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グリモールド・プレイスに戻ったらハーマイオニーにギャン泣きされたし、シリウス、ルーピン先生をはじめとした大人組に「誰にも行き先を告げず出掛けるなんて」とシンプルに危機管理意識をしっかり怒られた。100私が悪いです。
これ以上の暴走を危惧され、私はしばらく叔父さん宅に帰ることすら禁止にされてしまった。もうしないって何度も言ったのに聞き入れてもらえなかった。
「エドガーにも一緒に残っておけと言ったんだがな」
「発案者ムーディ先生だったんだ」
「文句があるのか」
じろりと睨まれて肩を竦める。文句はないよ。ただ止めない止めない言ってたくせにすごい止めようとしてくるしめっちゃツンデレだなってだけ。
そんなわけで、私はグリモールド・プレイスで生活することとなった。外出は基本禁止でほぼ軟禁状態だ。完全自業自得なので文句は言うまい……。今月いっぱいは薬の調合もできそうにないけど、まあ時間の余裕は多分あるから降って沸いた夏休みだと思うことにしよう。
一昨年のように滞在させてもらうことになったグリモールド・プレイス十二番地は、これまた一昨年同様に騎士団本部のままだった。引っ越していないどころか本部として使っているなんて思わなかったので、これには正直かなり驚いた。だってスネイプ先生もここの秘密の守り人なのに。記憶の通りならスネイプ先生がこの場所を木魚に教えることはなかったはずだけど、メンバーこそ危機管理意識大丈夫かな。私のこと言えなくない? なんて言ったらまたお説教されそうなので心のうちに留めておく。
「シリウスが『当主として離れるわけにはいかない』って頑なだったの」
「シリウスって双子だっけ」
「そうそう、みんなそんな反応をしてたわ」
夕食の準備を手伝いながら、ソフィアが教えてくれる。錯乱の呪文的なものをかけられたのか、もしくは別人なんじゃないかって一日かけてみっちり身体検査されたらしい。当然だ、だってシリウス・ブラックはこのお屋敷にいい思い出はないと隙あらば語っていた。忌々しく家系図のタペストリーを睨みつけ、家に代々仕えてきた屋敷しもべ妖精には辛辣に当たり、家の家紋が入った食器や骨董品はマンダンガスさんに押し付ける。そんなおよそ当主の所業とは思えない行動ばかりをしてきていた。マンダンガスさんの件はウィーズリーおばさんとハーマイオニーが結託して阻止してたけど。
「本部として使用してるうちに愛着が湧いてきた……わけはないよね」
「……それも有り得なくはないと思うわ」
「ええ? 信じられない……」
「なんにせよ、私にも真意を教えてくれなくて」
彼女は杖を動かして魚を器用に三枚に下しながら口を尖らせた。が、「でも」とぽっと頬を赤らめる。
「みんなに堂々宣言したシリウス、とってもかっこよかったのよ」
「仲がよろしいことで」
その魚、焼かなくていいんじゃない? 熱い熱いと手で顔をパタパタ仰げば、ソフィアは満更でもなさそうにクスクス笑った。幸せそうな彼女に頬が緩む。皮肉抜きでほんと、なによりだ。私の怠慢に巻き込んでしまった彼女には絶対幸せになってもらいたい。いや、なってもらうんだから。
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「計画は変更だ!」
バーンと扉を乱暴に開くなり、ムーディ先生が荒々しくそう怒鳴ったのは七月も半ばとなった頃だった。
「ポッターの坊主を付き添い姿くらましで護送することはできなくなった」
「なんだって?」
「魔法法執行部のパイアス・シックネスが寝返ったんだ。ハリーの家を『煙突飛行ネットワーク』と結ぶことも『移動キー』を置くことも、『姿現わし』で出入りすることも禁じた」
ムーディ先生に続いて入ってきたキングズリーが捕捉する。ハリーは今週の土曜、七月二十六日にムーディ先生がブリベッド通りまで迎えに行って付き添い姿くらましで『隠れ穴』まで護送されるはずだった。「掻き回してくれる!」杖をドンとつく先生に、ウィーズリーさんが心配そうな顔をして口を開いた。
