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朝起きて、談話室へ降りていこうとすれば女子寮に続く階段が滑り台になっていた。なんて大胆なDIY。ちゃんと寮監から許可とってる? それに下りはいいけど上るときどうするのこれ。
「男子生徒が女子寮に入ろうとしたみたいね」
「ああ、それで」
ハーマイオニーのあとから滑り、談話室へ下りると、ロンが私たちを出迎えた。髪をくしゃくしゃにして不機嫌そうに口を曲げている。その横ではハリーとネビルが笑いをこらえた顔をしていた。
「ハーマイオニーは僕たちの寮に来ていいのに、なんで僕たちはだめなんだ──?」
「古くさい規則なのよ。『ホグワーツの歴史』に、創始者たちは男の子が女の子より信用できないと考えたって書いてあるわ。それはそうと、どうして入ろうとしたの?」
「きみに会うためさ──これを見ろ!」
ロンによって掲示板へと引っ張られるハーマイオニーについていき、私も人だかりの中に潜り込んで掲示を見る。
古本譲渡の広告や、アーガス・フィルチのいつもの校則備忘録、クィディッチ・チーム練習予定表、『蛙チョコ』カード交換しましょうの広告、双子のバイト募集広告や落し物のお知らせ。グリフィンドールの掲示板には、馴染み深いそれらの掲示を全部覆い隠してしまうほどに大きな『教育令第二十四号』が貼り出されていた。
「『組織、団体、チーム、グループ、クラブで高等尋問官の承認なきものを結成し、またはそれに属することが判明した生徒は退学処分になる』……」
「誰かがあいつにべらべら喋ったにちがいない!」
「それはありえないわ」
怒るロンに、ハーマイオニーは石のように表情を硬くしながらも低い声で否定した。
「きみは甘い。きみ自身が名誉を重んじ、信用できる人間だからといって──」
「ううん、誰もできないっていうのは、私がみんなの署名した羊皮紙に呪いをかけたからよ」
ハーマイオニーはおごそかに口にした。
「誰かがアンブリッジに告げ口したら、いいこと? 誰がそうしたか確実に分かるの。その誰かさんは、とっても後悔するわよ」
「そいつらはどうなるんだ?」
「そうね──エロイーズ・ミジョンのニキビでさえ、ほんの可愛いそばかすに見えてしまう、ってあたりかな」
彼女は結局具体的にどうなるのかを明確にしないまま、「さあ、朝食に行きましょう。他のみんながどう思うか……全部の寮にこの掲示が貼られたのかしら?」と独り言を呟きながら歩き出した。
「僕、そりゃ言うつもりなんてまったくないけどさ」
肖像画の穴へ向かうふわふわ靡く栗色の髪を眺めながら、ロンが複雑そうに言う。
「でもたまに、すごい怖いよ、アイツ」
あれがきみの未来の嫁や。
そんな気持ちでロンの肩をポンと叩いた。
大広間に入ったとたん、アンブリッジの掲示が全寮に貼られたのだとはっきりした。それぞれのテーブルをみんな忙しく往き来し、掲示のことを相談しあっている。お喋りが異常に緊張していて、大広間の動きはいつもより激しかった。
私たちが席に着くや否や、ディーンや双子、ジニーが待ってましたとばかりにやってきた。
「読んだ?」
「あいつが知ってると思うか?」
「どうする?」
矢継ぎ早に聞かれ、ハリーは近くに先生が誰もいないことを確かめる。
「とにかく、やるさ。もちろんだ」
「そう来ると思った」
静かに、はっきりと言ったハリーにジョージがにっこりしてハリーの腕を叩いた。「監督生さんたちもかい?」フレッドがロンとハーマイオニーを冷やかすように見る。
「当たり前だろ──おい、レイブンクローのやつらが来るぞ。それからアーニーとハンナ・アボットも……あ、いやこっちは来ないな、セドリック・ディゴリーが止めてるみたいだ」
「あの人たち、おバカさんね。いまここに来たらだめじゃない。本当に怪しまれちゃうわよ──座って! あとで!」
ハーマイオニーがレイブンクローの生徒に必死で身振り手振りをして追い返そうした。ジニーが「私、マイケルに言ってくる」と焦れったそうにベンチをくるりと跨いで立ち上がる。
「まったくバカなんだから……」
