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 見つかった不穏の種にもやもやと頭を悩ませていても時間は止まってはくれない。飛行訓練の授業が始まった。マダム・フーチは特徴的な黄色い目をぎょろりと動かして一同を見つめた。
 
「右手を箒の上に突き出して。そして『上がれ!』と言う」
 
 だされた指示通りに、生徒たちが一斉に声をあげる。やっぱり一回目じゃ上がらなかった。それでもなんとか二回目には、箒はふわりと手へと収まる。まだ叫んでいる周りの声をぼんやりと聞き流しながら先程のことを考えた。うーん……忘れてること……?
 そうやってどこか上の空で授業を受け続ける。だって気になって集中できない。
 
「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください」
 
 柄の握り方の指導が終わり、いよいよ飛行が始まる……というときに、誰かが「あっ!」と大きな声を上げる。その声につられて周りを見れば、ネビルが合図より前に浮き上がってしまっていた。彼は一瞬で五メートル以上も地面から離れるとこれまた一瞬で真っ逆さまになって落下してくる。ボキッという嫌な音が辺りに響いた。芝生にくしゃりと横たわるネビルにサッと血の気が引く。

「(忘れてるってこれのことか……!)」 
 
 ごめんと内心で手を擦り合わせながら、医務室へ連れて行かれるネビルの背中を眺めた。そっかそっか、このことだったのか……確かに忘れていた。結構大事だったはずなのに頭からすっぽ抜けてしまっていた。うーん、未来に関しての大まかな流れのメモかなにかを取っておいたほうがいいのかもしれない。
 
「ここまで取りに来いよ、ポッター」
 
 上空からの声にハッと首を向ける。マルフォイが片手で思い出し玉を遊ばせながらハリーを挑発していた。大丈夫、ここからの流れはもう分かるぞ。
 
 ハリーはハーマイオニーの制止を無視して軽やかに箒に飛び乗って空中を意のままに移動する。思い出し玉を地面すれすれでキャッチするのを見て、ロンや他の男子と一緒に歓声をあげ──かけるがハーマイオニーに鋭く睨まれたので慌てて口を手で抑えた。
 
「規則違反なのよ! 大怪我していたかもしれないじゃない! それに彼、このままじゃきっと退学になってしまうわ!」
「うん、そうです。その通りですね」
 
 あの後ハリーは小走りで向かってきたマクゴナガル先生に有無を言わさず連行されてしまった。ぷりぷりと怒るハーマイオニーの隣に並んで廊下を歩く。彼女の話ぶりからは怒ってるのと同じだけ心配しているのがしっかりと伝わってきた。

 しかしそんな彼女の心配とは裏腹にハリーはピンピンしていたし退学にもなっていなかった。ハーマイオニーは勢いよくステーキ・キドニーパイを掻き込むハリーを複雑そうな顔で見つめている。そして冷やかしにきたマルフォイたちと負けじと応戦するハリーたちの会話を一言だって聞き漏らすものかとテーブルのシミをじっと見つめていた。
 彼らが話し終えると、ハーマイオニーは無言で立ち上がってロンとハリーに近付いた。そして少しなにか話した後、荒い足取りで戻ってくる。忠告しにいったけど無意味だったんだろうな。
 
「エレナ、私、あの馬鹿な人達を止めるわ」
「え、止めるって……」
「あの人達、事の重大さを全然分かってないもの。もし見つかったらグリフィンドールが何点引かれると思ってるのかしら?!」
 
 鼻息荒く憤る彼女にそうだねと頷きつつ、彼女のゴブレットに水をたっぷり注いだ。並々注がれたそれをハーマイオニーは一息で飲み干してしまった。
 確か、フラッフィー見つけるのってこのときだっけ。なら私はついていかない方がいいかな。だって邪魔だろう。それに見つからなかったのが奇跡のようなギリギリさだった気がする。
 
 
 
 予想は当たっていたようだ。次の日の朝食の席では、ハーマイオニーはむっつりとした顔でハリーとロンを睨めつけていたし、ネビルは私に「いいかい、四階の禁じられた廊下は絶対行っちゃいけないよ」と何度も何度も言い含んだ。ああ、うん。見たんだろうなぁ、ケルベロス……原作ではネビルもその場にいたんだっけ。……なんだか散々だなネビルってほんとに。
 
 
 ハリーにニンバス2000が届くこと以外は平穏な日々が過ぎていった。……訂正。ハリーがシーカーになったのを喜んで、それにハーマイオニーがおかんむりになったこと以外、というのも追加で。
 彼女は完全にハリーたちを見限ってしまったようでここ数週間は全く口を聞いていない。彼らがやっとまともな会話をしたのは妖精の呪文の授業でロンとペアに組まされてしまった、ハロウィーンの日だった。
 
「言い方が間違ってるわ。ウィン・ガー・ディアム レヴィ・オー・サ。『ガー』は長ぁーくきれいに言わなくちゃ」
「そんなによくご存知なら、君がやってみろよ」
 
 不機嫌そうにぶすくれたロンに焚き付けられたハーマイオニーが咳払いをして杖をひょいっと振る。汽車内で披露してくれた時と変わらず完璧だ。しかし反してロンは盛大に顔を顰めていた。
 
 私はどうすればいいんだろう。
 
 このあとロンに酷いことを言われてしまうハーマイオニーを放っておかなくてはならないのだろうか。トロールに襲われると分かっているハーマイオニーを見捨てなくてはならないのだろうか。
 しかし変に介入してしまったら今後の物語に大きな支障がでかねない。だって今日の事件を機に彼らは唯一無二の親友になるのだから。

「エレナ、やらないならその羽根借りてもいいかい?」
「あ、ちょっと待って」
 
 プスプスと髪から煙をだすシェーマスに話しかけられる。そういえば私まだ一回も試してみてないや。そう目の前の羽根へと杖を向ける。ええと、ビューン、ひょい、だっけ。
 
「……ウィンガーディアム・レヴィオーサ」
「おーっ! ワイアットさんもやりました、グリフィンドールに五点!」
 
 ハーマイオニーは私を見て嬉しそうに少し大きな歯を見せて笑った。私の成功を心から喜んでくれているその顔に、早くも決意が鈍ってしまいそうだった。
 
 ……ごめんね、ハーマイオニー。
 

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