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どうやら私は自分の家に姿現わししたらしい。自分の家ってあれね、十一歳になるまで毎日住んでた家の方ね。なんちゅー帰巣本能。
ベッドから起き出して、もう数年まともに使っていなかった自分の部屋を見回して苦笑する。去年の夏、ノルウェーから帰ってきて、叔父さん宅に行くまでの数日使った程度の可哀想な我が部屋。今年なんて、部屋に踏み入ることさえしなかった。そんな時間はなかったから。
“あの日”から数ヶ月。室内には時間の経過を感じさせる埃が多少はあったが、それでもさっきまでいた場所――バチルダの家の惨状に比べたら、ずっと綺麗なものだった。
「(お母さんがやってくれてたんだろうな……)」
私が帰ってくると思って。私がここで夏を過ごすことを信じて、毎年。掃除機をかけ、窓を拭く母親の姿を思い浮かべ、息が詰まった。頭を振って感傷を払う。私は杖を軽く振って、血で汚れ、ぐちゃぐちゃに乱れたベッドを綺麗にしてからメイキングし直し、部屋を後にした。
リビングは思ったより荒れていなかった。割られたはずの窓も完全に元通りで、フローリングには欠片一つ落ちていない。あの日のままなら食べ物がテーブルに並んだままだろうと覚悟してリビングに入ったのに、テーブルも綺麗さっぱり片付いている。正直嬉しい誤算だけれど、疑問は残る。まさか魔法省がやってくれたの? 浮かんだ考えをすぐに打ち消す。いや、そんなわけない。この、こんなご時世で、わざわざマグルの民家を手直してくれるとは思えなかった。
「(と、なると、あの人しかいないよな)」
うわもう、すっごい責任感じてるじゃーん……。感情のままに責め立ててしまったあの日を思い起こして、少し項垂れる。けれど冷蔵庫の中身は全くの手付かずのそのままで、魔法族っぽさを感じてちょっと笑ってしまった。さすがにここまでは意識が回らなかったらしい。笑いながら、腐りかけの食べ物を処分していく。電気もガスも、当然止まっていた。
家全体を軽く清掃をして、そろそろ帰るかと掛け時計を見る。ご飯の時間だし、心配させちゃう。庭の整備ができないのは気掛かりではあるけれど……そこまでやったらまたいらん波乱を呼びそうだしね。それはまた今度。
暖炉の上に置いてあった写真立てを手に取る。ノルウェーで撮った家族写真。しっかり叔父さんも写っている。大事な家族三人の顔をそっと撫で、私はそれをポーチにしまった。ら、なんか同じような触り心地のものがポーチの中に突っ込んだ指に触れる。なんだと思って取り出したら、グリンデルバルドのピンショットだった。なんでこんなもの。……バチルダの家にあったやつか? えっ盗いやまさかねそんなわけないよないないさすがにちょっと借りただけ違う違う違います。
とにかく、どれもこれもちゃんと戻す。戦争が終わったら。I'll be back! 溶鉱炉に沈んでいく気持ちで、誰もいないリビングへ向けてグッと親指を立てる。あれ、ターミ〇ーターUって何年に公開するんだっけ。ていうかもう公開してるんだっけ?
と気になってレンタルビデオ屋をハシゴしてたらすっかり遅くなってしまった。玄関口で仁王立ちの叔父さんにギロリと睨まれ、身を縮こませる。
「私がどれだけ心配したか――」
「ごめんごめん。ほら、ビデオ借りてきたから一緒に観よ?」
キャラメルポップコーン作れるやつも買ってきたよ、と上目遣いする。
「もちろん普通のやつも! バターとか蜂蜜とか、カレー粉とかかけて食べ比べしようよ!」
映画は第一部と二部、その他にも色々有名どころを借りてきたから、時間はたっぷりある。甘えるように、ね、と首を傾ければ、叔父さんは諦めたように嘆息した。
「あっ!」
「なんだ?」
「えっと――ううん、なんでも!」
そうしてリビングへ行き、テーブルの皿によそわれた湯立つシチューを見て思わず声を上げてしまった。だってカボチャとエビがゴロゴロ入ってる。カボチャとエビのシチューは、叔父さんの作るメニューの中で一番好きなやつだった。仕込みが大変らしいからあんまりお願いするのも申し訳ないし、それを直接伝えたことはないけれど。いやぁ、今日はツイてるなぁ。計画も大成功した上に、好物がでるなんて! ニッコニコの私に、叔父さんは不思議そうな顔をしていた。
計画。
それは、ムネモリアで作った薬がちゃんと機能するのか、という確認の実験だ。そのためには、未来の彼と同じ状況にならなければならない。要するに、ナギニに噛んでもらう必要があった。ハリーの姿でなければナギニは出てきてくれないだろうなと思ってのポリジュース薬だったけど、実際のところどうだったのかは分からない。
バスタブの中で足を組み、噛まれたはずのふくらはぎを揉む。うん、痣ひとつない。押しても痛まないし、麻痺もない。記憶の欠落もないし――つまり後遺症はゼロ! ふふ、完璧だ。
ひととおり確認して満足したので、足を橙色の湯の中へと浸ける。疲れたからと言って湯を張ったら、疲労回復の効能があるという入浴剤をいれてくれた。叔父さんが作ったらしい。それは絶対効くじゃん。
「ほーんと、今日はらっきー……」
バスタブの縁に腕をのせ、その上にぐでんと頭を預ける。このまま溶けちゃいそう。寝てしまいたい。いやだめだ今日はオールでターミネー〇ー。ポップコーンパーティ! 気合を入れて勢いよく立ち上がったら、立ちくらみで危うく倒れかけた。
この薬の副作用はただ一つ。『治癒範囲の大きさに比例して、薬の製作者に関する記憶を失う』ことらしい。本には製作者の魔力を注いでいるからだとかなんとか、と書いてあった。まあスネイプ先生と私って別にそんな関わりないし、瀕死の状態で使用したとしてもそこまで大きな影響はきっとないでしょ。それに自分でこうして使って見た感じ、今のところ記憶の抜けもほとんどなさそうだし。いやぁ、まじで都合のいい万能薬だな、これ。
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なんて思って夜通し映画パーティーをした、約三週間後のクリスマス。ひどくご機嫌斜めなハーマイオニーから久方ぶりに連絡がきた。
『あの人が帰ってきたわ』
「あの人?」
『あの、ロナルド・ウィーズリーとかいう腰抜け腑抜けの大間抜けよ』
「……えっと、その方は今近くにいらっしゃらない感じ?」
『さあ、知らないわ』
ツンと言い放ったハーマイオニーに、いるんだろなぁ、と思った。
「なにをそんな喧嘩しちゃったわけ……」
『なにをですって? また一から説明させる気? ああいいわよ、してあげるわ! まずは――』
「あー、ごめん、うそ、ごめん。冗談。やめよ、ロンが可哀想」
『ロンの肩を持つのはやめて!』
「はい」
ロンがどこかに行っていたって話は初耳だけど、ハーマイオニーの様子からして前から聞いていたらしい。あー、なるほどね、こんな感じか。鏡の向こうでぷりぷりしているハーマイオニーを見ながら、私は内心で記憶の喪失の事実を実感していた。
これは……ギリ生活に困らないレベルかな……? ま、まあ私はほら、自分で作った薬を自分で飲んだから、こうやってちょっとだけ不便になってしまったけれど。でも例えスネイプ先生から私の記憶が消え失せたところで……ねえ? 別に大丈夫だよね、多分。
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