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例えば、『ザ・クィブラー』を全く違う雑誌──つまらないゴシップ雑誌だとか──のように見せかけて外見も中身もまるきり変化させてしまったり。
例えば、インタビューページに魔法をかけ、自分たち以外の誰かが読もうとすると教科書の要約に見えるようにしたり。
例えば、次に自分たちが読むまで白紙にしておいたり。
生徒たちはそうやって頭を使って、アンブリッジの検問を上手にやり過ごしていた。教育令が告示されたその日が終わるころには、もう学校中の生徒一人残らず読んでしまったらしい。なんとも小賢し、いやなんでもないです。
先の教育令第二十六号『授業内容以外の情報を生徒に与えるなかれ』のせいで、先生たちもインタビューのことを口にすることは当然禁じられている。が、多くの先生方がなんらかの方法で私たちへの愛情を表明してくれた。それはもう、百点減点なんか屁でもないというくらいに。じょうろを渡したり、土嚢を運んだだけで二十点。返事が素晴らしいから、姿勢がいいからで十五点。寝癖がないから、ネクタイをきっちり締めてるから十点! もうめちゃくちゃだ。お菓子もくれるし。あからさまな贔屓。生徒も生徒なら教師も教師なんですね〜誇らしい。
まあハリーが魔法大臣になって十二人の子宝もの恵まれるなんていうトレローニー先生の予言のほうがめちゃくちゃだけど。占いじゃなくて願望じゃないですかそれは。
あらゆるところでインタビューの内容が話題になっている中、ネビルはというと、夜にもなればぐったりと疲れ顔で談話室の大きなテーブルに突っ伏していた。なんだか去年も見たような光景だ。梨飴あったかなと鞄を漁る。
「だってエレナに関することでネビルが知らないはずないもの」
ハーマイオニーは喜色満面で目を輝かせている。彼女やロンもハリーに関することで質問攻めにあったらしい。
毎度ご迷惑をおかけします……申し訳なく思いながら、個包装された焼き菓子をひとつ、伏せられたネビルの頭に置く。梨飴はなかったがスプラウト先生がくれたレモンケーキならあった。バターたっぷりのしっとり生地に、レモン風味の爽やかなアイシングがかけられた美味しいケーキだ。これ食べて元気になって。もう既に二つ食べたラベンダーが、まだ食べたそうにちらちら見ていた。
「みんなあなたたちを信じたと思うわ──本当よ。あなたたち、とうとうみんなを信用させたんだわ!」
ケーキをピラミッドのように積まれているネビル以外の全員の視線が自然と談話室の隅へ集まる。注目の的になった彼──シェーマスはしばらく気付かないふりをしていたが、やがて痺れを切らして立ち上がると、寝室の方へ引き上げていった。
「……まあ、時間がかかる人もいるかもしれないけど」
「あら、そうでもないわ」
肩を落とすハーマイオニーにパーバティがすかさず言った。「ふぁんでだよ?」レモン型のケーキを一口で頬張り、口いっぱいにしたばかりのロンがふがふがと訊ねる。
「パドマに聞いたんだけど、シェーマス、『ザ・クィブラー』をもう一部くれないかってルーナに頼んでたらしいの」
パーバティは、山になったレモンケーキのひとつに手を伸ばしながら、含み笑いを浮かべた。
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そんな話をした翌日、『変身術』の教室に着くや否や、シェーマスが列から一歩進み出て、ハリーの前に立った。
「ハリー、きみに言いたいことがあって」
シェーマスは俯きながら小さい声で話しかけた。みんなのざわめきが一気に消える。「エレナにも」彼はちらりとこちらを見た。
「僕、きみたちを信じる。あの雑誌、一部ママに送ったんだ」
「ああ、そう……ええと──ありがとう」
ハリーはぎこちなく受け答えながら、笑いだしたそうに口元をもごもごさせた。誰も口をきかない。気恥しいような落ち着かない空気が流れるが、一番最初に調子を取り戻したのはディーンだった。
