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フレッドの集金作業が終わった頃合を見計らって、ハーマイオニーが立ち上がった。
「えー、それでは……こんにちは」
緊張でいつもより上擦った声だ。余計な心配なのは分かってるけどなんだかハラハラする。頑張ってハーマイオニー。
「さて……えーと……じゃあ、みなさん、なぜここに集まったか、分かっているでしょう。えーと……じゃあ、ここにいるハリーの考えでは──つまり私の考えでは──いい考えだと思うんだけど、『闇の魔術に対する防衛術』を学びたい人が──」
随所でハリーに睨みをいれられつつも、ハーマイオニーはなんとか懸命に説明を続けた。「アンブリッジの教えているようなクズは、誰が見ても『闇の魔術に対する防衛術』とは言えない」というくだりでは、彼女は特に自信に満ちた調子で話し、レイブンクローのアンソニー・ゴールドスタインもそれにそうだそうだと合いの手を入れた。
「私は、ええと、この件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました。つまりそれは適切な自己防衛を学ぶということであり、単なる理論ではなく、本物の呪文を──」
「だけど、きみは『闇の魔術に対する防衛術』のO・W・Lもパスしたいんだろ?」
ジニーの恋人のマイケル・コーナーが言った。ハーマイオニーも「もちろんよ」とすかさず答える。
「だけど、それ以上に、私はきちんと身を護る訓練を受けたいの。なぜなら……なぜなら……」
ハーマイオニーは大きく息を吸い込んで覚悟を決めた表情を作った。
「なぜならヴォルデモート卿が戻ってきたからです」
何人かが怯えた反応をみせる。けれど明らかに全員の関心が高まり、その証拠に瞳が爛々としはじめていた。
「じゃ……とにかく、そういう計画です。みなさんが一緒にやりたけらば、どうやってやるかを決めなければなりません──」
「『例のあの人』が戻ってきたっていう証拠がどこにあるんだ?」
ふてぶてしい声がハーマイオニーの話の腰を折る。ブロンドの男の子……だれ? ネビルを見ると彼も『さあ……』という顔で首を振った。
「まず、ダンブルドアがそう信じていますし──」
「ダンブルドアがその人を信じてるって意味だろ」
ブロンドの男子生徒はハリーのことをあごでしゃくる。端の方ではセドリックが頭痛に耐えるようにおでこを抑えていた。ハッフルパフの人のようだ。あー、そういえばいた気がする、こんな人。なんか頑なに棘のある喋り方しかしない人……なんて名前だっけ。ちょうどロンがぶっきらぼうに「きみ、いったい誰?」と聞いた。
「ザカリアス・スミス。それに、僕たちは、その人がなぜ『例のあの人』が戻ってきたなんて言うのか、正確に知る権利があると思うな」
そうだろうか。彼の言い分をちょっと考えてみる。権利、あるか? どうして? 会合に参加してやるからってこと? それはちょっと厄介なお客様の理屈なんじゃないかな。
「この会合の目的は、そういうことじゃないはずよ──」
「かまわないよ、ハーマイオニー」
ハーマイオニーを制してハリーが言った。苛立ちを抑え込んでいるような声色だ。爆発何秒前だろう。ハリーはここにいる全員が敵だと思い込んでいそうな目をしていた。
「僕がなぜ『例のあの人』が戻ってきたと言うのかって? 僕はやつを見たんだ。もちろんそこにいるエレナだって見た。そうだろ?」
話を振られたので頷いた。まあ見たっていっても復活前の布袋だけどね。部屋中から急に見つめられ、少しすわりが悪い心地になる。騙してはない、見たことには見たし……。
「そのことは先学期ダンブルドアが話した。ダンブルドアを信じなかったのなら、僕のことも信じないだろう。僕は誰かを信用させるために午後いっぱいを無駄にするつもりはない」
全員が息を殺してハリーの言葉に聞き入っていた。
スミスはそれでは納得できないとばかりに口を開く。
「ダンブルドアが先学期話したのは、きみたちが『例のあの人』に襲われたってことだけだ。詳しいことは話さなかった。ワイアットがどんなふうに襲われたのかは話してくれなかった。僕たち、みんなそれが知りたいんだと思うな──」
「まず一つ教えてあげようか」
私が食い気味で声を上げると、再び視線が集まったが、気にせず笑顔を作る。さっきからずっと彼の話し方が気になっていた。
「主語は正しく使ったほうがいいよ。“僕たち”じゃなくて“僕”でしょ」
私の指摘にスミスの顔が赤くなった。
クソデカ主語はやめな〜? 全生物代表にでもなったつもりなの? そんな勝手なことしたら炎上するぞ。というかしてるよ、現在進行形で。
