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 いいことが起きれば、次は悪いことが起こる。それが平等に無慈悲な世界の理だ。


 玄関ホールの真ん中では、髪をボサボサにした女性が杖に縋るようにして、ビクビクと震え激しく嗚咽している。トレローニー先生だった。彼女の近くには大きなトランクが二つ、無造作に転がっている。

「いやよ、いやです! こんなことが起こるはずない……こんなことが……」

 トレローニー先生はハリーの未来を予想するよりも自分の未来を占ったほうがよかったのかもしれない。そうすれば、この気分が悪くなる胸糞悪い光景も回避できた可能性がある。……いや、ないか。

「あたくし、受け入れませんわ!」
「あなた、こういう事態になるという認識がなかったの?」

 トレローニー先生が甲高く叫ぶと、その反応を楽しむかのような残酷な少女じみた声が答えた。

「明日の天気さえ予測できない無能力なあなたでも、わたくしが査察していた間の嘆かわしい授業ぶりや進歩のなさからして、解雇が避けられないことくらいは、確実におわかりになったのではないこと?」
「あなたにそんなこと、で──できないわ!」

 トレローニー先生は涙で声をガラガラにしながら、体に巻き付けた何枚ものショールやストールをぎゅっと抱き締めた。

「あたくしをクビになんて! ここに、あたくし、もう──もう十六年も! ホグワーツはあた、あたくしの──い、家です!」
「家“だった”のよ。一時間前に魔法大臣が解雇辞令に署名なさるまではね」

 アンブリッジは丸めた羊皮紙を機嫌よく振る。冷たく微笑まれ、トレローニー先生はとうとう泣きじゃくってトランクの上に座り込んだ。

「さあ、どうぞこのホールから出ていってちょうだい、恥さらしですよ」
「(どの口が……)」

 顔が歪む。アンブリッジは自分が圧倒的強者として君臨できるこの状況が楽しくてしょうがないのだろう。いい性格してる。やっぱりこいつに対して同情心なんて抱く必要はなかったんだ。背後では、ラベンダーとパーバティが抱き合ってさめざめと泣いていた。

 慌ただしい靴音とともに、マクゴナガル先生が見物人の輪を抜けて飛び出した。先生はわっと駆け寄って、トレローニー先生の背中を安心させるようにポンポン叩く。

「さあ、シビル……落ち着いて、これで鼻をかみなさい……あなたが考えているほどひどいことではありません。さあ……ホグワーツを出ることにはなりませんよ……」
「あら、マクゴナガル先生。そうですの?」

 トレローニー先生を抱き寄せるマクゴナガル先生に、ガマは挑戦的な笑みを浮かべた。

「そう宣言なさる権限がおありですの……?」
「それはわしの権限じゃ」

 深い声が玄関ホールに響く。いつの間にか正面玄関の樫の扉が大きく開いていた。扉脇の生徒が急いで道を開けると、ダンブルドアが戸口に現れる。霧深い夜を背に、戸口の四角い枠に縁取られて佇むダンブルドアの姿には、威圧されるものがあった。
 堂々とトレローニー先生のそばへと近付くダンブルドアに、アンブリッジは「あなたの?」と嘲笑を混じえて言った。

「どうやらあなたは、立場がおわかりになっていらっしゃらないようですわね。教育令第二十三号にある通り──」
「もちろん、あなたは高等尋問官としてわしの教師たちを解雇する権利をお持ちじゃ。存じておるとも。しかし、この城から追い出す権限は持っておられない。遺憾ながら──」

 ダンブルドアは終始丁寧でいっそ穏やかな口調だったが、よく聴くと声の節々に静かな怒りが漲っていた。

「その権限は、まだ校長が持っておる」

 アンブリッジは鋭い視線に気圧されたらしく、何も言葉を発さなかった。「シビルを上まで連れていってくれるかの?」ダンブルドアがマクゴナガル先生の方を向いて尋ねる。彼女が頷くと、群衆の中からスプラウト先生が急いで進み出た。彼女たちは二人がかりでトレローニー先生に付き添うと、アンブリッジの前を通り過ぎ、大理石の階段を上がる。フリットウィック先生は二つのトランクを魔法で運びながら、先生たちを追って階段を上がっていった。

 目と鼻の先で獲物をまんまともっていかれたガマガエルは石のように突っ立っていた。「それで」硬い声音で囁く。

「わたくしが新しい『占い学』の教師を任命し、あの方の住処を使う必要ができたら、どうなさるおつもりですの?」
「おお、それはご心配におよばん。それがのう、わしはもう新しい『占い学』教師を見つけておる。その方は一階に棲むほうが好ましいそうじゃ」
「見つけた? あなたが、見つけた? お忘れかしらダンブルドア。教育令第二十二号によれば──」
「魔法省は、適切な候補者を任命する権利がある、ただし──校長が候補者を見つけられなかった場合のみ。ご紹介させていただこうかの?」

 ダンブルドアは開け放った玄関扉のほうへ手を動かし、みんなの視線を誘導した。ゆったりとした蹄の音が聞こえてくる。ざわざわとした驚きの声が生徒たちの間を伝染していく。

 近付くにつれ、扉から入ってきた者が纏っていた夜霧がすうっと引いていく。なめらかなプラチナブロンドの髪、透けるような青い瞳、頭と胴は人間で、下半身は白金の馬の体──ケンタウルスだ。

「フィレンツェじゃ。あなたも適任だと思われることじゃろう」

 雷に打たれたようなアンブリッジに、ダンブルドアはにこやかに紹介した。


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 フィレンツェ先生の授業はかなり独特で、個性的なホグワーツでもそれはそれは類稀だった。教室に芝敷いて樹木生やしてってありそうで意外となかったよね。リアルプラネタリウム。


 でも困ったのは、私たちが今まで『占い学』でやってきたことを全て「ヒトのばかげた考え」で片付けられてしまうことだ。種族の違い……。私たちO・W・L大丈夫なのかな。
 フィレンツェ先生が教えてくれるのは、ケンタウルスの占いの仕方やケンタウロスが何世紀もかけて研究してきた星々の読み方、それからケンタウルスの叡智について。ケンタウルスって哲学的なものの捉え方をするらしい。いやこれはこれで面白いけど、でももはやなんの授業か分からないところはありけりですよね。ケンタウルス学じゃん。
 

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