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 リータをホグズミードの出口まで見送り(ウザがられたけど)、四人でホグワーツへの帰り道を歩く。

「エレナって捻くれ者に好かれやすいのね」
「初めて言われた……」

 ハーマイオニーがしげしげと言う。え、納得いかない……誰のこと指してる? あ、レベッカ? それなら納得いく。

「リータよ。あの人、すっかり毒気が抜かれてたじゃない」
「いつの話? 終始フナムシを見る目を向けられてたんだけど」
「それにしたって、よくあんなこと言えたね、きみ。僕、あいつの記事に誇りなんて感じたこと一度もないよ」
「……まあ、私は一度も槍玉にあげられてないっていうのもあるかもね。部外者目線ではそう感じることもあったよ」

 なんにせよ、今はもう彼女が協力者であることには違いない。正直心配は要らない気もするけど、念の為叔父さんに彼女を保護してあげるように伝え……ってどうしよ、フクロウ便は使えないんだった。

「(……守護霊試してみようかな)」
「ねえルーナ、掲載はいつ頃になりそう?」
「さあ……パパが近々『しわしわ角スノーカック』を目撃したっていう記事が寄稿されるかもって言ってたから」

 グリフィンドールにとって悪夢の曲──「ウィーズリーこそ我が王者」をハミングしながらルーナがのんびりと言った。

「それって大切な記事だもン。だから、ハリーのは次の号まで待たなきゃいけないかも」

 三人で顔を見合わせる。猛烈に口を突っ込みたそうなハーマイオニーに、やめておけとハリーと私は厳かに首を左右に振った。

「ハリーは今日チョウとデートなんじゃなかったの?」
「え──えっ? なんでルーナきみ……」
「同寮生だもんね」

 チョウ、談話室で自慢したりしてるのかな。微笑ましい。そんなことを思っていれば、ハーマイオニーが「それがハリーったら!」と先程の口止めのお返しだと言わんばかりにすごい勢いで事のあらましを話し出した。


 最初は『普通に』できていた。
 ハリーは顔をちょっと赤くしながら口を挟んでそう言い張った。

 けれどチョウがピンクだらけのカップル御用達な可愛いお店(ハリー曰く『アンブリッジの部屋にそっくりなお店』)に連れて行ってからがダメになりだしたんだと。
 ハリーは、なんとそこで『実は今日ハーマイオニーに呼ばれてるんだけど』と言ってしまったという。バレンタインの、初デート中に、他の女の元へ。わあ、なんて悪手……。
 それを聞いたチョウはハリーに、セドリックとこの店に来ただとか、近くの席で恋人とキスしまくっているロジャー・デイビース(誰?)にデートに誘われただとか、そんなことをペラペラと話し始めたらしい。嫉妬してほしかったんだろうな……他の女に会いに行くハリーの愛情を試そうとね……うーん、乙女心。そして最終的には泣きながら店を出て行ってしまった、と。
 いやこれ、チョウもチョウだけどね……ハリーもね……。そう思ったのががっつり顔にでてしまった。ハリーがムッと私を睨む。

「なんだよ、僕が悪いっていうのか?」
「悪いっていうか、いや悪くは……うーん……」
「あんた、案外無神経なんだね」

 まごついているところに、ルーナがいつもの歯に衣着せぬ物言いをした。いやほんと、ルーナの発言って痒いところに手が届くな〜。矛先が自分に向いたらと思うと恐ろしいけどね。

「“僕が”? 無神経? 二人でうまくいってるなと思った次の瞬間にセドリックやデイビースやらのことを言い出したチョウはどうなんだ?」
「ねえハリー。とにかくあなたは『ハーマイオニーに会いたい』なんて言うべきじゃなかったのよ」

 宥めすかそうとするハーマイオニーに、ハリーが愕然とした表情で「だって、だって」と急きこんだ。

「だって──十二時に来いって、それにチョウも連れてこいってきみがそう言ったんだ。チョウに話さなきゃ、そうできないじゃないか?」
「言い方がまずかったのよ。こう言うべきだったわ。──ほんとうに困るんだけど、ハーマイオニーに『三本の箒』に来るように約束させられた。ほんとうは行きたくない、できることなら一日中チョウと一緒にいたい」

 つらつらと喋るハーマイオニーにハリーの顔がサッと赤くなる。

「だけど残念ながらあいつに会わないといけないと思う。どうぞ、お願いだから僕と一緒に来てくれ」
「渋々感を演出したほうが、ハリーの本意じゃないことが伝わってたよきっと」
「ええ……それに私のことをとってもブスだ、とか言ったらよかったかもしれないわね」

