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 十二月二十五日。優等生な私は早くも宿題を終わらせ登山に励んでいた。みんなより多いからな、と思ってしぶしぶ始めたら案外すぐ終わった。

「荒れ果てとる……」

 少し迷った末に辿り着いたのは懐かしい花畑──があったはずの場所。雑草が生えっぱなしのみすぼらしい光景を前にして、予想はしていたけれどと嘆息する。やはりムネモリアはルシウス・マルフォイが一輪残らず採取していってしまったのだろう。

「こんなところでなにしてるんだ?」
「叔父さん」

 私って背後をとられる率が高い気がする。どうして……ニンジャなのに……そんな不服感から、ちょっとした意趣返しのつもりで「実はね」と口を開いた。叔父さんは堪えきれなかった私の笑みを見て不気味そうにしているが、しかしそんな顔していられるのも今のうちだと知っている。

「昔ここにムネモリアの花畑があったんだよ」
「花畑?!」

 叔父さんは目を剥いて更地と私を五度見した。ほーら、そうなると思った。予想通り取り乱す叔父さんに満足してにんまりが深まる。でもアンブリッジみたいな笑い方になってるかもしれないと思ってすぐに笑顔を引っ込めた。「なんで教えてくれなかったんだ!」という嘆き声が辺りに響く。だって忘れてたんだもん。ていうか庭のだけで満足してよ、毎年ごっそりとっていくくせに。

「はー、花畑、ムネモリアの花畑か……絶景だったろうな、色んな意味で……」
「言いたいことは分かるけど」

 分かるけど、下衆い。思わず渋い顔になった。私も魔女になってそれなりになるし、あの花の希少さも少しは分かってきたつもりだ。授業で出てきたことなんて一度だってないし、教科書でその名を見かけたこともない。本当に珍しいのだろう。でもあの頃は価値を知らなかった分綺麗な心で花畑見れてよかったな。
 姪がすっかり冷めきっていると気付いた叔父さんは「なんだよ」と不機嫌そうに目を細めた。

「その花畑さえ使えていたら抽出液ももっとたくさん用意できたんだぞ。お前に渡した分だけで庭のムネモリア六年分なんだからな」
「あれっぽっちで?!」
「あれっぽっちとかいうな!」

 さすがに失礼だったなと素直に謝る。でも今年のクリスマスプレゼントであるムネモリアの抽出液、本当に少なかった。目分量だが大匙三くらいだろうか。あれで六年分なんだと、教えてもらった今改めてびっくりする。高いからケチったのかなとか思っててごめん。

「お前のことだから私がケチったのだと思っていたんだろう」
「思ってないよ」
「本当か?──そうそう、渡した本にも書いてあったと思うが、ムネモリアを使った薬の調合には十か月近くかかるんだ。学校に戻ったらすぐに作りはじめるといい」
「うん」

 抽出液と一緒に贈られたのはムネモリアの専門書だった。かなり古いものでところどころ消えていて読めなかったが、大事な箇所──ムネモリアを使用した治療薬についての部分はきちんと確認できた。読んだところ、デメリットはもちろんあるけどかなりの万能薬のようだ。これがナギニの毒にも通用するか、そしてスネイプ先生が噛まれる瞬間に居合わせることができるかがネックになってくるだろう。特に二個目。仮に薬が効くとしても息絶える前に処方できなければ何の意味もないから。

「それで、ドラコ・マルフォイの件はうまくいってるのか?」
「正直芳しくない……」
「だろうな……」

 ドラコと話したのは罰則の日が最後だ。今ではなぜか話しかけちゃいけない気すらしてきていた。うーん、なんでだろ。第六感? 記憶持ちとしての勘かな。そういえばこれまた触れちゃいけない気がしているクリスマスパーティの日、いったいどうしてネビルはイタチの守護霊の話をしたんだろう。申し訳ないがイタチの守護霊の主は知らないなあ。原作で出てきてたっけ。ドラコの守護霊だったらケナガイタチなんだけど。あれ、一緒かな。私イタチってドラコの守護霊でしか見たことないからわかんないな……。

