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女は度胸。
を、この世界の女性は体現していると思う。それにもちろん愛嬌もある。つまり最強ってわけ。ひゅう!
私に改めてそんなことを思わせてくれたハーマイオニーは、今この場にいない。それからハリーとアンブリッジもだ。あの三人は『ダンブルドアの秘密の武器』とやらが隠されている場所へと行っていた。
「やめて、ハリー! 白状しないといけないわ!」
「絶対ダメだ!」
「ど、どうして?」
ハリーは頑とした声を飛ばす。まだハーマイオニーの様子がおかしいことに気付いていなかった。
「白状しなきゃ、ハリー、どうせこの人はあなたから無理やり聞き出すじゃない。どうして……どうしてがんばるの?」
「ほう、ほう、ほう!」
ミリセント・ブルストロードのローブに顔をうずめてぐすぐす泣きだしたハーマイオニーに、アンブリッジがフクロウの物真似をした。
「ミスなんでも質問のお嬢ちゃんが、答えをくださるのね! さあ、どうぞ、嬢ちゃん、どうぞ!」
「アー、ミー、ニー!」
猿轡を噛まされた状態で、ロンが必死に叫ぶ。「ごめんなさい」弱々しくしゃくりあげるハーマイオニーに、ジニーは眉根を寄せて不信げにし、ネビルもまた息を詰まらせながら見つめた。ハーマイオニーを凝視していたハリーの顔にふと困惑の色が差し込む。お分かりいただけたようだ。
「みんな──みんな、本当にごめんなさい……」
そう、この才女、涙なんて一滴も流していないのである。
アンブリッジがハーマイオニーの両肩を押さえ、自分がさっきまで座っていた椅子に押し込んだ。「いいの、いいのよ嬢ちゃん!」と言いながら上から覗き込む。
「さあ、それじゃ……ポッターはさっき、誰と連絡を取っていたの?」
「あの──あの、なんとかしてダンブルドア先生と話をしようとしていたんです」
迷いをみせながらそっと言葉を押し出すハーマイオニーの態度は、部屋の敵を信じさせるのに充分な説得力があった。女優すぎる。
「ダンブルドア? それじゃダンブルドアがどこにいるか知ってるのね?」
「いいえ……ダイアゴン横丁の『漏れ鍋』や『三本の箒』も、『ホッグズ・ヘッド』も──」
「バカな子だ、ダンブルドアがパブなんかにいるものか。魔法省が省を挙げて捜索しているのに!」
「でも──でも、とっても大切なことを知らせたかったんです!」
ハーマイオニーはワッと激しく泣き叫んで──でていない涙を誤魔化すために──両手を顔で覆う。ミリセント・ブルストロードはもうすっかりハーマイオニーから手を離して距離をとっていた。
「なるほど? 何を知らせたかったの?」
「私たち、知らせたくて……あの、あれが──あれができたって!」
「なにが? なにができたって?」
「あの──」
ハーマイオニーの脳がフル回転してる音が聞こえてくる気がする。話しながらよくここまで考えられるな、すごい。
「武器です」
「武器? レジスタンスの手段をなにか開発していたのね? 魔法省に対して使う武器ね? もちろん、ダンブルドアの命令でしょう?」
アンブリッジのナイスアシストのおかげで一気に話が進んだ。ハーマイオニーが「は、は──はい」とあえぎあえぎ返事をする。演技派〜。
「でも、ダンブルドアは完成する前にいなくなって、それで、やっ──や、やっと私たちで完成したんです。それなのにダンブルドアがみ、見つからなくて──し、知ら、知らせられないんです!」
「どんな武器なの?」
「私たちには、よ、よく、分かりません」
ハーマイオニーの肩を掴むアンブリッジの手に力が篭って白くなる。痛みに身を捩りつつ、ハーマイオニーは激しくかぶり振った。
「た、ただ……ただ、言われたとおり──ダンブルドア先生に言われたとおり、や、やっただけ……」
アンブリッジは狂喜で身を震わせる。興奮で両眼をぎょろぎょろさせたアンブリッジは、どこかトレローニー先生を彷彿とさせた。性悪傲慢ピンクは泣き濡れる(フリの)ハーマイオニーと、死んだ顔のハリーを順繰りに見下ろす。勝ち誇って威厳たっぷりに胸を張った。
「武器の所へ案内しなさい」
これがつい五分前の話だ。
人が少なくなった室内で、護衛をすげなく断られたクラッブがイライラと舌打ちをした。腕に力をいれられたのか、捕えられているネビルが苦しそうに呻く。
「(こっからは、たしか──)」
力技でこの状況をなんとかするんだった気がする。できるかな。いや、杖を取られてるのは私とハリーとハーマイオニーだけか。なら──うわ、私展開によってはめちゃくちゃ足引っ張るかもしれない。乱闘が始まったらすぐに拘束から抜けて、できれば杖取り戻して、でも無理なら人質にならないように逃げて、それからドラコが怪我しないように──いや、忙し! 杖なしの魔女ってそれはもうただの人なんよ。視線だけで杖取り戻そうチャレンジもう一回してみようかな。
微塵も揺れない杖を再び睨むように見つめる。アクシオウィンガーディアム・レヴィオーサロコモーターちんから……いや全然動かないな。やっぱり無茶……いや為せば成る、成さねばならぬ何事も──。
コン、コン。
不意にゆったり落ち着いたノック音が鳴り響く。足音はまったくしなかったのにだ。部屋の空気がピリッと引き締まった。
「僕がでよう」
元から誰も拘束していなかったドラコが扉の前へと向かった。動くとしたら、開けた瞬間。仲間うちで素早く視線を交わす。
