで、クラムは今でもブルガリアのクィディッチ選手として活躍してるらしい。手紙の中で彼は、私やハリーの近況についても慮ることがあるらしく、ハーマイオニーから一部を読ませてもらった。義理堅い人だ。次返信するときは元気だよって書いたメモとか渡しといてもらお。


 それにしても。

「セドリック、誰を連れてくるつもりだろう」
「もしかしてチョウかしら? あの二人、別れたらしいわよね」
「元カノを引き摺ってくんの……?」

 どうしよう、お任せしないほうがよかったかもしれない。
 ハーマイオニーも同じ気持ちなのか、神妙な顔つきだった。
 

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