「おいやったな──気付くのが遅いぞシェーマス!」
彼はにやりとしながらハリーとシェーマスの背中をばしばし叩く。すごい痛そう。よかった、近くにいなくて……。ロンとネビルも、目配せをしてから彼らに飛びついて、ディーンと同じようにシェーマスの背中を思いっきり叩いた。あ、シェーマスが反撃しだした。軽い殴り合いが始まる。そんな如何にも男の子らしいやりとりに、女子勢は微笑ましいわねという顔を作りながらも、みんなしっかり引いていた。
「──というわけでハリーとシェーマスは仲直りできました! めでたし!」
「で、お前はまた罰則と」
「なんで知ってるの」
「自分たちがどれだけ大騒ぎしていたか自覚ないのか」
ある。それに非常に癪だがアンブリッジの声は耳につきやすい。でもスリザリンのテーブルにまで聞こえてたか。
ドラコがなにかを探すように私の手や顔を見た。
「前の罰則の傷は──?」
「それ、こっちには完封アイテムがあるんだよね」
努力の結晶、とピースサインをする。彼は疑わしそうに目を細めた。心配なかれ、時間差の副作用もなしだ。明日からの罰則もへっちゃら。「必要なら言ってね」という私の言葉にドラコは「機会があればな」と気のない返事をした。使う気はないらしい。いいことだ、そんな機会ないほうがいい。
「……ドラコは大丈夫?」
「なにが──ああ、父上のことか」
「いや、それもそうだけど……」
ハリーはインタビューでルシウス・マルフォイやその他の死喰い人の名前を挙げ連ねた。マルフォイ家にとって今回の記事は醜聞だ。仕事──なにしてるのかは知らないけど。あれ、プーなんだっけ?──になにか影響とか、ご主人様からなにかベナルティを受けてたりとか。その影響でドラコのほうにも、なんらかのプレッシャーをかけられてたりしないだろうか。いじめられてないかな、あの木魚に。つい彼の左腕に目がいってしまった。
まごつく私の言葉に、ドラコは一瞬瞠目したがすぐに「心配はいらない」と素っ気なく答えた。ほんとかな。……仮になにかあったとしても、私にそれらの事情を打ち明ける理由もないか。あっちからすれば、マグルのお前に言ってどうなるんだって話だもんね。
「(……もし私がマグルじゃなければ──?)」
「それより、目立つことするなって、僕たしかに言ったよな?」
「え、アッあー……」
「それに目の前ですらない」
何やってるんだお前という責める視線に明後日の方向へと顔を逸らす。
私はドラコを見ないようにしながら「だって」と言い訳の口火を切った。
「これくらいの反抗というか、意思表明? とかはやっぱり必要かなって」
「お前があの人に反抗的なことは、その……魔法生物飼育学のときので充分伝わってたはずだが。そもそもあの時はなにをあんなに意地になってたんだよ?」
「デリカシーに欠けてた。あとハグリッドに対する態度がムカついてたから」
「……だからって、あんなこと」
ドラコが苦々しく言いながら私の右手をとる。驚いて固まる私の手の甲を、ドラコの親指が撫でるように滑った。
「そのアイテムとやらがなかったら、酷い目にあっていたかもしれないんだぞ」
「……ハリーはもうあってる」
「今はエレナの話をしている」
きっぱり言われ閉口する。返事が思い浮かばないというのもあるし、なにしろ握られた手が熱い。ぞわぞわ鳥肌が立つような、身を引きたくなる熱さだ。いやじゃない、いやなわけじゃ、ないんだけど。ただ落ち着かないから手離してくれないかな。話がろくに頭に入ってこない。
「たしかに、魔法生物飼育学のときは咄嗟に動くことが出来なかった。それはすまないと思ってる……でもぼくはエレナのことを本当に心配しているんだ」
「う、ん」
「だから“これ以上”無茶するのはやめてほしい」
「……うん?」
やけに力のこもった言葉に意識がはっきりしてくる。目の前のドラコは油断なく探る目をしていた。……あれ、DA捜索って原作でもあったんだっけ。舞台裏ではあったのかも。うわまずい。
