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 ハリーの誕生日当日、私とシリウスとソフィアはお祝いのため隠れ穴に訪れていた。ハグリッドとかルーピン先生たちも来るというから本当はちょっと行くか迷ったんだけどね。だってこう、人選が家族水入らず的な感じだから。突然エレナ・ワイアット参戦! ってしたら空気読めない感じにならない? 大丈夫そ? と思ったけど、まあ誕プレも渡したいしハーマイオニーに会いたいしよそ様のおうちで一人(クリーチャーはいるけど)ゴロゴロもできない。そんなわけで、素直にお呼ばれすることにした。

「誕生日おめでとう、ハリー! 来年こそは私が先に誕生日になってみせます」
「ああ、うん、頑張れ」

 ハリーって時々びっくりするほどドライだよね。
 気を取り直して、と鞄から“それ”を取り出した瞬間、ハリーの表情筋が顔を顰めたそうに動かきかけたことに、私はしっかり気が付いた。けれど何も言わず、しまい直すこともせず、笑顔のまま差し出す。さあ受け取れ、欲しがれ。さながら気分はカオナシだった。可哀想な千尋もとい千もといハは、渋々ながら受け取って包みを開く。微妙な顔のままのハリーの背後からロンが顔を出して「うわぁ」と素直に呻いた。

「『南極でも生き残れるサバイバル術』ゥ? 本を渡すとかマジかよ、ハーマイオニーじゃあるまいし」
「自分だって本渡したくせに」
「え……はっ? な、なんの話か、僕にはさっぱり──?」
「なんだっけ、『確実に魔女を』──」
「あああやめろ! なんで知ってるんだよ!」

 ロンは慌ててハーマイオニーを確認したが、ハーマイオニーは本に夢中だった。一応ハリー宛なんだけど……まあいいや、三人宛でもあるし。すっかり本の虫になっている彼女にロンはホッとしたあと、声を潜めて「兄貴たちか?」とうなじまで赤くして凄んでくる。私は明確な答えを返さず笑うだけに留めておいた。前世特典でーす。当事者のはずのハリーは巻き込まれないように存在感を消そうとしていた。

 パーティの最中、途中ルーファス・スクリムジョールがダンブルドアの遺品を渡しに遣ってきたりと小ハプニングはあったが、なんやかんやでハリーの誕生日会は無事に終わった。




 ベッドの上で体育座りをして、窓辺に置いた手紙をじっと見つめる。すぐそばに置かれたランプの炎が、ぼんやりと黄金色の印璽を照らし上げていた。部屋の明かりは、ただそれだけ。濃紺の夜空には今にも折れてしまいそうな細い月が浮かんでいる。もうすぐ新月か。ルーピン先生は嬉しいだろうな。

 不意に部屋の時計が真夜中を告げて静かに反響した。瞬きの間で消えてしまったが、封筒を止めていた印璽がぽうっと光ったのを見て、手紙を手に取る。あれだけしっかり固まっていた印璽は、指先を添えた途端ぱっとひとりでに剥がれて封を開けた。中には二枚の手紙が入っていた。
 文字を読むには、室内の明かりは随分頼りない。それでもベッドの足元に置かれた鞄から杖を取りに行くのさえまどろっこしかったので、私はランプに額を擦り付けるようにして近寄った。紙に綴られた文字列の一文字一文字をじっくりと目で追う。そうして二度、三度繰り返し読み、やっと手紙をベッドに置き、天井を仰いで息を吐いた。


 涙が止まった頃合でベッドから降りる。ひどく喉が渇いていた。きっと身体中の水分を出し尽くしてしまったのだろう。
 もう日付が変わって一時間は経つというのに、地下厨房には明かりがついていた。火のない空っぽの暖炉前の、一人掛けの椅子に誰かが座っている。扉を押し開けたギィという音に反応して、その人が振り返った。

「エレナ、まだ起きていたのか?」
「喉渇いちゃって。シリウスこそなにしてるの?」
「不寝番だよ」

 あ、そうなんだ。病んでるのかなとか思っちゃった。一応そういう対策はするんだね。そんなことを思われているとは知らず、シリウスは「ホットミルクでも作ろうか」と腰を上げた。

「わーい、蜂蜜たっぷりいれて」
「……いや、やはりミルクはなしだな」
「え、なに急に。意地悪された……」
「そうじゃない。今のきみにはもっと相応しいのがある──アクシオ」

 にやりと笑ったシリウスが呼び寄せたのはオーク樽蜂蜜種のボトルとグラス二つだ。なーるほど、成人だからか。誕生日覚えてくれてたんだと頬が緩んだ。「成人おめでとう、エレナ」カチンと静かにグラスが合わさる。

「エドガーより先に言ってしまったな。あいつもここに滞在すればいいのに」
「色々忙しいんだよ、きっと」
「ダンブルドアが死んでからずっと動き回ってるな……あまり人と関わろうとしなくなった」
「仲良かったしね。動いてた方が気が紛れるんじゃない……ねえ、これちょっと多いよ、いれすぎじゃない?」

 縁まで並々注がれたグラスに顔を顰めてそうっと啜る。それに明日──というかもう今日だけど、ビルの結婚式だ。私は会場でもある『隠れ穴』へ早めに向かわなきゃだからロックで全部は飲めない気がする……。ちょっと困っているとシリウスは「別に無理して飲む必要はない」と笑った。

「成人という節目の日に、こうして乾杯できたというだけで十分なのだから」

 昼間もハリーと飲んでるときすごく楽しそうだなと思ったけど、そういう理由か。なんだかすごく『親』って感じだ、うまく言えないけど。
 

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