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 いや、何言ってんだ?

 一晩明けて冷静になった脳が、チクチクと昨日のモノローグに突っ込んでくる。なに悲劇のヒロイン気取ってるんですか? 自業自得のくせに。いたい、いたいよぉ。メンヘラすぎるよぉ。

 どんなにドラコを傷付けることになろうとも、まだ『友達』をやめることはできない。せめて来年以降じゃないといけない。すぐおセンチになって考えを急ぐのはよくないね、こんなんじゃ軽率キング次期候補になっちゃう。ちなみに現キングがロンで先代キングがシリウス。これ豆です。

 それにしても。
 今回の件で私はかなりドラコからの信頼をなくしてしまったし、これで彼の恋心もどきもいい感じに消滅したんじゃないかな。してるといいな。まあこれで来年頼ってもらえなかったらわろてしまうな。いや笑えないけど。
 それにこの調子で嫌われ続けたら友人として結婚式にすらお呼ばれされなそうな気がする。バームクーヘンエンド回避キタコレ。やったねフルボッコだドン間違えたフルコンボだね、いやなにが?


 私はそんな朝特有のとっちらかった思考のまま、談話室に貼られた新たな告示を眺めていた。合流したネビルが私の頭の上から掲示板を見て「そんな!」と悲痛な声を上げる。

【ドローレス・ジェーン・アンブリッジは、アルバス・ダンブルドアにかわりホグワーツ魔法魔術学校の校長に就任した】

 掲示板には、そんな文言の教育令第二十八号がこれ見よがしに貼り出されていた。


 当然、順当にいくならば次の校長は我らが寮監ミネルバ・マクゴナガルしかいない。……でもまあ、そうは魔法省が卸さないよね。新任が校長になるなんて通常なら有り得ない人事だ。まじあの校長とんでもねえ桃色両生類を自由にしたまま消えてくれたなと思わないでもないけど、アズカバンに投獄されるダンブルドアを見たくないのもたしかだ。
 今はシリウスのところにいるのかな。もしそうならちょっと叱ってやってほしい、その大人げない男を。好きな子に素直になれないなんて今どき流行んないよ、てかその年齢だとイタいよって。


「(……ていうかこれ、私が戦犯なんじゃ)」

 公的文書でも名前を略されるダンブルドアかわいそ〜笑とか思って見ていたが。そんな事実にはたと気付く。やばいという気持ちになり、きゅっと口を噛んだ。

「エレナ、どうしたの?」
「顔が真っ白よ、あなた」
「ウワッハーマイオニー……」

 ハーマイオニーがいつの間にか後ろに立っていた。悲鳴をあげる私に、彼女は不思議そうな顔をする。ハーマイオニーの声を聞いて、ハリーとロンもこっちへ歩いてきた。
 ああ、一番顔合わせ辛い三人が集まっちゃった……。囲まれた、逃げられない。私は絶望しながら懺悔をはじめた。

 なんでも、名簿の破れて回収できなかった部分にはDAの正式名称『ダンブルドア軍団』というのが書かれていたらしいのだ。
 その紙片をアンブリッジに見つけられてしまったから、ダンブルドアは今ホグワーツからの逃亡を余儀なくされたわけで。つまりこれは私が招いた結果……。


 項垂れたまま話し終えると、ハリーは「そんなことないよ」と緑色の目を優しく緩めた。その表情に私は唖然とした。だってなんと、微笑んでいる。しかもとんでもなく穏やかだ。

「そりゃあ部屋に引っ込んで行ったときこそ何してるんだ馬鹿って思ったけど、でもエレナのおかげでみんなちゃんと逃げ切れたし、バレなかったんだから」
「え、ハリーが優しい……」

 反抗期なのに……と思って心の声がでてしまった。失礼な物言いに、ハリーが「なんだよ」と口を曲げた。ごめんて。

「……え、いま馬鹿って言った?」
「言ってないよ」
「ああそうだ──これ、とっても助かったわ」

 ハーマイオニーがにっこりしながら空の硝子ケースを返してくる。受け取ってしげしげと見る。一年のとき叔父さんにもらったクリスマスプレゼント……忍びの地図と交換でハリーに貸していたものだ。まさか逃走に使うつもりだったなんて知らなかった。
 ハーマイオニーたちは図書館に追っ手が入ってきた瞬間に中の煙をぶちまけて、やつらを図書館に閉じ込めたそうだ。

「あんな抜け道あったんだね」
「出口が一つじゃ危険だと思って、前もって部屋にお願いしてたの。マダム・ピンズはきっとあの人たちがあの煙を作り出したと思ったことでしょうね。多分あの人たち、暫くは出禁よ」
「とにかく悪いのはアンブリッジ──と、あのマリエッタ・エッジコムだ。あいつ……」
 