「ドラコ、あの」
「もしなにか後ろめたいことがあるなら、今、ここで教えろ──いまなら、僕もきっと口利きできるし、あの人も許して下さるかもしれないんだから」
「え────っと、そう、だねえ、ウン、あればね……」
「ないのか? ないんだな? 本当だな?」
「あは」
「……笑って誤魔化そうとしてないか?」
「なんのことだろ」
ふわふわとした返事ではぐらかし続けると、ドラコは機嫌を損ねた顔をしながらも諦めてくれた。手が離される。離れた熱と密告者にならなかったことにホッと胸を撫で下ろした。
彼は「まったく」と独りごちつつ『ザ・クィブラー』をぺらりと捲った。待っていつどこからだしたのそれ。
「まあ……これに関してはポッターの記事の方が多いのがせめてもの救いか」
「基本寝てたからね私……あっピーター!」
「あいつがどうした?」
インタビューでは、アバタ ケダブラ不発事件に関してはダンブルドアの説明をそのまま答えた。ほんと、この名前をだしておけば普通の人なら『いやこれおかしいよ』って思うことでも大体なんとかなっちゃうんだよね。ビックネーム、ほんと助かる。
とにかく、これでは『声が出なくなってうまく使えなかった』ってことになっているんだけど。もしこの記事をヴォルデモートが読んでしまったら。
「あの人、殺されない?」
「……かもな」
ドラコは何を言っているんだというように、眉間にくっきり皺を寄せながらも一つ頷いた。ああやっぱり、と自分の顔が曇るのが分かる。
そうだと思った。任務の失敗はそれ即ち死──あの陣営はそんなブラック企業だ。……いや、命懸けてるのはあっちもこっちも同じか。でもあっちは圧迫運営だし。ね。そこが違う。こっちはアットホームでフレンドリーな職場、みんなおいでよ不死鳥の騎士団。
顰め面の私に、ドラコは「そもそも読まないと思うが」と依然こちらを疑う目のまま続けた。
「読まない? ほんとに?」
「もちろん断言はできないぞ。ただ、あの闇の帝王が直々にこんな雑誌へ目を通すことは高確率でないと思う」
「実はしわしわスノーカック目撃記事の寄稿者だったりしない?」
「してたまるか。……だいたい、お前はなにをそんなに気にしてるんだ?」
なにをって。
質問の意味が分からなくて私はぱちぱち瞬きをした。
「自分を殺そうとした相手の何をそんな気にすることがあるんだ?」
「でも今私が生きてるのもピーターのおかげだし。死んでほしくないなって」
誰がなんと言おうと、ピーターは命の恩人だ。もし助けを求めてくれるなら、私はそれに応えて手を伸ばしたい。
ドラコが嘲るように「は?」と短く冷笑する。理解できないという瞳でじろじろ私を見た。
「本気で言ってるのか?」
「もちばち」
たしかに傍からみたら優しさに見えるかもしれない。けどこれはただのエゴだ。目の届かない場所で死なないで、なんて。他人の生殺与奪の権を握ろうとしている事実に、我が事ながらあまりの身の程知らずさと烏滸がましさで吐きそう。何様なんでしょうか。
表情にはださず自己嫌悪に浸る私に、ドラコは憐れみとも呆れともとれない眼をした。
「いい加減『お人好し』なんかじゃ片付けられなくなってきたな」
「なに言ってるの」
私が本当にお人好しなら、ドラコのお父さんは捕まらないし、来年のあなたは苦しい思いをしないのに。
そう言いたくなるのをグッと押し堪えて、私はにっこり笑った。
「さ、練習しよ。今日こそ有体の守護霊ができるといいね!」
「ああ、その件なんだがな──エクスペクト・パトローナム!」
ドラコは苦々しく呪文を唱える。杖先から飛び出した、はっきりとした形の守護霊を見て、私は思わず相好を崩してしまった。
「笑うなよ」
「だって、正直そんな気はしてたもん」
むすっとしたドラコの首に巻きついた銀色のケナガイタチは、きゅるりと小首を傾げて私を窺っていた。
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