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 あー、終わったな〜。

 先日のガチ拒絶を思い出して胃が重くなる。絶望で吐きそう、なんか頭痛い。もう終わったよこれ。今年はもうだめ、終わり、地球は爆発するんだ。あの後なんて一言も喋らなかったからね。キツ。いや、無視とかではない。ただドラコは基本無言で黙々と作業していて、私が勝手にその雰囲気に委縮して話せなくなったっていう、なんとも情けない事情でだ。なおキツい。

 絶対DAバレ時の信頼大暴落イベントが原因だ。あの時の私は自身のアイデアロール回避に必死で気付かないふりというか、現実逃避をしてしまっていたが。今になってそのツケが回ってきたってわけね。因果応報……日頃の行い……。こんなんでよくリータに偉そうなことを言えたもんだな、極刑でしょ。
 ……でも、でもやっぱ無理じゃない? あの時は頼れなくない? 頼りないとかそういう話ではなく、実際問題彼には立場ってものがある。『どうでもよかった』と言われましても、いやまさかあの時点でそんなに私に執着してたなんて知らないし……。その、そこまで拗らせてるとは思わないじゃん……。それに、ドラコがマグルを庇っていたなんてもしヴォルデモートに伝わりでもしたら殺されてしまっていたかもしれないんだ。そういう──大局? を見たらやっぱり頼らないというのは正しい判断だったと思う。そもそも私だってできることなら心配も迷惑もかけたくないし。うん、こうなったってしょうがないよね。

「(っていう開き直りで済む問題だったらなあ〜!)」
「エレナ、泡」
「うわごめん」

 ハーマイオニーの声に抱き締めていた枕から頭を持ち上げると、私の杖から溢れ出たカラフルなシャボンが寝室を満たしていた。またやっちゃった。実は今年度に入ってから私にも叔父さんと同様の変な癖がついてしまっていた。原因は不明だけど綺麗だから正直少し気に入ってはいる。ただ今度は私が迷惑かける側に回ってしまったなあ。魔力制御、気を付けよ。考え事するときは杖置いとかなきゃと思うんだけど、なんか手持無沙汰なときってあるじゃん? 弄っちゃうよね〜。
 謝りながら杖を振り、充満していた泡が弾けたのを確認してから私はまた枕に顔を埋めた。

「……なにか悩み事?」
「いや、あー、うーん……」

 違うよと言いたかったけど、あんなにたくさんの泡を発生させたばかりだ。うそだって丸わかりだろう。分かりきっていることを誤魔化すのは、なんかちょっと、信頼を裏切っている気持ちになるというか……。
 うつ伏せのまま頭だけを動かし、ハーマイオニーを見た。ベッドに座っている彼女も本から目線を外して私を見ている。

「べつに、ただ……なんとなく……」
「……」
「……あの、ちょっと聞いてほしいんだけど、今って──」
「っええ、もちろん聞くわ!」
「いやめっちゃいい笑顔……。百点」

 待ち構えられていたかのように早い返事にちょっと戸惑う。ハーマイオニーはやけに嬉しそうだった。ちょうど気分転換でもしたかったのかもしれない。
 彼女は開いてるだけだった本をベッドにぽーんと放って、いそいそと飛び乗る勢いで私のベッドに移動してきた。珍しくわんぱくなハーマイオニーに慌てながらも起き上がってスペースを作る。別に読書の片手間でもよかったんだけどな?! 真面目、好きだ。

「それで、なにかしら?」
「ええと──……」

 私を間近から──いやほんと近い、なんで? ちょっとだけ背中を逸らした──見つめる瞳は心なしか輝いてる。……もしかして勉強の話だと思ってる? うわきっとそう、このわくわくしようは絶対そう。

「ごめんあの、勉強の相談とかでは全然ないんですけど……」
「分かってるわよ、それくらい」
「(ほんとかな……)」
「分かってるから、ほら──なんの相談なの?」
「わ、私……」

 まだ何も話していないのに、この時点で既にハーマイオニーの顔はぱあっとほころんでいた。う、眩しい可愛い。ほんとうになにを期待してるのかなこの子……。

「私……、……の、友達の話なんだけどね!」
「……友達? だれ?」
「マグル! この学校の人じゃない、あの、地元の人!」
「ふーーーん……」

 ハーマイオニーのテンションが突然一気に下がった。それはそう、彼女からすればまったく関係ない人の話を聞かされるんだもの。やっぱり聞くのやめとく? と尋ねたが「だめよ言って!」と強く言われ、なぜか腕をがっしり掴まれる。え、逃げると思われてるの……?