 ハーマイオニーがふと思い出したように付け加えると、ハリーは不思議そうな顔をした。

「だけど、僕、きみがブスだなんて思ってないよ」

 今スタンドが。セドリックのスタンドが見えた気がする。「ハリー、あなたったら……」とハーマイオニーが笑った。

「ハリー、これあげる」
「え、ありがとう……」

 いい子だねの気持ちを込めて、私はハリーに鬼灯キャンディーを一つ渡す。訝しげに鬼灯をクルクル眺めるハリーに、ルーナが鬼灯の剥き方を教えてあげていた。

「あなたが私に会いに行くなんて言ったから、チョウは気を悪くしたのよ。だからヤキモチを焼かせて、彼女なりのやり方で確かめようとしたの」
「それなら僕がきみよりチョウのほうが好きかって聞いた方がずっと簡単じゃない?」
「女の子は、だいたいそんなものの聞き方はしないのよ」
「でもそうすべきだ!」

 解説のハーマイオニーさんに、ハリーがぶーっと抗議の鬼灯を吹いた。ルーナがにこにこして「じょうず」と手を叩いている。

「そうすりゃ、僕、チョウが好きだってちゃんと言えたじゃないか」
「チョウのやったことが思慮深かったとは言ってないわ。ただ私は彼女の気持ちをあなたに説明しようとしているだけ」
「ハーマイオニー、本書いたら? 女の子の行動心理についてさ」

 どこまでも冷静なハーマイオニーに敬意を表して彼女にも鬼灯を渡す。そうだそうだ、とハリーがまた鬼灯を強く鳴らした。


###


 グリフィンドールに黒星を叩きつけるのはいつだってハッフルパフ──セドリックだった。

「あーあ、あんなの、贈るんじゃなかったぜ」

 フレッドが意味ありげにこちらを見ながら小さくボヤく。私はその視線から逃げるようにサッと顔を背けた。別に二人がプレゼント──箒磨きとかゴーグルとかを──しなくったって、セドリックは勝ててたと思うけどな。そんな言い訳は心の中だけに留めておく。こんな空気の中そう言い放てるほど無神経じゃない。


 今年初のクィディッチ試合。急拵えのグリフィンドールチームが、熟練されたハッフルパフチームに勝てるはずもなく。試合は開始三十分足らずであっけなく幕を閉じた。ほとんどコールドといっていい試合結果だった。ロンのあがり症もまだ治りきっていなかったから、長引かなかったことはある意味ではよかったのかもしれない。

「悔しいよ」
「俺たちだって」

 選手が誰一人いない、重く沈んだ談話室の中でハリーは喉奥から絞りだすように囁いた。ジョージが苦々しく同意する。

「ロンの野郎、よりにもよってスミスの馬鹿がシュートするときにあんなヘボキープ──」
「僕、セドリックともう一度戦いたかった」

 フレッドは犬が水かきをするように、両腕をむちゃくちゃに動かす。ハリーはそれを一切見ずに静かに硬い声で言った。二度目の「悔しい」と落ち込んだ声が落とされると、談話室は強い風が窓を叩く音以外聞こえなくなった。


###

 ズタボロなクィディッチの試合から数日が経った朝。
 扉を閉めた直後、寝室の中からパチンという破裂音が聞こえた。ハーマイオニーは気付いていない。忘れ物したから先に降りててと言って、私は出たばかりの部屋に戻った。扉を開けてすぐに、ここにいるはずのない妖精が深々と頭を下げる姿が目に飛び込んでくる。

「お久しぶりでございます、エレナお嬢さま」
「クリーチャー! どうして?」
「エドガー様からのお届け物でございます」

 差し出されて包みを受け取り、紐をほどく。中にはやたら分厚い灰色のマントとカードが入っていた。

【リータの件、了解した。手を回しておく。正直心配はないと思うが】

 よかった、ちゃんと機能してくれたみたい。でもフクロウが私の声で伝言してるの想像すると面白いな。

【それから例のものだ。だが当然、万能ではない。これがあるからってあんまり無茶はするなよ】

 メッセージはこれで終わっている。なんとなくメッセージカードを裏返す。

「……」
「お嬢さま?」
「なんでもない。ね、クリーチャー、ちょっと軽い呪いかけてみてくれない? このマント、盾の機能もあるはずなんだ」
「お言葉ですが、我々屋敷しもべ妖精の魔法は魔法使いの方々がお使いになる魔法とは種類が違いますので」
「あっはい」



 神秘部の戦いの発端は、クリーチャーの裏切りだ。
 彼女はシリウスとうまい関係を築けず、ミス・シシーやミス・ベラへシリウスとハリーの絆を喋ってしまう。

「(まあ今でも微妙ではあるけど……)」

 だが原作よりマシではある。シリウスが頑なになってるだけだし、なにより叔父さんが彼を大きく変えた。

 だから私はちょっと危惧していた。神秘部の戦いが今年起こらないんじゃないかと。

 でも余計な心配だったらしい。クリーチャーが裏切ることはなさそうだけれど、先日の『アズカバン大量脱獄』。その中にいた、ワイアット家にとっての忘れられない名前──バーテミウス・クラウチ。あの男なら知ってるはずだ。去年一年ハリーとシリウスの仲をいやというほど見せつけられた──言いたくないけどある種の──仲間なんだから。はい今作のチクリ野郎はやつに決まりました断罪!