「私もきみに訊きたいんだけど、私がどんなふうに襲われたか知って、それがいったいなんになるっていうの? 人が傷付く瞬間がそんなに気になるわけ?」
「そうじゃない。僕はちゃんとした真実を知っておきたいってだけで……」
「真実はヴォルデモートが蘇った。だから私たちは自衛しなきゃいけない。それだけだよ」
これ以上になにが必要なのか。スミスは不満げな顔で「でも証拠はないだろ」と返した。あーあ、なるほどね。つまりこれ完全に私のせいじゃん。彼の意固地の理由が分かり、思わず苦笑した。
「それ、『町中に闇の印が打ち上げられれば満足』って聞こえるけど合ってる?」
「違う、別に僕、そんなことは言ってない。ただ襲われたっていうわりには、きみは最初倒れてただけで今は別にどこも怪我をしてないし、信憑性に欠けてると思う──」
「じゃあなにが証拠足りえるのかな。私が死んでればよかった?」
無感情に聞いて首を傾げれば、スミスはなにか言おうとした口の形で動きを止めた。誰かががヒュッと息を呑んだ音がする。
私の存在が復活の不信を煽っているというのは分かってはいた。でも改めてそういう場にこうして直面すると申し訳なさしかないな。ハリーの人生を余計にハードモードにしてしまった。ごめんね。そんなつもりじゃなかった。後悔の多い生涯を送っています。
私はすっかり固まってしまったスミスを見る。ここで「そうだよ」って即答しないあたり根が腐ってるってわけでもないんだよねこの子。葉っぱはやや枯れてそうだけどね。
「生きてる私から言えるのは──もう何遍も言ってることだけど──ヴォルデモートが蘇ったってことだけ。証拠が欲しいなら空に悪趣味な髑髏が並ぶのを待つしかないね」
一先ずこの頑固な彼を黙らせる、もとい納得させるのが生き残ってしまった私の義務だろう。
「そもそも、ヴォルデモートがどうやって私とハリーを襲ったかなんて知る必要はないと思うけど?」
その言葉にスミスがむっと反発するように眉をひそめた。私は私で、つい喧嘩御用達の語尾をつけてしまったことをすぐに恥じる。色々言ってるがスミスの気持ちも分からなくはないのだ。証拠がないから信じられないっていうのも結局は私のせいなんだし。
だからここは冷静に、穏やかに。
「私たちはヴォルデモートのように誰かを傷付けるために集まったんじゃない。自分と、自分の大切な人たちを守りたくて集まったはずだから」
ついでにアルカイックを意識して笑っておく。この手のタイプに付け入る隙をみせてはいけないってばっちゃんも言ってた。
「……でも、そういうことが全部どうでもいいっていう人は、今日はもう帰った方が有意義だよ」
お帰りはあちら。
最後はこの場にいる全員へ向けてそう言って、出入口の方を手で示す。スミスは入口から一番遠い場所、それでいてハリーの目の前に座っていた。ダンブルドアも言ってたけど好奇心は罪じゃないよ。ただきみは使い方がよくない。以上。
誰も、ザカリアス・スミスさえ席を立たない。「それじゃ」緊張がぶり返してしまったのか、ハーマイオニーの声がまた上擦っていた。
「さっきも言ったように……みんなが防衛術を習いたいのなら、やり方を決める必要があるわ。会合の頻度とか場所とか──」
「ほんとなの?」
長い三つ編みを一本背中にたらした女生徒が、ハリーを見ながら口を挟んだ。
「守護霊を創り出せるって、ほんと?」
集まった生徒の関心を受けながら、ハリーは身構えるように「うん」と肯定した。けれどさらに「有体の守護霊を?」と続けられて、目をぱちぱちさせた。
「あ──君、マダム・ボーンズを知ってるかい?」
「私のおばさんよ。私、スーザン・ボーンズ。おばさんがあなたの尋問のことを話してくれたわ。それで──ほんとなの? 牡鹿の守護霊を創るって?」
ハリーが「ああ」と答えると、リーが心底感心したように「すげえぞハリー!」と言った。他の生徒たちも似たような反応をする。ハリーは少し恥ずかしそうに口ごもった。
「ああ……でも、できるのは僕だけじゃない。エレナも──そう、僕、エレナから教えてもらった」
「これはうそです!」
「三年生のとき、ルーピン先生と一緒になってアドバイスをしてもらったんだ」
瞬発的に否定したが、ハリーは腹を立てた素振りすら見せることもなく、ガン無視した。とんでもねえハリーだ。今日の主役はきみなのに。話題をこっちに持ってくる必要ある? ないよ。
「ハリーはダンブルドアの校長室にある剣でバジリスクを殺したんだよね」
「まあ、うん、それは──」
「それ、聞いたことある! 先学期あの部屋に行ったとき、壁の肖像画の一つが僕にそう言ったんだ……」
というわけで戻させてもらおう。二年の頃の話をすると、テリー・ブートがそれに乗っかって興奮したように便乗してくれる。
「あ──まあ、そうだ、うん」