 ロンがきっぱり言い切る。ぶつぶつ文句をいう彼に、ハリーとハーマイオニーは同調したいような諌めたいような微妙な面持ちをしていた。
 今回の騒動で一番キレていたのはロンだった。『密告者』の吹き出物なんかじゃ生温いとすら考えているらしい。親が魔法省っていう同じ立場の人間として許せないのかな。



 午前最後の授業、薬草学が終わり、大広間で昼食をとっていればネビルが「え?」と困惑して呟いた。

「どうしたの?」
「見て、寮の砂時計が……」

 その言葉に教授席の右手を見遣り、目を細める。顔をグッと引き、斜めの角度から眇めてみても目に映る景色は変わらなかった。あれ視力が。OLJrの後遺症が今きたかな。

「もしかしたら緑以外の色が見えなくなったのかもしれない」
「ああそっか、なるほどね。それ僕もだ」
「ネビルまで現実逃避するなよ」
「だって、そうじゃないならスリザリン以外ほとんど寮の得点がなくなってるってことになっちゃうよ」
「ちゃんと分かってるじゃないか」

 ディーンが呆れながらどっかり近くの椅子に腰掛けた。「全部『尋問官親衛隊』のおかげだよ」その隣に座ったシェーマスが不機嫌に教えてくれる。

「尋問官親衛隊?」
「魔法省を──厳密にいうとアンブリッジをだな──支持する、少数の選ばれた学生のグループだと。あのガマ直々の選り抜きらしいぜ」
「オタサーの姫気取りなの?」

 親衛隊の生徒はIの字形の小さな銀バッジをつけてるらしい。なにそれダッサ。びっくりした。やっぱり全てにおいてセンスないんだあの人……。

「聞いて驚け。なんとヤツら、監督生だってお構いなしに減点できるんだぜ」
「な、なにそれ」
「ふざけてるよな」

 原作でそんなシステムがあったかはさっぱり覚えていないが、しかし開いた口が塞がらない。なにそれチートじゃん。運営が進んでゲームバランス崩すなんてサイテー、サ終しろ!

「僕たちもさっきクラッブに減点されたよ、『グリフィンドールだから五点減点』『寝癖がついてるから五点』『マグル育ちだから十点』……ってな」
「そんなの難癖じゃないか!」

 ディーンはクラッブの真似をして、ヴーヴー唸るようにふざけた顔をする。憤慨したネビルに、シェーマスがぶっきらぼうに頷きながらポテトにフォークを力強く突き刺した。

 その動きと連動したかのようなタイミングで、ドンという大きな地鳴りが響きわたり、大広間の空気が揺れた。みんなが食事の手を止めてキョロキョロする。
 そんな中、どこからか爆竹のような音が聞こえた気がして私は辺りを見回した。大広間の入口、玄関ホールのほうで目を止める。いま、鮮やかな緑の巨体が階段を昇っていった。なにかっていうか、あれはどう見ても──

「ドラゴン?」
「何言って、……あれなんだ?」

 私の呟きにシェーマスも視線を玄関ホールへ向けると、愕然とした声を上げる。他の生徒も玄関ホールの異常に気付きはじめ、ざわつきだした。

 注目が集まったのを見計らったように、何頭ものドラゴンが火の粉を撒き散らしながら飛んできた。それを追って他の花火たちも大広間へ侵入してくる。ショッキングピンクのネズミ花火がくるくる飛び回り、銀色の光を噴射させるロケット花火は壁から壁へと跳ね返りながら動きの読めない危険な軌道を繰り返している。線香花火は空中で文字を作り、悪態を書き散らかしていた。

 多すぎて目がチカチカしてきた。視界の暴力……綺麗だしいっか。これって多分双子の花火だよね。それなら、と手近な花火に消失呪文を唱える。ロケット花火は空中で膨れ上がって大爆発を起こし、十倍になった。

「わはは、やっぱりね!」
「おいなにやってるんだよエレナ!」

 彼らならこうすると思った! 突然の無法地帯に慌てる周りを笑いながら、ちょうど火花が飛び込んでいった桃のコンポートをよそう。口の中でパチパチ弾けて普通に火傷した。水をがぶ飲みする私をディーンがザマミロと指差して笑う。そんな彼の後頭部には綺麗な花火が何輪も咲いていた。パンチパーマデビューおめでとう。


 花火は燃え続け、学校中に広がった。燃え尽きることのない花火が授業を邪魔しても、先生方は冷静だった。彼らはこの花火の始末を全て新校長にお任せする算段でいたからだ。しょうがない、だって『花火を退治する権限があるか』なんて分からないもんね。

 私たちは午後の間だけでアンブリッジが上に下にとひっきりなしに走り回っている姿を何度も見かけた。そのたびにみんながニコニコと笑う。ダンブルドアが消えた翌日とは思えないほどのニコニコ具合だ。アンブリッジにとっても最高の初日に違いない。就任したてなのにあっちこっちに引っ張りだこで大人気なんだから。
 

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