去り際に聞こえたジニーの声に辛辣だなという感想を抱きつつ、私はスリザリンのテーブルを見遣る。レベッカは、周りの生徒から少し離れた場所で、気怠そうにちびちびとマフィンを齧っていた。彼女の肌は、朝だからなのかいつもより白く見えるけれど、呪いのできものがあるようには全く見えない。
「(まあ当然だよね)」
「やっぱりきみもあいつがチクったって思うか?」
「えっ? いや、思ってないよ」
突然ドンと右肩に衝撃が走る。左側に人の熱を感じて見上げると、ジョージが私の肩に腕を回していた。彼はスリザリンのテーブル──レベッカのことを険しく睨めつけている。私が即座に否定すると、彼は「なんだよ」と拗ねたように言った。
「俺は絶対あいつが犯人だと思うね──」
「レベッカはそんなことしない」
「……随分と仲がいいんだな?」
「まあね。それに裏切った人は一目で分かるようにしてるってハーマイオニーが言ってたし」
「フン、どーだかな」
ジョージは「信用なるかよ、あんなやつ」と吐き捨て、けっ、とやさぐれた様子で私の肩から腕を外した。どこか刺々しい態度のままフレッドの方へと戻っていく。
そっか、セドリックと同級生ってことは彼らとも同級生ってことになるのか。あたりまえ体操なことだが今更気付いた。あんまり仲良くないんだろうなぁ。フレッドのほうはそんな気にしてなさそうだけど。ジョージは──フレッドよりかはドングリ三つ分くらい──真面目な性格だから気になるのかな。
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シリウスがグリフィンドールの談話室の暖炉に遊びに来たらしい。それでアンブリッジと思しき手に捕まりかけたとか。
教育令二十四号が掲示された翌日、そのことを三人から教えてもらった私はあんぐりと口を開けた。
「えっめちゃくちゃバカなん?」
ついうっかり零れてしまった本音に、慌てて口を抑える。しかし私のド直球で失礼な物言いを、ロンとハーマイオニーが咎めることはなかった。ハリーでさえも沈黙している。てっきりハリーからは睨まれるか怒られるかを覚悟したのにまさかのノーリアクションとは。肩透かしを食らって目を丸くする私にハーマイオニーがこっそり耳打ちした。
「シリウスはね、私たちのやろうとしていることに反対してるのよ」
「……まじでか」
ハーマイオニーが神妙な面持ちで頷いた。どういう風の吹き回し? こういう無茶大好きなはずでしょ、あの人。なんたって初代悪戯仕掛け人なんだから。
なんでも、HN:スナッフルズさんのお話では。
『身を護る手段を学ぼうとするその姿勢はおおいに結構。だがきみたちは未成年だし、学校にいる限りは安全なのだから、危険を侵す必要はない。ただでさえ目立つんだから大人しくしていなさい』
とのことで。
それはもうびっくりするほど大反対していたらしい。アンブリッジが現れなければ説教で一夜を明かすのでは、と思わせるほど頑なさだったとロンが疲れ顔で語った。
それ聞いて驚くどころじゃなかったよね。えっだれぇ? まともで普通の保護者じゃん……。
暖炉の中の生首に、厳しくそう叱りつけられたハリーは『闇の魔術防衛』の企画に、すっかり自信を失ってしまった──どころか、俄然やる気になったらしい。
「スナッフルズは僕を子ども扱いしすぎなんだよ」
「アッ……ウ、ウン……ソダネ……」
心当たりがありすぎる単語につい片言になる。そのことに気付かず、ハリーは「僕はもう十五歳だ」と面白くなさそうに声をとがらせた。あ、あ、あー……ごめんシリウス。ほんとにごめん。
己の失敗をまたもや察知した私は、心の中でロンドンへ向けてごめんねの電波を放った。どうか受信してくれますように。届け! 奇跡じゃなくていいから。……でもハリーの反抗期は宿命ってやつだししょうがないのかも? そう思うとなんか私のせいじゃない気がしてきた。うん、そうだねきっと。電波取り消しで。今のは夢ってことで。
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