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シリウスはハリーが学校に戻るのがさみしくてたまらなかったらしく、日を追う事にまたソフィアやクリーチャーにきつく当たっていた。まあ二人とも微塵も響いていない様子だったけど。半年も経てばソフィアもさすがに慣れてきたらしい。「二人きりだとここまでじゃないのよ」とかくすくす惚気られたし。そうでしょうとも、紅茶にいれるミルクと砂糖の分量を完璧に把握してるくらいなんだからね。
ともかく、そんなどうしようもない名付け親を前にハリーの反抗期も鳴りを潜めるほかなかった。子どもに気を遣わせるのってどうなんだろ……まあシリウスが気にならないならいいけど。
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叔父さんたちが退院したのは休暇最後の日だった。みんなが喜んだが、中でもクリーチャーは大喜びしていた。一度もお見舞い行けなかったもんね。彼は特別豪華な食事を用意しようといたく張り切っていたので、私たちはそれに相応しいような歓迎の飾り付けを食事の間に施した。
「叔父さーん、夕飯の準備できたよ」
帰るなり部屋に篭った叔父さんを呼びに、扉の前で声を張る。足音がして、扉が開いた。「いい匂いだ」なんて言う叔父さんに続いて部屋から出てきた人物に目を見張る。
「ソフィア? どうしてここにいたの?」
「あー……ちょっとエドガーに呪文のアドバイスをね。闇祓いを目指そうかと思った時期もあったから」
ソフィアが柔らかく微笑んだ。目元が赤くなっている──まるで泣いたあとかのように。自然となにをしたのかと疑う目付きになる私に叔父さんが肩を竦めた。
「神経系に関する魔法や血液の巡りを早くする魔法を練習してたんだよ。この手の呪文は調整が難しいから、最初は上手くいかなくて涙腺や汗腺ばかりに作用するんだ。この魔法が上手く使えれば身体能力の爆発的な強化が可能に──ああもうめんどくさいな、要するにバフだよ」
「なるほど」
分かりやすい説明に納得する。ソフィアだけが「バ……?」と首を傾げていた。それにしてもいいな、その魔法。私にも教えてほしい。「ちなみに」なにか言う前に叔父さんが私を横目で見た。
「繊細な技術を要する魔法だから、大雑把なお前には無理だぞ」
「ああそうですか!」
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古い遊園地にあるジェットコースターみたい──というのが私の初『夜の騎士バス』の感想だ。あの安全ベルトしてるのに体ガンガンぶつけるやつね。何度も椅子から吹き飛ばされて全身がアザだらけになったし『あっこれ首もげたわ』って三回は思った。法定速度守ってる? 守ってるとしたら法定が狂ってるねきっと。魔法省イズベリベリクレイジー。知ってた。
あまり幸せなスタートとはいえなかった休暇は、こうしてこれまた微妙な終わりを告げた。
行きは移動キーで帰りは夜の騎士バス。なぜ魔法族は三半規管を鍛えることに全力を尽くすのか。もっと楽な移動方法……例えばどこにでも行けるドアとか開発してくれないかな。でもあれは一応科学の叡智だから無理なのかな。
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「ハリー、今夜ちょっと忍びの地図借りたいんだけど」
「いいよ。僕もきみに借りたいものがあるんだ」
休み明け初日の夜。夕食も終わったあと、寮を抜け出した私は、誰にも見つからないように図書館の廊下の先にある教室に向かった。
数年ぶりに訪れた空き教室は、初めて来たときよりもさらにずっと埃っぽくなっていた。
灯りをつけたり机に被っていた分厚い埃を取り払ったりして掃除をしていると、不意にガラガラと扉が引かれる。
「あれ、なんでアンブルも?」
「こいつ、ずっと離れないんだ」
ドラコは少し困った顔をしながら、肩に止まっているアンブルの眉間あたりをカリカリする。アンブルは嬉しそうに鳴き声をあげて彼の手に擦り寄った。甘えきってる……。
「今朝なんて鞄に潜り込もうとしてたんだぞ」
「うそ、ごめん。普段はそんなことしないんだけどな……」
そういえば叔父さんと両親以外の人に手紙を運ぶのは初めてか。加えて今年の配達は叔父さんに数回。それさえも検閲が始まってからはご無沙汰だったし……さては浮かれてるな。ため息をつきながらアンブルを掴む。廊下へ放るように手を離せば、フクロウはフーフー鳴きながらぐるぐるとその場を旋回した。部屋の中に、というよりドラコの元へ戻ろうとするのを慌てて阻止する。
「こら、だめ! 小屋に行きなさい!」
きつく言えば、アンブルはお腹のあたりをもっさりと膨らませ、翼を大きく広げた。カチカチ嘴まで鳴らしてくる。こ、こいつ威嚇してる! こいつめと私も腰に手をあてて睨み返す。私が引かないと分かったのか、アンブルは素早く私の方へ飛び込んできた。私の手を容赦ない強さ──と言ってもまったく痛くはないけど──でひと噛みして、くるりと反転し廊下の窓から闇夜の中へと羽ばたいていく。
「え、反抗期……?」
ちょっとショックだ。なにあの子。フクロウの気持ちの本でも買おうかな。
落ち込みながら扉を閉め、叔父さんが使っていた人避けの呪文をかけていく。一通りかけ終わり、ドラコに向き直ると、彼は部屋の中央に立ち尽くしてキョロキョロしていた。「この教室、初めて来たな」と、部屋の隅で逆さまに置いてあるゴミ箱を見ながら呟く。
「もう随分長いこと使われてないだろ? こんなとこ、いつ知ったんだ?」
「一年生のときちょっとね」
ドラコと犬猿の仲の彼に連れてきてもらった、とはさすがに言わず、かわりに「前はここに鏡があったんだよ」と壁を指差した。あの鏡、今はどこにあるんだろう。……ていうかあの夜ダンブルドアあそこに居たのかな。うわ完全に忘れてた。どうしよ、余計なこと言ってないよね?