「シックネスはたしかに規則を重んじる厳格な性格だが、純血に拘るタイプではなかったはずだ。『服従の呪文』で操られているんじゃないか?」
「私もそう思う。しかし魔法を解くのは非常に困難だ。誰がかけたのか分からないし──」
「シックネスのことはもういい、一旦忘れろ。それよりポッターだ」
「ハリーはまだ十七歳よね。てことは『臭い』があるわ……魔法は使えない……」
思案していたトンクスの目が、部屋の隅でウィスキーを傾けるマンダンガスさんへと動いた。視線の意図に気付いてルーピン先生がサッと顔を険しくさせる。
「“七人のポッター”か? 無茶だ、有り得ない!」
「でも他にいい方法なんてないわ!」
「私も反対だ。ハリーをそんな危険に晒すなんて──」
「危険は七分の一だ。それに決行日はバレていない。普通の移動よりはるかに安全だ」
「(バレてるんだよなあ)」
テーブルに両肘をつき顔を支えて大人たちの会話を聞く。でも忠告のしようも思いつかないし、こればっかりは仕方ない。スネイプ先生の木魚好感度上げイベだし襲撃自体は成功させなきゃだもんね。
七人のポッター作戦を言い出したのは(スネイプ先生に洗脳された)マンダンガスさんだ。悪くない案だけど付き添い姿くらましに比べたら危険すぎると最初は却下されていた。現在の賛成派と反対派は半々──若干反対派が少ないかな? くらいだ。「シリウスの言う通りよ」激化する議論に、ハーマイオニーが参戦する。
「危険だし、なによりハリーがきっと納得しないわ。自分のために何人も巻き込むのを喜びはしないはずよ」
「ハーマイオニー、我々はもはや選り好みできる立場にないんだ」
「そもそもマンダンガスからでた案なのに信用できるのか?」
「おいロナルド、聞こえてんぞ」
「奴はちんけなコソ泥だがダンブルドアを裏切りはしない」
「どっこい、もうそのダンブルドアはいないんだぜ」
ジョージの言葉に部屋が静まり返った。赤ら顔だったマンダンガスさんの顔からも血の気が引き、青くなっている。重たい沈黙を、叔父さんの気まずげな咳払いが破った。
「いないとしても意志は引き継がれる──ダングがダンブルドアに誓った忠誠は本物さ」
「……お、おおう、おう! そうだとも、ホンモノだぜ! さすがエドガー、ダンブルドアの親友様だ!」
「違うやめろ──とにかく、私もダングの案が最善だと思う。これだけ熟練の魔法使いと魔女が揃っているんだし、そこまで過敏になる必要はないはずだ」
「はーい! じゃあさ」
叔父さん得意の話術により場がうまいこと纏まった、ぽい。話が進みそうだ。私はそう判断して、元気よく挙手をした。みんなの視線が集まる。
「私がハリー役やるとして、ペアの護衛役はシリウスがいいな!」
「……いや、きみは参加しないが?」
「しますが??」
シリウスにわけ分らんことを言われ瞠目する。彼は『何を馬鹿な』と言いたげにしていた。いや私が言いたい。
「エレナは未成年だろう」
「ええ……また蒸し返すの?」
未成年の私がなぜ会議に参加できているか。それは保護者であるところのエドガー・ワイアットが許可しているからだ。学年的に考えてもまあ……ということで不承不承ながらも受け入れてくれる人が時ほとんどだった中、たった一人、異を唱える者がいた。それがシリウスだ。本当、変わってしまったよな。一年の労働経験でこんな分別のある大人になってしまうなんて。私にとっては厄介だが、いい変化ではあると思う。保護者としての意識が強いのは喜ばしいことだ。私にとってはめちゃくちゃ厄介だけど。
しかしなにはともあれ、この問題は叔父さんがシリウスを宥めたことで解消されたはずだった。うんざりした声の私に、シリウスは「私はまだ認めてない」とじろりと睨んでくる。
「シリウスが認めなくたって私の保護者は良しとしてくれてるしメンバーの大多数はオッケーしてくれてるもん」
「少数意見だって尊重されるべきだ!」
