14.5
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鏡の前に立つなり、鏡面に手を添えて固まってしまったエレナにハリーは焦れったくなり声をかけた。
「……どう? 僕の父さんと母さん、見える?」
「ん? ああ、見えないよ」
「そんな! でも、さっきは本当に……!」
当然のように言ってのけて、さらに愉快そうにくすくす笑いをこぼすエレナにハリーは憤慨して近付く。怒るハリーをものともせず、エレナは「あのね」と前置きをした。そして鏡の縁に掘ってある文字をつっとなぞる。
「この文、気付かなかった?」
「もちろん気付いたさ! でもそれ、なんの意味もないただの文字列だろう?」
「違うよ、下から読むの」
下から? 読んでみろと言うようにエレナは鏡の前から退いて場所を開ける。訝しく思いながらもハリーは鏡に近付いて言われた通りに下から読み上げた。
「『わたしは あなたの かお ではなく あなたの こころの のぞみ をうつす』……のぞみを?」
「そうらしいよ」
「じゃあ、僕ののぞみは……」
ハリーは急にとてつもなく哀しくなった。これが自分ののぞみだとするなら、到底実現することは出来ないとすぐに理解できてしまったからだ。暗い気持ちでハリーは先のエレナと同じように鏡に触れた。どれだけ掌を押し当てても、やはり鏡の中の人達はこちらに温度を返してはくれなかった。
「……ハリー、もうそろそろ戻らないと」
「……うん。そうだね……エレナはなんだった? 何が見えたの?」
鏡がハリーの体温をすっかり奪いとって指先がカタカタと震え始めた頃、エレナがハリーを気遣うようにそっと話し掛ける。気もそぞろで返事をしたハリーがふと気になったことを尋ねれば、エレナは喜びを顔中にぶぁっと滲ませて蒼い瞳を蕩けさせた。
「ハリーがいたよ」
「……え」
エレナはそう言うと愛おしげに鏡を見て、それからまたハリーを見た。笑みを深めて穏やかに続きの言葉を紡ぐ。
「ロンも、ハーマイオニーも。ネビルもいたしジョージもいた。マルフォイもいる。……それにフレッドもセドリックやダンブルドア先生、あとスネイプ先生とか。とにかくみんないたの」
「マルフォイ? スネイプ?」
「そんな嫌そうな顔しないで。……みんなね、今よりもずっと大人になった姿だったの。すごく幸せそうだった」
そう語るエレナの方が幸せそうだとハリーは感じた。しかし彼女の言葉に違和感を抱き、思うがままに問いを投げる。
「エレナは?」
「え?」
「そこにエレナはいなかったの?」
エレナは虚をつかれたように瞳を瞬かせた。数度瞬きしてからゆっくり鏡へと顔を向ける。ハリーの方を見ないまま、彼女は「いたよ」と答えた。
半分しか見えないがその表情は感情がごっそりと削ぎ落とされたように凪いだもので、
「……そっか」
ハリーはそれが『きっと嘘だ』と思った。
しかし確信をもっていえることだったはずなのに、ハリーはなぜかそれを指摘することが憚られ、それ以上は何も言えなくなってしまった。
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