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「おはようエレナ! 今日はいい日だね!」
「おはよう、ハリー……」
 
 ネビルの隣で朝食をとっているとやたら機嫌のいいハリーとロンがやってくる。いい日。まあ確かに、晴れてるし、今日は午前で授業も終わりだし悪い日ではないだろう。しかしそんな元気にいうことか? ネビルと顔を見合わせる。するとどっかりと座ったロンがもったいぶって口を開いた。
 
「なんてったって、今日は一度も迷わず大広間まで来れたんだから!」
「ああ、なるほど……」
 
 言われてみれば、今日はいつもよりはやい。普段は私たちが食べ終わる頃にやって来ていた。この二人はいつも迷っていて授業もほとんどがギリギリだった。変身術の授業のとき、冷ややかな顔をしたマクゴナガル先生に「あなた達を地図に変えてあげましょうか」と脅されたのはついこの前のことだ。
 
「ハリーもロンも、どうして毎回そんなに迷うの?」
「逆にお尋ねしますけど、二百もある動く階段をどうして迷わず進むことができるんですかね」
「二百もないよ、百四十くらいじゃない?」
「揚げ杖をとるなよ、ハーマイオニーみたいだ」
 
 うんざりとした口調でロンが嫌そうに首を振った。一年生のグリフィンドールの獲得点の大半はハーマイオニーによるものだというのに、恩のないことだ。

 授業が始まって数日経ったが、三人の、というより主にロンとハーマイオニーの仲は一向によくなっていなかった。うーん、この二人が将来結ばれるって信じられない……私が信じようが信じまいが物語はそう進んでいくんだろうけども。
 
「(私はどうしたいんだろう)」
 
 光る綿毛のように白い羽根をしたヘドウィグが落としていった手紙を嬉しそうに読むハリー達を横目に、ぼんやり考える。
 死んでほしくない人はそりゃたくさんいる。けど未来を変えるだなんてそんな大層なことが自分にできるとは、到底思えない。授業を受けて学べばそれなりに出来るし、落ちこぼれというわけでもないが、だからといって特別優秀というわけでもなかった。
 
「エレナ? 食べないの?」
「ああ、食べる食べる」
 
 もっもっとトーストを口いっぱいに詰め込むネビルに返事をした。とりあえず今日はネビルがこの後の魔法薬の授業で怪我をしないように見ていてあげなければ。
 
 
 セブルス・スネイプ先生が思ってた以上に意地悪で笑えなかった。いや……うん……これは愛に生きてるなんて誰も思わないだろうな。そしてこれが別に演技でもなくシンプルに意地悪ってところもすごい。天性の二重スパイじゃん。もはや才能だ。
 
 教科書を見ながら計って混ぜて茹でて。なんだか料理をしている感覚になる。そんな風に考えながらやっていたら、なんと一度も注意されることなくスネイプ先生の監視をパスできた。特筆するなら気に食わなそうに鼻を鳴らされたくらいだろうか。マルフォイ以外ほとんど注意を受けていたというのに、とみんなで目を丸くした。
 
「……待ってネビル! 針はまだだめだよ、火から下ろしたあとじゃないと」
「え、あっそうか」
 
 原理は知らないけど、確かダメだった気がする。おできが逆にできちゃう薬? とかができるんだっけ。注意すればネビルは慌てて構えていた山嵐の針を横に置いた。一先ずの危険は回避出来たことに、私はひっそりと息を吐いた。
 
 
 
「……なんだか僕、エレナに助けて貰ってばかりだ」
「え? どうしたのネビル」
 
 地下牢をでて階段を上がりながらネビルが突然ぽつりと呟いた。私とハーマイオニーから一段下がった所で足の動きを止めた彼を見る。
 
「ねえハーマイオニー、火を下ろす前に山嵐の針を入れたらどうなるの?」
「そうね……大鍋が溶けるくらい強力で危ない薬ができていたと思うわ」
「ほら!」
 
 ハーマイオニーの言葉にネビルはやっぱり、という顔で神妙に唸った。困惑している私に彼はさらに続けた。
 
「僕一人だったらクラスに行くのだって毎回迷ってるし、合言葉だって忘れちゃってとっくに寮から締め出されちゃってるよ」
「それもそうかも……」
「納得しないでよハーマイオニー」
「いいんだ」