「ま、無理なら私に任せておきなさい。ホグワーツきっての人気補助職員であるこの私に」
「図に乗っちゃって……マクゴナガル先生に生徒人気で勝てると思ってるの?」
「あの厳しさは人を選ぶだろ。というかミネルバから苦情が来てるんだが? お前いつもあんなにはっちゃけてたのか? 私には優等生とか自称しておいて?」
「今年は特例です! 城を堪能したいだけ」
「はた迷惑な堪能の仕方だなあ……ああそうだ──ほらこれ」
「……手紙? 誰から?」
「それはな、来年の誕生日のお前に向けた手紙さ。私からの」
「なんで?」

 流れ的にマクゴナガル先生からかと思ってしまった。こういうのは当日渡してくれよと思いつつ、この場で開けちゃおうかなと封筒のやたら凝った印璽を剥がしにかかる。が、全然剥がせなかった。

「無駄無駄。なにせ来年の八月一日にならないと何があっても絶対に開かないようにしてるからな」
「じゃあ最初から来年渡してくれない?」

 ドヤ顔しないで。ほとんど意味ないような感じしちゃうんだけど、そのこだわりほんとなに? 変なところに妙な労力をかけて……暇なのかな。スネイプ先生の補助なんてすることなさそうだもんね。

「そういえば今日は一日ごろごろするって言ってなかったっけ」
「いや今家にアルバスが来てるんだよ……」
「なんで???」
「来ちゃったんだもん」
「幼馴染の気安さじゃん……」

 あなたの友達でしょ、ちゃんと責任取ってくださいよ。私の生活領域にダンブルドアの影が本格的にちらつきだしてる気がするんですけど。ただでさえ苦手意識があるのに校長と楽しくチキンなんてつつけるわけない。夕食いるのかな……いそうだな……。

「……待って、ダンブルドアをお母さんたちと一緒の空間に放置してきたの?」
「うん。あ、もしかしたらヘレンのダンブルドアセンサーが反応してうっかり記憶が戻っちゃうかもな〜」
「かもな〜じゃないが?!」

  のほほんと笑っている叔父さんの背中を押していく。もういっそ姿あらわししてくれないかな?! いつもはどんな些細なことでも魔法でちょちょいのちょいでマグル式を大笑いするくせに……。

「ねえ、今年ダンブルドアの手ってなんかならなかったっけ?」
「手ェ? さあなぁ……」

 そうしてたっぷり一時間かけていざ帰宅してみれば、かのアルバス・ダンブルドア校長が私のエプロンを身に付け手際よくチーズを切り分けていたので私は発狂した。なにさせてんのなにしてんの。平謝りしながらナイフを奪いエプロンを剥ぎとった私を叔父さんは爆笑しながら見ていた。

「アルバス・ダンブルドアを脱がせた女……」
「ダンブルドア! 校長! 先生! この人前先生からもらった試合チケット転売しようとしてました!!」
「おい待て違うだろそれは」
「ほう?」

 私の告げ口に笑いは止まり、代わりに拙い言い訳が始まる。叔父さんの口は呆れ顔のお母さんがお父さんの作ったプディングを運んでくるまで止まらなかった。

「まったく二人とも。手伝いもせずなにしてるの」
「だって叔父さんが」
「だってエレナが」
「お客様だっていうのに進んで手伝いをしてくれたアルバスさんを見習ってほしいわ」

 アルバスさんとか呼んでるよ勘弁して。
 お父さんに呼ばれ台所に戻ったお母さんの背中を見ながら、校長先生は楽しそうにキラキラ青い目を光らせた。いつもと変わらない綺麗な白い手が長い髭を撫でつける。

「儂含め、彼女にはこの場にいる全員頭が上がらないの」

 あ、先生までその括りに入っちゃうのか……。しかしなんであれ、その言葉は本当にその通りだなと思った。

###

 クリスマスは家族で過ごすんだいと言って私を帰還させたくせに、叔父さんはクリスマスの翌日にはダンブルドア(しっかりうちに一泊していった)と一緒に出掛けて行ってしまった。言い出しっぺのくせに……。


 なんとなく不完全燃焼のようなすっきりしない気持ちで休暇を終えて城に戻る。戻って直ぐに私はクリスマスの翌日叔父さんからもらったアドバイス通り、地下牢にあるスネイプ先生の研究室へと足を運んだ。

「薬の作り方を教えていただきたいのですが」

 この薬は要注意薬物等の取り扱いが多いため、実は薬草学者か魔法薬学者その他の資格保有者の監修外での調合は禁止されている。薬草学も魔法薬学も、当然癒者の資格も持っていない、さらにその上未成年の私には煎じること自体がタブー行為だ。
 まあそうでなくても十か月もかかる薬の調合なんて独学じゃ普通に無理。私はハーマイオニーではないのだ。よってこういうのはプロに頼るのが一番確実。

