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 イースター休暇も終盤に差し迫ると、魔法界の職業を紹介する小冊子やチラシ、ビラなどがグリフィンドールのテーブルに山を作った。それに伴って掲示板に新しいお知らせが貼り出される。私にとってそれは教育令ほどではないにしろ、顔を曇らせるには充分の張り紙だった。

「『進路指導 夏学期の最初の週に五年生は全員、寮監と短時間面接し、将来の職業について相談すること』」
「読み上げないでよ……」
「『個人面接の時間は左記リストのとおり』。ちゃんと見た?」
「見たよ、火曜日の二時だった」

 そのあともやたらしつこく進路の話を持ち出してくるネビルに、耳を塞いで足をバタバタさせたい気持ちになった。将来を見据えてしっかりしろと言われてる気分になる。心配かけちゃってるんだな……。それは分かってる、が、なによりも。

「(大人になりたくない……)」

 まあ大人なんですけどね、心的には。あれ、でもこんなこと考えちゃう時点で全然大人じゃないのかも。
 溜息を吐きながら何気なく、一番上に置かれた鮮やかなピンクとオレンジの小冊子を見る。『あなたはマグル関係の仕事を考えていますね?』という表題がてらてらと光っていた。

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「というわけで、進路相談させてください」
「任せて!」

 私は個人面接の前日のお昼、知り合いの首席二人を呼び出した。頼りになる笑みを浮かべるセドリックとは対照的に、レベッカは返事すらせず、ひどく億劫そうにしていた。

「手始めに二人の進路をお聞きしたいのですが」
「僕は魔法省執行部に推薦をしてもらったんだ。魔法警察になりたくてね」
「闇祓いとは違うの?」
「ああ、闇祓いは闇の魔法使い専門とする職業のことだから。身近な人の助けになりたくて決めたんだよ」

 セドリックらしい理由だと感心する。「でも」とセドリックの顔が暗くなった。

「進路を決めたときは世の中がこんなふうになるなんて思いもしなかった」
「そりゃあそうでしょう」

 二年前なんて、ヴォルデモートが復活するなんて誰も思ってなかった頃だ。ああ、ダンブルドアとかは除いてね。

「今となっては闇祓いにしておけばよかったって思うけど……もう決めたことだし、僕は僕にできることをするよ」
「そっか。レベッカは?」
「私は多分参考にならないわよ、だって今年になって進路を変えたから」
「そんなことをあのスネイプが許したのかい?」

 ちょうど進路に後悔しているという話を聞いた直後だというのに、レベッカはなんのてらいもなく告げる。驚愕してセドリックが尋ねる。レベッカは少し居心地の悪そうな顔をした。

「たしかに平等な人ではないけど、ほら、分かるでしょ……自寮の生徒には結構甘いのよ」

 セドリックはああ、とこぼして納得する。私もそれは存じております。うちの学年にはポッターさんちのハリーくんがいるし扱いの差はめちゃくちゃ分かりやすいよ。

「なにからなにに変えたか聞いてもいい?」
「最初は就職しないつもりだったわ。卒業したらすぐにどこぞの貴族の家に嫁ぐ予定だったから……でもやっぱり嫌になったから、夏休みが終わる直前になって両親の前でやーめたって言って髪の毛ぶち切ってやったの」

 ぶち切る……。その時を思い出しているのか、レベッカは首裏に手をやる。少しだけ伸びた襟足をいじったあと、顔を上げてから「それで、今は魔法薬研究者を目指してる」と続けた。

「魔法薬、てことは」
「……ま、コネよ。先生の」
「ですよね」

 なるほど、だからこそ変更できたのか。例えばこれが薬草学の研究者だったりしたらレベッカには難しい道になっていたんだろう。

「数年は紹介してくださった博士の手伝いしながら勉強させてもらうつもり」
「そのー……その期間のお金とかって?」
「一応助手って名目だから多くはないけど給金が入るわ。株取引で儲けた貯金もあるし生活資金に困ることはないはずよ」

 セドリックと顔を見合せた。なんか、世界違うね。貴族育ちの人ってみんな株で稼いでんのかな……。

「エレナこそ闇祓いは目指してないの? たしかなんとかワイアットって闇祓い、あんたの親戚なのよね?」
「エドガーね。実はその叔父さんから向いてないって言われたことあるんだ、優柔不断だからって」

 それに私自身、その道を考えたことはない。叔父さんの言うとおり自分でも向いてないと思うし、そんな優秀でもないし。セドリックが「そう?」ときょとんと首を傾げた。

「去年の三校対抗試合だってしっかりこなしたし、最後のDAのときだってエレナが名簿をとってくれたから最悪なことにはならなかったじゃないか」
「ダンブルドアは消えちゃったけどね」
「まあそれはしょうがないとしてさ──でもエレナの判断のおかげでみんな無事なんだよ。プロからしたら優柔不断に見えるかもしれないけど、それだって経験を積めば改善されるんじゃないか?」
「そうよ、それにそんなの他人が勝手に決めつけるもんじゃないわ。あんた、成績は?」

 なにこの推されよう。上級生二人に想定以上に詰め寄られてたじろぐ。特にレベッカの圧が強くて、彼女の瞳はごうごうと燃えていた。いや別に、意見の押し付けとかされたわけじゃないよ。うちはそこまで重い感じではなかったんですけどね……? なーんか変なスイッチ刺激しちゃったぽいな。

「まあまあだと思う。それなりのはず……」
「明日の面談で教えてもらえるはずだから、ちゃんと聞いておきなさいよ」
「はい……い、や、ならない! ならないから、闇祓いなんて!」