 ネビルはこともなげなく言うと、それより、とこちらを顔を上げる。キラキラしたつぶらな瞳がただ一心に見つめてきた。
 
「どうしてこんな僕のことをいつも助けてくれるの?」
 
 そこまで感謝されるようなことはしていない。ただ、たまたま私に出来たからしてるだけだ。しかもそれだってそんな「助ける」というほどのことではない。どれもほんの、些細なことだ。
 
「……『こんな僕』だなんて言わないでよ、ネビルはとても優しくていい人だもの」
「そんなこと、いやそうじゃなくて……」
「エレナ!」
「……あっセドリック!」
 
 返事に窮していると大広間の方向から爽やかな声がかかる。見れば黄色いフードのローブを羽織った青年が片手をあげて私の方へと駆けてきた。渡りに船。グッドタイミングすぎる。

「ごめん、呼ばれてるから……夕飯のときにまたね!」
「あっちょっと!」

 引き止める声が聞こえないふりをしてセドリックの方へと走っていく。
 
「友達、よかったの?」
「うん、ちょっと、あれだったから」
「あれ……? よく分かんないけど、せっかくだから一緒にお昼食べようよ!」
 
 セドリックのお誘いにもちろん!と返事をする。大広間から昼食を少しくすねて湖の畔の大木の近くに腰を下ろした。
 同じ寮じゃなくて残念だったとか授業はどうだとか、色んな話をしたけど最終的にはやっぱりクィディッチの話に落ち着いた。ディゴリー先輩が楽しそうでなによりです。この人、本当にクィディッチが好きなんだな。
 
 
###
 
 箒で空を飛ぶというのは、ほとんどのマグル生まれの子にとっては憧れなのではなかろうか、とマグル生まれの私は思う。ハリーや、サッカーの方が面白いと豪語しているディーンでさえもわくわくとしているのが隠しきれていなかった。最もそれは談話室の掲示板に「お知らせ」が貼られるまでの話だったのだが。
 
「スリザリンと合同授業……つまりマルフォイだ。きっと馬鹿にされる……」
 
 ハリーはそればかりだった。今も朝食のベーコンをフォークでつつきながらぼやいている。この後の飛行訓練が憂鬱なのだろう。普段ならハーマイオニーあたりが「行儀悪い」と侮蔑を込めた視線を送って窘めるのだが、今日に限っては違った。
 
「いい? 重心は後ろじゃなくて前に置くの。それからグリップをしっかり握って……」
 
 ハーマイオニーは詰め込んだ知識を周りに話すことで糧として昇華しようと必死だったが、それを手伝っているのはネビルただ一人。しかしそれも朝の郵便がくることで中断させられてしまう。ネビルは届けられた包みを開くと中から小さな水晶玉のようなものを取り出した。
 
「思い出し玉だ!」
 
 ネビルがみんなに見せながら効果を説明するが、手の中の玉はみるみるうちに赤くなっていく。
 
「……僕、何を忘れてるんだろう?」
「とりあえず鞄の中調べてみなよ、時間割と照らし合わせて」
 
 でもこれ、あんまり意味なさそうな気もするなぁ。ネビルは忘れてること自体を忘れてることが多いんだから……何を忘れてるか具体的に教えてくれればいいのに。
 
 不意に白い手が目の前に伸びてくる。
 
 その方向を見ればマルフォイがネビルから思い出し玉を奪っていた。マルフォイはちらりとこっちを見たがすぐに立ち上がったハリーとロンへと向き直る。
 彼らが睨み合ってたのは一瞬で、マクゴナガル先生がどこからともなくサッと現れて大事にはならなかった。マルフォイたちは悔しげに去っていく。
 
「嫌な奴だ、ちょっかいをかけずにはいられないのか?」
「実は仲良くなりたいのかも」
「絶対ない! それに、もしそうだとしてもお断りだね!」
「うーん……あれっ」
 
 ロンと話しながらテーブルに置かれた思い出し玉をコロコロといじっていると中身がもくもくと赤く染まっていく。うそ、私も? 何忘れてるんだろう?! このあとテーブル上に鞄の中身をひっくり返して一から確認してみたが特に忘れているものは見つからなかった。ええ……?
 

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