 そんな思いで訪れた私を、スネイプ先生は心底鬱陶しそうに見下ろした。休み明け一番で厄介な補助職員の親戚である生徒の顔を見たのだからそんな顔したくなる気持ちは分かる。でも授業で協力してるんだしたまには得点以外のご褒美をくれてもよくないか。

「……ミス・ワイアットはたった二週間ばかり学校を離れただけで現在誰が魔法薬学を指導しているか忘れてしまったようだな」

 慈悲、どこ。真顔の一息でそう言い切って、先生は「スラグホーン教授にはしかとそのように伝えておこう」とドアを閉めようとした。断られた時点で引き下がる予定だったが計画を変更して閉まりかけていた扉を慌てて両手で掴む。門前払いだけならまだしも余計な特典までつきそうとなれば話は変わってくるのよ。

「行儀の悪い。離したまえ」
「いや、風評被害は困ります!」

 だって私の今期の得点はほとんど全部闇の魔術に対する防衛術の某教授からいただいたものだ。だれが何の教科を教えてるかくらいちゃんと理解している。

「それに、理解したうえでスネイプ先生にお聞きしたかったんです。スラグホーン先生だって魔法薬学のスペシャリストだというのはもちろん理解しているんですが……でもやっぱり魔法薬についてならスネイプ先生にお聞きするのが一番正確だと思うし、なにより個人的にとても信頼している先生のため安心するので」

──『教わるならホラスよりセブルスがいいだろう。ホラスは……ちょろまかしそうだし……』

 困り顔で叔父さんはそう言っていた。私もそう思う。ムネモリアって貴重だからさ。学術的興味で半分以上持っていかれてしまったりしたら困るんだ。

 なんていう本音を隠して、じいっと『ただお慕いしてるだけなんです、害はないんです』という思いを込めて見つめる。ほらこの純真無垢な(はずの)目を見てほしい。私はどこぞの黒犬ほどの不快感をあなたに与えはしないでしょう? 仮にも生徒なんだし。多分この要素が一番大きいと思う。なぜってあちらは仮にも教師だ。こんなクソガキでも可愛いと思う感情がミクロンくらいはあったら嬉しいんだけど……。

 一分ほどそんな時間が続くと、先生は面倒くさそうな難しい表情を崩さないまま無言でローブを翻した。

「先生?」
「見るだけ見て差し上げよう」

 やった! そう声に出しかけたけど心の中だけになんとか留める。何がきっかけで心変わりしてしまうか分からない。どこに地雷があるか分からないからなこの人。ある意味しっぽ爆発スクリュートより未知で怖いと思う。

 小瓶や鍋など、その他調合に使用するような細々としたもの避けて抱えていた本をテーブルに置く。「この薬なんですけど」と該当ページを開くと、先生はそれ見えてる? と聞きたくなるほど目を細め、キスしてんのかと思うくらい顔を本に近付けた。室内は元から派手な照明などない上、部屋のあちこちに点在する調合中の鍋から漂う湯気のせいで空気は淀んでいてぼんやりしてるし……この環境、目を悪くする悪循環のいい例だな。もし先の大戦で助けることができたとしても不摂生で死んでしまいそうだ。

「(助けるための薬なのに本人から教わるっていうのもなんか変な話……)」
「ワイアット」
「あ、はい」
「残念ながらこの薬は二週間で半年余りのことを忘れる程度の脳みその持ち主に調合できる代物ではない」
「前から思ってたんですけど、先生はもう少し『教える』といったことを意識した方がいいと思います」

 この際だから言っちゃおうとぶっちゃけたら減点された。しかしはっきり口にされてプライドにきたのか、不愛想ながらもコツはちゃんと教えてくれた。要所要所の簡潔なポイント説明は非常に分かりやすく、さすがプリンスとスピーカーでお礼を言いたくなった。

 なんて、そんなことは当然できるわけないので、代わりに私の中で『好物なのでは』とまことしやかに囁かれているブラマンジェを贈っておこう。ここ数年観察していて食べてる回数が多かった気がする。いや決してストーカーとかじゃないです。学術的興味でね。
 

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