「尊重イコール優先ではないから。留意しとくよ、それでいいでしょ!」
「未成年でなくとも、エレナはまだ──ロンとハーマイオニーもだが──学生だ。特にきみはあんなことがあったばかりだし、自棄になっているだろう」
「もうなってないってば! 初対面のシリウスよりは冷静な自信ありますけど?」
シリウスの顔がう、と歪んだので勝ったと口角を上げる。そうだ、あの時のとにかくピーターを殺そうとしていた彼と比べたら今の私は全然落ち着いている方だ。……そりゃ、屋敷に来た日はそうとは言い切れなかったかもだけどさ。「エドガー!」悔しそうにシリウスが吠えた。
「保護監督者だろう、なんとか言ってくれ!」
「……なら、エレナが死喰い人を前にしても自棄になって暴走しないかシリウスが一番近くで見張っておけばいいんじゃないか?」
叔父さんのアシストにシリウスは愕然とした。はい勝ち。ていうかなんで叔父さんに助けを求めたんだ。この人は私の入団を許可してるんだから、縋るにしては悪手過ぎるでしょ。
その後は何事もなく──シリウスは最後までブスッとしていた──ペアが決まり、みんながぞろぞろ部屋から出て行く。そんな中、私は叔父さんを引き留め、部屋に残した。
「この前はごめんなさい」
なにか聞かれる前に頭を深く下げる。頭上で息を呑んだ音が聞こえた。
「なにを……」
「私の責任だったのに、あなたのせいにしようとした。あなたの良心を利用しようとした」
だからごめんなさいともう一度口にする。思い出しても自責の念で最悪な気持ちになる。もう土下座したい。しようかな。膝を曲げようとした瞬間、両肩を強い力で掴まれ、体を起こされる。叔父さんは私の肩に縋るように立っていて、表情はうかがえない。重い。叔父さんのほうが蹲ってしまいそうだった。
「やめてくれ」
「……叔父さ──」
「やめてくれ、頼む、エレナ」
絞り出すような声、そして掴まれた個所から震えが伝わってきたので口を閉じた。やがて叔父さんがふーっと長く息を吐き、短い沈黙が破られる。「まず」やっと顔を上げた彼の顔は疲れ果てていた。
「あれは断じてエレナの責任ではない。どうかやめてくれ」
そんなことはない。だって私が魔女でなければ巻き込むことはなかった。私がこの世に生まれていなければ、二人は死ななかったんだ。
そう言いたかったけど黙っておく。どうせ通じないし、否定すれば、彼のほうが傷付いて壊れてしまいそうだったから。
「次に、利用といったがそれは間違っていない。きみには私を最大限使う権利がある」
「ないよ、なに言って──」
「あるのだよ──誓ったのだ」
じっと見つめられ、言葉が出なくなる。瞳は揺らがない、つまり嘘ではない。理解して、心臓が大きく拍動した。「なんてことを」さっきよりもずっと長い沈黙が流れた後、気が付くと、私の口からはそんな掠れた声が零れていた。
「どうして、そんなばかなことを──」
「姪を想う叔父の気持ちを馬鹿だなんて言うものじゃない」
ぴしゃりと怒ったように言われる。彼が私にこんな物言いをしたのは初めてだった。けれど彼はすぐに厳しい顔を消し去り、優しく微笑んで見せた。
「正確には守ることを誓ったんだんだがね」
「……そうですか」
「私は誓いを履き違えていた。きみがフォークスを力技でなんとかしてしまえるほど優秀な魔女だったと知らなんだ」
皮肉かなと訝ったがそうでもないらしく、叔父さんの顔に茶化した色はない。本気でそう評価してくれていると分かって少しむず痒くなる。あれはその場の勢いだし実際には絶対できないと思うけど……まあいいや。
「私が最も優先して守るべきは『心』。つまりきみが愛する人たちということだな」
「……そうです。だからまずは土曜日──お願いしますね」
来る土曜日、ハリー役のセドリック・ディゴリーとその護衛を務めるマッド・アイ・ムーディを絶対に守ってほしい。叔父さんは重々しく頷いた。
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