「友達がね、えー……ある男の子のことをすごく心配してて」
「男の子。イニシャルとかないの?」
「ない、知らない──だけどその男の子は友達に心配されたくないっぽくて」
「あら、そんなのただカッコつけたいだけよ」

 ハーマイオニーは目を細めてばっさり言った。なにか思い出が刺激されたのか、「男の子って変なところで頑なで意固地なんだから」とちょっと怒ってすらいるような彼女に「そうかもね」と苦笑する。

「でもそうさせちゃったのは私、の友達なんだ。自分は頼らないくせに頼ってほしいとかわがまま押し付けてるんだよ。男の子が頼っていいよって言ってくれてたときはずっと無碍にしてたくせに」
「……そうなの?」
「うん……だから、まあ、つまり自業自得だよね!」

 やっぱり結論はこれだな。こうして俯瞰的に説明すると状況がよく分かる、すっきりした。あははと笑ってみせると、ハーマイオニーは痛ましそうな表情で私を見た。しまった、他人の話前提なの忘れてた。薄情な友達だと思われたかも。

「……そもそも、どうしてその子は男の子を頼らなかったのかしら」
「心配も迷惑もかけたくないからって」
「心配や迷惑をかけることの何がいけないの?」
「えっ……なにもかもが?」
「ちゃんと考えてる?」

 睨まれてしまった。ハーマイオニーは呆れつつ「たしかに無闇矢鱈はよくないわ」と前置きをする。

「けど、少なくともその男の子は心配させてほしかったし、迷惑もかけてほしかったんじゃない?」
「な、なんで? そんなの、どっちもしたがるようなもんじゃなくない?」
「普通はそうかもしれないけど……でも心配させてくれて迷惑もかけてくれるってそれだけ自分に心を許してくれてるっていう証拠みたいなものでしょう? その人の心に近付けてる気持ちになるというか……だから不安にさせられる分と同じか、それ以上の安心感も得られるわ。要は、多分その男の子は頼ってほしいというよりも──もちろん心配もしてたでしょうけど──、『自分はその子の特別なんだ』っていう確証がほしくてずっと──……エレナ?」
「そんな」
「え?」
「頼らなくったって特別なのに」

 つらつら語っていた彼女が息を呑んでやっと失言だったと気付き、顔を逸らして「多分」と他人事のように付け足して誤魔化す。

「うそ、やっぱ特別じゃないのかもね」
「そんな、いいえ、そんなはず──!」
「にしても、ハーマイオニーってなんでも分かるんだねえ。どうして?」
「……、……私はただ、話を聞いて考えてみただけよ。合ってるかは分からないわ。でも──ねえ、エレナ?」

 ハーマイオニーは優しい声で呼びかけると、私の手を両手でそっと握る。私はその柔らかさと温かさで不思議と泣きたいような気持にさえなった。

「私、あなたにこうして話してもらえて嬉しかったのよ。迷惑だなんてちっとも思わなかったわ」
「ハーマイオニー……、……いやこれ友達の話で──」
「だとしてもよ!」

 いらいらとした調子で手にぎゅうぎゅうと力を込められた。痛くはないな、なんていうか絶妙。

「……なんだか皮膚が厚くなったんじゃない?」
「マ? 筋トレの成果かな」
「夏から始めたんだっけ。でもあんまり腕とかまで太くなってしまうとドレスが──そういえばあなた、クリスマスのパーティどうするの?」
「あ、私その日バックビークに乗ってプレゼント配らなきゃだからちょっと……」
「なにがちょっとなの」

 ちょっと参加は無理かな。だいたいちょっとしたパーティ用のドレスなんて用意してない。なんでみんな常備してるの?

「ドレスなんてそんなのレンタルの子だっているわ──それよりもうあんまり問題起こしちゃだめよ。マクゴナガル先生が心労で倒れられたらどうするの?」
「冗談冗談、そんなことしないよ」
「やりかねないのよ……」
「大人しく談話室で宿題でもやってるってば」

 呆れたような溜息を吐きながらハーマイオニーは立ち上がる。「そっちこそパーティどうするの?」ふと気になって問いかけると、彼女は毛布を捲った体勢でぴしりと固まった。

「行くんでしょ?」
「……一応、ロンに声をかけてみるつもりなの」
「わーお。ついに」

 六年目にして──そしてライバルも登場したことだし──勝負にでるのね。そんな気持ちを込めた声が茶化しているように聞こえたのか、ハーマイオニーは顔を赤らめて頭までベッドに潜り込んでしまった。そんなつもりなかったんだけど、と申し訳なくなりながら記憶を探る。


 明日は年度初のクィディッチの試合がある。対戦相手はスリザリン。この前のホグズミード休みの日にケイティが呪いのネックレスに触れてしまい、入院中となってしまったが、代打ディーンをいれた新生チームはそれなりにうまくいっていると聞いた。あがり症のロンがみんなに当たり散らしている以外は。

 さてそんな明日の試合、記憶通りならたしかロンは──


 寝室の扉が開き、ラベンダーとパーバティが入ってくる。消灯時間でもないのにすでに膨らんでいるベッドを見て、ラベンダーは首を傾げた。

「ハーマイオニー、もう寝たの?」
「うん」
「へえ」

 聞いてきたくせにそこまでの興味はないようだった。彼女は気のない返事をしながらお気に入りのハート型クッションを赤ちゃんのように胸に抱いた。

「明日の試合、とっても楽しみだわ!」

 勝ったと決まったわけでもないのに早くも恍惚としているラベンダーに、パーバティは「はいはい」とおざなりに流す。そんな彼女から一瞬『困ったものよね』と流し目が送られてきた。うん、困る、いや本当に……。

「……荒れそ〜」
「天気? そうね、雪、夜のうちに止むといいけど」

 そうっていうか、荒れるんだけど。
 約束された絶望の未来に堪えきれなかった呟きを拾って、パーバティがカーテンを少し捲る。唸りを上げる風音や絶え間なく窓へ叩きつけられる雪に、そっちの期待もできそうにないなと思った。
 

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