──【大丈夫だ】


 裏に書かれていた簡潔な一文。いつもと変わりないようでいて、やや歪んだ文字だった。それが慣れない手で綴ったからなのか、それとも感情がのってしまったからなのかは分からないけど。

「それ、大丈夫じゃない人の台詞なんだよなぁ……」

 クリーチャー、あの突発的暴走機関銃のことよく見といてくれるといいな。彼なら暴れ馬の制御は慣れてることだろう。



 大広間に足を一歩踏み入れた途端大歓迎された。フクロウの群れに。

「死ッ、食われる、食われる!」
「エレナ!」

 羽音や鳴き声、落ちてくる手紙やら包み。いやーっ! なに?! 男の人呼んで! 頭を覆いながら立ち竦んでいればネビルの声がした。腕が引っ張られ、テーブルの方へと連れられる。

「なにがあったの?」
「『ザ・クィブラー』よ!」

 少し向こうにある羽毛の群れからハーマイオニーが顔を出して嬉しそうに叫ぶ。長い円筒形の包みを投げて寄こした。なんとかキャッチして茶色の包み紙を開くと、中からきっちり丸めた『ザ・クィブラー』の三月号が転がり出た。

「あっやだこれなにこれ!」
「こんなとこで燃やしちゃだめだよ!」

 表紙の全面を飾るのは気恥しげなハリー。そしてその隣には明らかに隠し撮りされている私の顔。は、聞いてないんだが! 咄嗟に杖を出せば、ネビルが私の思考を三手読んだ忠告を飛ばしてきた。ぐぅ……いつ撮ったやつよこれ。めっちゃ笑ってるじゃん……歯噛みしながら真っ赤な大きな字を見る。

【ハリー・ポッター エレナ・ワイアット ついに語る。「名前を言ってはいけないあの人」の真相──僕がその人の復活を見た夜】

「あんたにも無料で一部送るようにお願いしたんだ」
「ねえこの男性は、きみたちの勇気に感動した、ですって!」
「こっちは──だめだ書き出しから『クソッタレの嘘つき』だ。多分ババアだな、読む価値なし。捨てろ!」

 グリフィンドールのテーブルに座っていたルーナが向かい側からにっこりする。ラベンダーとディーンは勝手に手紙の一つを開けていた。パーバティが落ちている物を拾い集めてくれている。

「何事なの?」

 熱っぽく興奮している空気の中、少女じみた甘ったるい作り声がした。アンブリッジは私とハリーの前に並ぶごちゃごちゃした手紙とフクロウの群れを眺め回している。

「どうしてこんなにたくさん手紙が来たのですか?」
「今度はこれが罪になるのか? 手紙をもらうことが?」
「気をつけないと、ミスター・ウィーズリー、罰則処分にしますよ──さあ、二人とも答えなさい」

 挑発するフレッドにアンブリッジは冷ややかに返した。私とハリーは顔を見合わせて迷う。目線だけでどうするか話し合って、私たちは自分たちの行いが隠しおおせるはずがないと結論づけた。こいつが『ザ・クィブラー』に気付くのは、どう考えても時間の問題だ。

「僕らがインタビューを受けたので、みんなが手紙をくれたんです。六月に僕らの身に起こったことについてのインタビューです」
「インタビュー? どういう意味です?」
「記者が私たちに質問して、私たちが質問に答えたんですよ」

 ハリーは、「これです」と『ザ・クィブラー』をアンブリッジに放り投げた。表紙を凝視するアンブリッジのたるんだ青白い顔が、醜い紫のまだら色になる。「いつこれを?」問いかける声は少し震えていた。

「この前の週末、ホグズミードに行ったときです」
「──ミスター・ポッター、それからミス・ワイアット。あなたたちにはもう、ホグズミード行きはないものと思いなさい」

 怒りで髪の毛まで膨れ上がらせながら、アンブリッジは雑誌を握り締めた。

「グリフィンドール、百点減点。それと、さらに一週間の罰則」

 アンブリッジは冷淡に言い放ち、肩をいからせて大広間から立ち去っていく。その姿を、大勢の生徒が興味津々に見つめていた。



 その日のお昼、学校中にデカデカと教育令第二十七号が張り出された。

 その内容は、まあ平たくいうと【『ザ・クィブラー』を読むな】といったものだった。


 この女、ほんとうにホグワーツ出身なのかな。あまりの愚かさにいっそ脱帽する。さらに感服してしまうのは、こいつ、この半年弱でなんにも学んでいないらしいということだ。

 ホグワーツの生徒は、あべこべで受け取るのが大得意な──言っちゃうと、クソ生意気なクソガキが大多数だというのに。
 

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