ドラコがゆっくりとノブを下ろした。カチャリという音がやけに大きく聞こえてくる。
扉の向こうにいるのが敵か味方かは知らないけど──
突然バーンと空気が震える。
衝撃に驚愕して見開いた双眸に映ったのは、声もなく吹き飛ぶドラコの姿だった。彼の体は部屋をまっすぐに突っ切り、壁にぶつかってとても痛そうな音を立てた。壁に背を預けたまま、ドラコはずるずると床に崩れて座り込む。頭ががくりと前に倒れた。死ん、いや、さすがにそれはないだろう、けど。
四肢を人形のようにぶら下げてまったく動くことのないドラコに、心臓が嫌な音をたてて軋む。
全員がショックで固まる中、コツリと靴音が鳴る。ハッとして戸口を見て、誰かが息を呑んだ。爆風の余韻が彼女の短い髪を揺らす。新月の夜のような黒髪が散らばると、彼女は優美な仕草で顔にかかる髪をはらい、耳にかけた。上品な二藍色に嘲弄を宿して、艶やかに玉唇を綻ばせる。
「ごきげんよう、ジャリども」
そこからは一瞬だった。その人の名前を呼ぶ間もないほどに。
劇的に登場してみせたレベッカ・スミルノフは、およそものの三十秒──二十秒? なんならもっと短かったかもしれない。とにかく彼女はほんの刹那でこの場を完全に制圧した。
同寮の生徒たちが手も足も出ないうちに動かぬ屍となったのを見下ろして、レベッカはふんと鼻を鳴らす。
「どいつもこいつもだらしないわね」
「きみ、『躊躇』や『加減』というものを知らないのかい?」
レベッカの後ろからセドリックが顔をだした。部屋の惨状にうわぁ、と顔を盛大に歪めている。いたなら止めて、と言いたいところだけどそんな時間はなかったね……。
「だいたい普段から生意気だったのよ、こいつら。目上の人間は敬う──そうね、例えばヤキソバパン買ってくるくらいの敬意をみせたらどうなの?」
レベッカは不機嫌そうにゴイルの頭に足をのせた。言動がヤンキーすぎる。倒した相手の顔を足蹴にって、それヤンキーにしか許されないムーブだからね。多分だけどみんな今、助けられた感謝より助けられて“しまった”っていう恐怖のほうが勝ってるんじゃないかな。
「お腹すいてるなら後にしてね」
「例えよ、例え!」
「……えっと、二人はどうしてここに?」
猿轡を外し、落ちた杖を拾い上げる。私が恐る恐る訊ねると、キャンキャン叫ぶレベッカを諌めていたセドリックが「きみたちがアンブリッジに捕まったって聞いたんだ」と答えた。
「昨日マクゴナガルにあんなことがあったばかりだったし……なにかよくないことが起こりそうな気がして」
「アンブリッジたちなら禁じられた森に向かっていったわ。ハーマイオニーがなに企んでるのかは知らないけど──あんまり悠長にしてる時間はないんじゃない?」
「ちょっと待って──よし、ハリーとハーマイオニーの杖だ!」
ロンは、ドラコとブルストロードのポケットから杖を回収して、嬉しそうにその二本を掲げる。
「早く二人を追いかけよう!」
バタバタとみんなが走って部屋を飛び出していく。動かない私に気付いたネビルが、部屋の外から声をかけた。
「エレナ、急がないと──」
「……う、ん。今行く──」
「先行ってなさい、ネビル」
レベッカがネビルと私の中間に立ち塞がる。ネビルが戸惑った声をあげたのが聞こえた。でも、と迷う彼に、レベッカが軽く息を吐いた。
「すぐに追っていくから」
「……分かった」
レベッカのダメ押しに、ネビルは存外素直に引き下がった。足音がどんどん遠ざかっていく。
「どうかした?」
「それ、あんたが言うの?」
「なんのことだろ」
とんでもなく冷ややかな眼差しを身体ごと逸らして受け流す。壁際に歩いていき、しゃがみこんだ。顔を俯けたまま動かないドラコの首筋に指先を添える。指先から伝わる脈拍の感覚にホッとして強ばっていた力が抜けた。
「生きてる……」
「は? 私がドラコを殺すわけないでしょ!」
「いや死んでもおかしくない勢いだったよ」
「最初はインパクトが大事なのよ。それにドラコにだけ呪いをかけないのは不自然でしょ」
理屈は分かるけど、もうちょっとなんか、穏やかにできなかったわけ? すごい音だったし、今だってまだ目を覚ましてない。こんなにぐったりしたドラコを見ていたら、助けられた分際のくせにちょっと詰め寄りたくなってしまう。
「なによその目。見た目ほどひどいことはしてないわよ」
「……そーですか」
「信じてないわね。本当に浅い眠りに落ちてるだけなんだから」
私悪くないしという憮然とした態度の彼女に呆れながら、ドラコの体を横にして床に寝かす。この体勢のままだと首が痛くなりそうだ。
「連れて行くの?」
「行かない」
立ち上がりながら短く答える。考えるより先に口が動いていた。
「巻き込みたくないから──行こう」
ドラコの無事も確認できたし、もう心残りはない。
眠っているドラコに背を向けて、部屋から出る。しかし一度足を止めて今でたばかりの部屋を振り返った。
「……猫かな」
「なに? ……ああ、あの趣味の悪い絵皿ね。あれがなに?」
「ううん、なんでもない」
訝しむレベッカに首を横に振る。
後を追ってきたレベッカのさらに後ろ──部屋の奥から、なぜか視線が突き刺さったような。そんな感じがしただけだった。
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