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葬儀当日。
一度朝食のために全員が広間に集まったけれど、全員朝食など食べる気もしないようで大広間の空気は重い。入学して一番静かで居心地の悪い食事だ。きっと、教職員テーブルの中央に残された空っぽの玉座が放つ異様な存在感のせいだろう。
ただ空っぽなのは校長の席だけじゃない。セブルス・スネイプとルビウス・ハグリッドの姿もなかった。後者は食欲がないだけだろうが、スネイプ先生は……。その思考につられて視線がスリザリンのテーブルへと動いた。クラッブとゴイルの間は不自然に開いている。ドラコより大きいはずの彼らは不思議と普段より小さいように見えた。彼らなりにドラコのことを案じているのかもしれない。
ドラコとスネイプ先生はきっとお屋敷にいるのだろう。ていうかヴォルデモート、原作では先生が殺したって知ってたけど、上司的にありなんだ、それ。ドラコ“が”殺すことが大事だったんじゃないの? 二人して命令を違えてるけど……。そんなことよりダンブルドアが消えたことに意識がいってるのかな。そういうところは柔軟というか意外と優しいっていうか正直チョロいというか。まあそのチョロさのおかげで、マルフォイ家は首の皮一枚繋がったということになるんだけど。なんであれ、ダンブルドア死亡の一翼を担ったドラコはしばらくは重宝されることだろう。
「まもなく時間です」
マクゴナガル先生──今は代理で校長は、葬儀用の黒一色のローブを着ている──が立ち上がり、「寮監に従って校庭へ出るように」と指示をする。スリザリン生はスネイプ先生が不在のため、スラグホーン先生の後についていった。
いつも通りきりりとした態度を貫くマクゴナガル先生を追って、列をなして大広間から移動していく。私たちは玄関扉から外に出て湖へと向かった。芝生をそよぐ風が優しく私たちを包み込む。どこまでも飛んでいけそうな澄んだ天空はダンブルドアの瞳にそっくりだった。ほんとう、嫌味なくらい天気の良い日だ。辟易して逆に笑いたくなる。
湖のほとりには何百という椅子が中央で道を作り並んでいる。すでにダンブルドアにお別れを言いたい魔女や魔法使いで半分ほど埋まっていた。キングズリーやマッド・アイのほか、惨めな顔のファッジや新大臣のルーファス・スクリムジョール、それからなんと忌々しいアンブリッジまでいる。なんて厚顔なんだあいつは。白々しい悲痛の表情を顔に張り付けていたガマに最後の悪戯を仕掛けたろかなと思ったが、ケンタウルスの集団にビビって転びかけていたので私から何かするのはやめた。いい気味だった。ZA・MA・A! ちょっとすっきりしたしピーブズ呼んでくるだけにしとこ。
「(あ、ホッグズ・ヘッドの──)」
参列者の中にホッグズ・ヘッドのバーテン──アバーフォース・ダンブルドアを見つけた。声をかけるか一瞬迷ったが、私とあの店主は気軽に談笑するような関係でもない。あとで叔父さんと話してみよう。
並んだ椅子の前方には大理石の台座が用意されていた。私とネビル、そしてたまたま近くにいたルーナは列の真ん中辺りに腰掛けて葬儀が始まるのを待つ。先生方も全員着席すると、どこからともなく音楽が聴こえてきた。
「あそこよ」
音の発生源を探しているとルーナが湖のほうを指差した。陽の光を受けて緑色に輝く湖の浅瀬では、紫色の髪を揺蕩わせた水中人が顔を並べて口をパクパク動かしている。不協和音ともいえるような奇怪な揺らめきの唄には、ダンブルドアを悼む水中人の悲しみがたっぷり込められているようだった。
不意に中央の道に大きな影が伸びる。顔をぐしょ濡れにしたハグリッドが立っていた。彼は金色の光を散りばめた紫のビロードをまとったダンブルドアを横抱きにして運んでいく。姫抱きされている事実に噴き出しそうになると同時に、遺体を燃やしてやりたい衝動に駆られた。火葬、火力こそがすべて。日本人ならやっぱり火葬でしょ。私も死ぬときは火葬がいいな。