 流されかけちゃった。なるつもりないのに。私がときたまちゃんと動けるのは未来が分かるからだ。私ほどアドリブに弱い人間はいないと自負してる。要らんことしか言わないし。

「じゃあ他にやりたいことでもあるっていうの?」
「ないけど……でも気になってる職業ならある、かも」
「そうなんだ?」

 レベッカの青い瞳が興味深そうに瞬いた。セドリックが優しく促すように笑う。私は迷いながらも口を開いた。



 その日、アンブリッジの機嫌はいたく悪いようだった。なにがそんなに、と考えかけて今日はハリーの進路面談があったんだと思い出す。今度はアンブリッジVSマクゴナガル先生ね。あったあった。……あれ、明日の私のときも来るつもりなのかな、あの人。うわあ、やだ。もう闇祓い云々とか尚更言えなくない?
 いつものつまらない授業中、ハリーは何度も睨みつけられていたが、彼はずっと上の空でぼーっとしていた。ハーマイオニーがなにか必死な様子で繰り返し話しかけていたが、それもろくに聞いていない様子だ。なんかあったのかな。さすがにこれ以上は覚えてないや。



 断片的ながらも“この日の続き”を思い出したのは、玄関ホールの叫び声やらの騒ぎを聞いて駆けつけたときだった。

 トレローニー先生のときと同じように、壁の周りに生徒が大きな輪になっている。先生や、ゴーストまでもが見物人に紛れ込んでいた。ピーブズが高いところからひょこひょこ浮いて、黙って輪の中心を見下ろしている。

「さあ!」

 アンブリッジは階段から高らかに勝ち誇って声を上げた。見下ろす視線の先、輪の中心にいるのはフレッドとジョージの二人だ。二人はホールの中央に立ち、アンブリッジを睨みあげていた。

「それじゃ──あなたたちは、学校の廊下を沼地に変えたら面白いと思っているわけね?」
「相当面白いね、ああ」

 うーん、なんか、これに関してはちょっとアンブリッジが正論な気がする。もちろん味方するつもりはないけどさ。
 “読む”度に感じていたことを思い出しながら、口元に笑みをのせて階段の手摺を肘置きにして双子をじっと見下ろす。この学校にいる二人はもう二度と拝めないのだ。しっかり目に焼き付けておかないと。

 フィルチが人混みを這ってでて、幸せで泣きそうという顔でアンブリッジに近付いた。

「校長先生、書類を持ってきました。それに鞭も準備してあります……ああ、いますぐ執行させてください」

 フィルチ、そういうところなんだよな。好きになれないの……いや分かるよ、双子には散々苦労させられてきたんだろうが。だからって。呆れていると、アンブリッジが「いいでしょう、アーガス──そこの二人」とうっそり微笑んだ。

「わたくしの学校で悪事を働けばどういう目にあうかを、これから思い知らせてあげましょう」
「ところがどっこい、思い知らないね」

 フィルチがチラつかせている鞭に一切怯まず、フレッドが双子の片割れを振り向いた。

「ジョージ、どうやら俺たちは、学生稼業を卒業しちまったな?」
「ああ、俺もずっとそんな気がしてたよ」
「俺たちの才能を世の中で試すときが来たな?」
「まったくだ」

 いつも通りすぎる、息のあった軽快な掛け合いだ。アンブリッジがなにも言えないうちに、二人は杖を上げて当時に唱えた。

「アクシオ!」

 どこか遠くでガチャンと大きな音がする。彼らがなにを呼んだのかは、すぐに分かった。アンブリッジに没収されていた二人の箒が廊下を矢のように滑り、階段を猛スピードで下ると双子の前でぴたりと止まる。箒の柄に引っ付いたままの鎖がガチャガチャと大きな音を立てた。

「またお会いすることもないでしょう」
「ああ、連絡もくださいますな」

 フレッドとジョージはそれぞれ自分の箒に颯爽と跨りながら、あまりの事態に固まっているアンブリッジへ言った。フレッドは、声もなく自分たちを見つめている生徒たちを見回すと、すうっと息を吸い込んだ。

「上の階で実演した『携帯沼地』をお買い求めになりたい方は、ダイアゴン横丁九十三番地までお越しください。『ウィーズリー・ウィザード・ウィーズ店』でございます、我々の新店舗です!」
「我々の商品を、この老いぼればばぁを追い出すために使うと誓っていただいたホグワーツ生には、特別割引いたします」

 ジョージにニヤリと笑って指差され、アンブリッジはやっと正気に返った。

「二人を止めなさい!」

 そう金切り声を上げたときには、もう遅かった。親衛隊が包囲網を縮める間もなく、双子は床を蹴り、誰の手も届かないところまで飛び上がっていた。フレッドがホールの反対側で、自分たちと同じ高さでぴょこぴょこ浮いているポルターガイストに近付く。

「ピーブズ、俺たちにかわってあの女をてこずらせてやれよ」

 ピーブズが鈴飾りのついた帽子を取り、敬礼の姿勢をとった。生徒が初めてこの城に棲みつく混沌と意思疎通を交わした瞬間、ずっと黙っていた生徒の群れからワッと喝采が巻き起こる。フレッドとジョージは派手に一回転して向きを変え、開け放たれた正面の扉を素早く通り抜けた。

 生徒たちに反逆の希望を惜しみなく降り注いだ二人の英雄は、夕焼けの茜色で染まった空に迎え入れられ、迷うことなく遥か彼方へと飛んでいった。
 

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