「それに、一年のとき。ハリーは『言者の石』を救ったよ──」
「『賢者の』」
「そう、それ──『例のあの人』から」
ハーマイオニーに訂正されつつ、今度はネビルがハリーの功績を語る。ハンナ・アボットの両眼がガリオン金貨くらいまん丸になった。「それに、まだあるわ」チョウがハリーを見て微笑みながらよく通る声で話し出す。
「先学期、三校対抗試合でハリーがどんなにいろんな課題をやり遂げたか──ドラゴンや水中人、大蜘蛛なんかを色々切り抜けて……」
チョウは言葉を切って、逡巡したあと「もちろん、エレナもだけど」と付け足す。えっと驚く私に、チョウはちょっとバツが悪そうにはにかんでいた。ど、どうしたんだろ、ブロ解してくれたのかな。
困り果てた顔のハリーが「聞いてくれ」と言いづらそうに切り出すと、みんなはたちまち静かになった。
「僕……僕、なにも謙遜するとか、そういうわけじゃないんだけど……僕はずいぶん助けてもらって、そういうことをしたんだ……」
「ドラゴンのときは違う、助けはなかった。あれはほんとに、かっこいい飛行だった……」
マイケル・コーナーの賛辞をうまく否定できず、「うん、まあ──」とまごつけば、スーザン・ボーンズも今年の夏休みの吸魂鬼を持ち出した。
「そりゃ、まあね、助けなしでやったことも少しは──でも僕が言いたいのは──」
「で、きみ、いたちごっこでいつまでもそう言ってそういう技を僕たちに見せてくれないつもりかい?」
「いいことを教えてやろう。減らず口を叩くな」
褒めの嵐を止ませたのはやっぱりザカリアス・スミスだった。超意訳で好意的に捉えると『そんなことできてすごい、ぜひ教えてほしい』ってことだろうから……許したって……と思ったが、『いたち(ウィーズル)』がムカついたのか、ロンはばしりと吐き捨てた。
「だって、僕たちはポッターに教えてもらうために集まったんだ。なのにポッターはほんとうはそんなことなんにもできないって言ってる」
「そんなこと言ってやしない」
「耳の穴、かっぽじってやろうか?」
残念ながら“ウィーズル”はもう二匹いる。ジョージは『ゾンコ』の紙袋から、なにやら長くて危険そうな金属の道具を取り出した。随分物騒な見た目の耳かきだ。
「耳以外のどこでもいいぜ。こいつは別に、どこに突き刺したってかまわないんだ」
「さあ、じゃあ! 先に進めましょう……」
憮然として言い放つフレッドに、ハーマイオニーが慌てて言った。まじでそれは本来どういう用途なの。あとで聞こう。
「要するに、ハリーから習いたいということで、みんな賛成したのね? ……いいわ、それじゃ、次は何回集まるかね。少なくとも週に一度は集まらなきゃ意味がないと思います」
「待って、私たちのクィディッチの練習とかち合わないようにしなくちゃ」
「僕たちのとこも頼むよ」
「もちろん私たちの練習ともよ」
アンジェリーナの言葉にセドリックやチョウも次々に賛同した。
「どこか、みんなに都合のよい夜が必ず見つかると思うわ」
ハーマイオニーが少しイライラした声で言う。疲れが見え隠れしていた。ここまで決めるのにどれだけかかったかな。まあ時間を食った半分以上は私のでしゃばりのせいなんですよね。そう思うとちょっと気まずくなった。
「私──私、考えたんだけど」
日時や場所については追って連絡すると決まった後、ハーマイオニーは躊躇いつつも、ついに例の署名リストを鞄から取り出した。
「ここにいる全員名前を書いてほしいの、誰が来たか分かるように。それと──」
ハーマイオニーは息を吸い込んで、意を決したように声を張る。
「私たちのしていることを言いふらさないと、全員が約束するべきだわ。名前を書けば、私たちの考えていることを、アンブリッジにも誰にも知らせないと約束したことになります」
ハーマイオニーの言葉に、全員の視線がサッと一人へと走る。視線を一身に受けた、たった一人のスリザリン生は、気だるげに目を細めて深いため息を吐いた。壁から背中を離し、コツコツ靴音を鳴らしてハーマイオニーの方へ近付いていく。
「貸して」
「あ──ど、どうぞ」
レベッカは無愛想に手を突き出して羊皮紙と羽根ペンを受け取ると、名前を書き込む。スリザリン生である彼女がいの一番に名を書き連ねたことに信じられないという空気が充満した。レベッカは我関せずとばかりに定位置へ戻ると、またバタービールを口に運んでいる。結局気に入ったんかい。
「じゃあ、次の人?」
ハーマイオニーがわざとらしいほど明るく紙をみんなに見えるように掲げる。リストの一番上には、『レベッカ・スミルノフ』と大振りな斜め書きがしっかりと記されてあった。
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