「おい、それで今日はいったいなんなんだ?」
「え──あ、まずは来てくれてありがと」
「別にいいが、用件くらい書いておいてくれ」
「今後もこんな感じで呼び出すから慣れてほしいな。さすがに校内での手紙の検閲まではまだ行ってないけど、もし見られたらまずいし」
「……なにをするつもりだ?」
私の言葉にドラコが眉をひそめた。こんな場所へわざわざ呼び出したのはお喋りのためじゃない。
「ドラコに守護霊の呪文を習得してもらいたいの」
彼の顔からサッと血の気が引き、青白くなった。硬い表情のまま数度口を開け閉めし、やっと言葉をだす。
「むりだ」
「どうして」
「その呪文は成人した魔法使いですら扱いが困難なほど高度だ。それに、僕は──父上は……」
ドラコは一度口を噤み、「むりだ」と繰り返して力なく首を横に振った。
「闇の魔法使いは守護霊の呪文を正しく行使できない。過去にそういった実例もある」
「知ってるよ、ラクジディアンの逆噴射事例でしょ」
創り出した守護霊が蛆虫になって食われてしまった闇の魔法使いの事件だ。守護霊について調べたから知っていたけど、もしかして親が死喰い人だったら教えれるのかな。
「『闇の魔法使いは創り出すことができない』って、うそっぱちだと思う」
「でもラクジディアンは──」
「だってアンブリッジが使えるんだよ」
「なんだって?」
ドラコが唖然として目を丸くさせた。
「あいつの罰則知ってる? 呪いの羽根ペン使って手の甲に刻ませるんだよ。インクは血だしさ。あの女、どこをとっても完璧闇の魔法使いじゃない?」
「……おいお前、この前罰則って言われてたよな」
「そうだっけ? 忘れちゃった──まあとにかく、あいつにできるならドラコにもできる、いやできないわけがない! そもそもドラコは闇の魔法使いなんかじゃないんだから」
要は心の問題だと思う。自分で自分をどう定義するかが鍵なんだ。ドラコは時たま悲観的になりすぎだったり、少し自分を卑下しすぎるきらいがある。ルシウス・マルフォイの教育のせいか?
まだなにか言いたそうなドラコを前に、呪文を唱えて大きく杖を振る。銀色のフクロウが先程のアンブルのようにドラコの周りをパタパタ飛んだ。守護霊だなんて大層な名前のわりに、神聖さの欠片もない動きだ。ドラコは思わずといったように吹き出した。さっきみたいに、頭を撫でようとする。そうっと手をあてがうドラコは優しい顔をしていた。
そんな表情できるのに、どうして自分を闇の魔法使いだなんて思えちゃうのかな。撤去された鏡が恋しい。自分で確認してごらんよ、まったくさぁ。
「可愛いでしょ」
「そうだな」
「使うたびに幸せになれて勇気がでるんだよ」
「……そうだな」
「だからドラコにも使えるようになってほしいの」
フクロウが溶けるまでたっぷり悩んだあと、ドラコは「わかった」と掠れ声を絞り出す。くしゃりと顰めて顔を泣きそうにしながら微笑んでいた。
『死喰い人は守護霊をだせない』
有名な話だ。でもドラコはまだ死喰い人じゃないし、闇の魔法使いなんかでもない。だからまだ間に合う──いや、いつであろうと間に合わないことはないとは思うけどね。スネイプ先生だって多分使えるようになったのリリーさんが死んだあとだろうし。でも急がなきゃいけない。
だってこの魔法は来年のドラコにこそ必要だ。守護霊はきっと心の支えになってくれるはず。
思い出も愛もプレゼントも貰ってばかりだから、なにか少しでもお返しがしたかった。こんなことじゃ足りないと思うけど。
「次までにボガート探しておくね」
「なんで──まさか吸魂鬼に化けさせる気か?」
散々呪文を叫んで疲れきった顔になったドラコに「絶対にやめろ」と怒られた。まだ煙すら出せてないのにやっぱり次回じゃ早いかな? でもあんまり時間かけられないからなぁ。今年度中には習得してもらわなきゃいけないし。うん、やっぱり見つけておかなきゃ。
そう決意しながら、ドラコの口にチョコレートを突っ込んだ。
「頑張るね!」
「本当に勘弁してくれ……」
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