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 授業が終わったとき、ロンの機嫌は最悪だった。

「だから誰だってあいつには我慢できないって言うんだ。悪夢みたいなやつだよ」

 俯きながら小走りで追い越していくハーマイオニーに、ハリーが驚いた顔をしたのが見えた。「いまの、聞こえたみたい」というハリーに、ロンはちょっとだけ動揺したような声で、それでも「それがどうした?」と言葉を続ける。そんな背中を早足で追い掛けた。
 
「誰も友達がいないってことは、とっくに気付いてるだろうさ」
「それって誰の話?」
「うげっエレナ……」
 
 ぱっと後ろを振り返ったロンは私の顔をみて「しまった」と言いたげに顔を青くさせた。ハリーも似たり寄ったりな顔できまずげにしている。
 
「ハーマイオニーはいい子だよ。二人もきっとすぐに分かるはず」
「……そんな日、一生来るもんか」
 
 よけい頑なになってしまったロンにため息を吐いた。もうこれ以上言っても意味はないだろう。直接その身で分かってもらわねば。もとより説得する気はなかったし、と二人を追い抜かして、駆けていった栗色を探す。角を曲がる彼女を追っていけば、女子トイレに辿り着いた。閉じられた個室の戸をノックしようとして止める。代わりにそうっと小さく声をかけた。
 
「ハーマイオニー? ここにいるんでしょ?」
「……帰って。悪いけど一人になりたいの」
「……分かった」
 
 戸越に聞こえたくぐもった声を聞いてここは素直に引き下がる。心配だけど、ハリーとロンが助けに来てくれるはずだし。
 先生には具合が悪いようだと伝えておこう。あとでノートを見せなきゃだから普段の数倍気を付けてノートを取らなきゃ。
 
 「どうせあなたも」という掠れた声には気付かないふりをした。
 
 
 
 夕飯を食べる気にもなれず、寮の部屋へと一人戻る。ハロウィーンパーティならどうせ来年もあるだろう。
 
「……ハロウィーンは終わって、次はクリスマスにみぞの鏡で……あれ、その次はなんだっけ? もう賢者の石……あっハグリッドのドラゴン!」
 
 さすがに一五〇点減点はなぁ……阻止した方がいいのだろうか? でも結局はどうにかなるし。むしろスリザリンが可哀想なくらいなんとかなってしまうし。それにあの罰則でヴォルデモートの存在を知るんだからこれも余計なことしないが吉なのかもしれない。
 
「……『どうして助けてくれるの』だなんて」
 
 やめてほしい。あんなの、助けたうちになんて入らない。それに肝心なときには結局なんにも出来てないのだから。現に今、私はハーマイオニーを『助けない』という選択をした。
 
 この前から……というより、この『世界』に産まれたと知ったときから私は迷っていた。動くべきか否かと。ネビルのおできが出来るのを回避する、とかそんな可愛いものではなく、死すべき運命の『彼ら』を助けるために動くかどうか、とかそういうものだ。
 
 結局、私はなにもしないで生きていくのだろうか。ただ流れに身を任せて、他の生徒と同じように。『それのなにが悪い』という想いとどこか後ろめたい罪悪感のような想いの間でグラグラと揺れ動いている。優柔不断で嫌になる。天井を仰いで手で目元を覆った。
 
 
 これからについて考えていれば、談話室の方が騒がしくなった。トロールが来たから談話室でパーティになったのか。いつ人が入ってくるか分からない所でこんなことし続けるわけにもいかないのでメモしていた羊皮紙の束を鞄の奥底に突っ込んで片付ける。ベットに潜り込んでなんとなく杖を振る。
 
「……エクスペクト・パトローナム」
 
 はは、絶不調だ。
 モヤどころかなんにも出なかった杖先を見てから笑いがこぼれた。
 
 
 
 ハロウィーンの翌日、談話室へ下りれば扉のそばでハーマイオニーが私を待っていた。手を前で組んでもじもじと視線を泳がせている。
 
「エレナ、その、昨日は私──」
「ハーマイオニー」
 
 謝ろうとするのを遮れば彼女はビクッと肩を跳ねさせた。上目遣いをするようにそろりとこちらを窺ってくるハーマイオニーに持っていた羊皮紙を押し付ける。虚をつかれたような顔をして彼女は紙の束を検分した。
 
「……これって」
「昨日の分のノート。ハーマイオニーほどしっかりとれてないとは思うけど、わっ?!」
「……ありがとう」
 
 突然勢いよく抱き着かれてその場でたたらを踏む。私の首に顔を埋めていて、彼女の表情は見えないが小さく鼻を啜る音が聞こえた。ふわふわとした髪をゆっくり撫でれば抱き締める力が強くなった。
 

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