ダンブルドアの亡骸が大理石に寝かせられると、黒いローブの小柄な魔法使いが立ち上がり、故人を称え、そして冥福を祈る言葉をつらつらと述べはじめた。「高貴な魂」とか「偉大な精神」とか、そういった仰々しいワードを右から左に聞き流す。ちょっと今日日差しが強いからね、頭が熱くてぼうっとしてくるんだよ。喉乾いたし。
船をこきかけながらギリギリのところで意識を保っていると、少し前で見慣れた金髪が太陽を反射させて光った。叔父さん、この演説どう思ってるのかな。ていうかもう叔父さんがやればよかったのに。あの人なら追悼の言葉を三言くらいですぱっと終わらせてくれていただろう。……そう思うとなんか腹が立ってきたな。なんで立候補しなかったんだ。
長ったらしい演説がやっと終わったと思ったら、突然悲鳴が上がって意識がはっきりした。ダンブルドアの亡骸とそれを載せた台の周りに、眩い白い炎が燃え上がっている。炎は高く舞い上がり、亡骸が陽炎でグラグラ霞む。不死鳥がほんの刹那青い空で踊り、溶けるように姿を消した。
みんながざわつく中、忠誠心の強いフォークスの気遣いに私は胸元を握り締める。けれど感傷に浸りかけたところで矢の雨が降ってきて再び悲鳴が沸き起こった。ケンタウルスが矢を一斉噴射したらしい。大量の矢は参列者には掠りもしない場所にはるか離れた場所に落ちたが、いやあぶねえ。ケンタウルスは仕事を終えたといわんばかりの顔をして、颯爽と涼しい森の中へと帰っていった。彼らに触発されたのか水中人たちも湖面から顔をだし一人一鳴きしてパシャパシャと水面を叩き湖の中へと戻っていく。水中からだと美しい声も、ひとたび陸に出るとその声はパーシーの鼻歌(聞いたことないけど)へと早変わりしてしまう。鼓膜を破る音量のそれに、参列者は全員耳を抑えて頭を抱えた。おおう、人外フェスティバル……。
「え、終わったの?」
「……たぶん?」
参列者が一人また一人と立ち上がり、完全にお開きの空気が流れ始めた。魔法生物たちが突然謎の連携を見せてハッスルしたことで、葬儀は微妙な感じで終わってしまったようだ。いまいち締まらないな……。でもこれ以上長い話を聞くのはいやだから、ラッキーだと思っておこう。
「エレナ、どこ行くの?」
「叔父さんが呼んでたの、先行ってて」
ネビルたちと別れ、叔父さんを探していると、あっちも探していたのかすぐに見つかる。彼はケンタウルスが消えていった森のほうへ私を誘った。
二人分の落ち葉を踏みしめるシャクシャクという音がする。あっという間に辺りは木の葉の影で薄暗くなり、そんな木々のさざめきが人の喧騒を呑み込んですっかり人気がなくなった。ぐちゃぐちゃな道を辿ってきたから、ここではぐれたら一生森から出られない気がする。それにこんな森の奥深くに来たのは初めてだ。でもこの人が一緒ならなにも怖くない。
私たちが足を止めると、すぐに燃えるような紅の羽をした大きな鳥が叔父さんの腕に降り立った。
「フォークス、引き取ってもいいんだ」
「それがこれの意志のようだからな」
本来ならダンブルドアのペットだし、相続がどうとか色々あるだろう。でも動物の心は左右できないもんね。甘えて頭を擦り寄せてくる不死鳥に、叔父さんも愛おしそう目を緩ませた。しかし瞬き一つでその柔らかい表情を消しさる。
「エレナ」
「やめて」
固い声に深く息を吐く。やだなこの人。また謝るつもりだよ。うんざりして顔を背けた先で木苺が生っているのを見つけた。ひざを折ってしゃがみ、たわわに実った真っ赤な実を指先で撫でる。
「(木苺ならコンポートじゃなくてジャムかな……)」
前コンポートを作った時はダンブルドアに連れ去られちゃって食べれなかったよなあ。あの時のひどい断末魔を思い出して笑う。
「家帰ったらいちごのコンポート作るね」
「それは……──ああ、楽しみにしているよ」
立ち上がって笑ってみせる。彼は脈絡のない話題に戸惑っていたが、それでも明るい──この空と同じ青い目を哀しそうに細めた。
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