12



 一ヶ月達成を目前にしてマンドレイクの葉を飲み込んじゃったり、コーマックが地道に禁酒をしたり、収穫したカボチャでネビルのお祖母様にかぼちゃケーキを拵えてもらったり、またマンドレイクの葉を飲み込んじゃったり、またまたマンドレイクの葉を飲み込んじゃったりしながら生活していたら、季節はあっという間に街中に飾り付けたっぷりのクリスマスツリーが並ぶ時期へと突入していた。光陰矢の如し。来学期までに動物もどきを習得するのは絶対に無理だな。寝てる間の嚥下反射なんてどうやって対処しろっていうの? 一ヶ月とか全然もたない。舌の裏に縫いつけようかな。いっそ猿轡して寝るとか……。ちょっと人に言えない寝姿になっちゃうけど、どうにもならなくなった時の最終手段としてはアリだ。


 クリスマスといえば、家族で過ごすのが一般的だ。その理屈でいくともはや共に過ごす家族のいない天涯孤独な私には、とーっても暇で寂しい退屈なホリデーとなる。

「クリスマスにはきみのご両親もやはりバカンスから帰ってくるのか?」
「いや、来ないよ。向こうで仲良くやってるみたいだし」
「そうかよかった! あ、いや、よかったは違う。それは寂しいよな、うん。……なら、もし良ければクリスマスはうちの屋敷へ遊びに来ないか?」
「ごめん先約がある!」

 ……なーんてね。冗談! クリスマスホリデーで暇な日なんて一日たりともないよ。いやほんとに。さっきのはいつもの自虐ネタだ。なにせ私は、家族はおらずとも幸運なことに友達にはたいそう恵まれていた。
 間髪入れずお断りしてしまったが、ドラコは気分を害するというより残念だというように「そうか」と表情を曇らせた。

「じゃあイブは? もしくはクリスマスの翌日でもいい。会えないか?」
「あの……あ、空いてないの、ホリデーは全部……ほんとにごめん」

 逃げてない、嘘じゃない。有難いことにクリスマスホリデーはなんだかんだガチ多忙だったりする。イブのイブはダンブルドアとアバーフォースさんを呼んで三人きりのシチューフェスを開催する予定だし、イブは隠れ穴にご招待を受けていて、クリスマス当日はネビルのおうち。以降はシリウスのお舘で皆でまったり過ごす、というスケジュールがされている。ダンブルドア達は私から誘ったから例外だが、他の人達からは八月に入る前からお誘いをもらっていた。みんな優しいよね。そして誘うのが早すぎ。クリスマスガチ勢。

「……念の為確認なんだが、恋人の家に行くわけじゃないよな?」
「違う! そんな相手は一人もいません」
「そ、そうか……一人も……そう……。……なら、ロングボトムでも“まさか”ないだろうな」
「あっ見てあの猫かわいー!」
「おい絶対ロングボトムじゃないか!」
「怒んないで! 前見て!」

 素晴らしい勘を働かせるドラコに、助手席で身を縮める。運転席の人が怒るのは怖い。渋々といったようにハンドルを握り直すドラコへ、内心で胸を撫で下ろす。

 誰も予期していなかった顔合わせの後日、ドラコは開口一番「気にしてない」と言い放った。「僕は、なにも、一切、気にしていない」――これを、開口一番。つまり私はまだ何も話し始めちゃいなかった。が、ラッキー棚ぼた便乗しちゃおと、私は無言で頷いた。気にしないというなら、そっちが気にしたくないという意思表示をしてくれるなら、私もそういう方向でいこう。深堀りされないほうがこちらとしても圧倒的に都合がいい。
 それ以降ネビルの話はしないというのが私たちの暗黙の了解になっていた。が、不問律を破ってしまった。破ったのはあくまでドラコであって私じゃない。私悪くない。悪くないもん。猫の話題に変えようとしたし。……逃げようとした、ともいうかも。

「あの、ごめんね? カードは送るから、それで許してもらえない?」
「……クリスマス当日に会えないなら、今日はなおさら名案だった」
「あっ……うん、そうだね。……うん……」

 お誘いを全部跳ね除けたのは失礼だったよなぁとご機嫌取りの態度をしてみたが、臍を曲げたまま紡がれた言葉にすかさずぎくりとする。赤信号を睨めつけるドラコは私の動揺に気が付かなかった。私は彼を再び刺激しないよう注意を払いながら、煮え切らない相槌を打った。
 今日はドラコの提案で、こうして車に乗って街まで出てきていた。名案じゃないとは思わないけどはっきりそうだねと返せるほど肯定はできない……いや、否定的ってわけでもないんだ。ただなんていうか、ちょっと――未だに現実を受け入れられてないっていうか……。

「前々から“携帯電話”というのはとても便利だと聞いていたし、手に入れる絶好の機会が訪れたと前向きに捉えるとしよう」
「……ウ、ン……ソウダネ……」

 この言葉がドラコ・マルフォイから発せられたものだと信じられる者だけが私に石を投げなさい。うそ投げないで。待ってこれもうそ、やっぱり投げて。だってこの現実を最も信じられていないのは他ならぬ私だ。夢なら切実に覚めたい。

「まあ僕は普段、家にあるケーブルグラムを使ってるんだが」
「……ケーブル、グラム」

 ケーブルグラム《海底電線》……。
 絶句する私に気付かず、ドラコはなにがそんなに楽しいのか、嬉々として話し続けた。

「ああ。あるだろ? 電話とは別、文字でのやり取りの――ほら、手紙のような役割の?」
「えっ……?……あの、ひょっとして、テレグラム《電報》……を、普段使いしてるって……?」
「テレグラム! そう、それだそれ――少し言い間違えた。僕らは普段、連絡を取りたいと思った時はそれを使う」
「……そう、電報を……」
「ああ。最先端の電報を持ってる。しょっちゅう使ってるよ」

 ロンだってもうちょっとマシなレベルだった記憶がある。『電報』に比べたら『話電』なんてかわいいものだ。電報が、なに? 家にある? 十八世紀が流行りのピークだった連絡手段が、あの館に? で、しかも個人で所有してるんだ? へえすごい。最先端っていうからにはやっぱりモールス式じゃなくてタイプライターなのかな? ハハ、あはは……。
 いや、なんか……どうしてそうズレた嘘を言っちゃうかな。貴族としての矜恃が悪い方向に作用してる? うーん、許してはおけん。呪ってやるぞ、ルシウス・マルフォイ。

「……まあ、固定電話も安くないしね」

 逐一電報打つ方がよっぽど経済的問題が――いや個人で持ってるから格安なのかな? 電報機の初期費用はともかく……待って、その場で思うがまま文字打って印刷してって、それもう電報機じゃなくて単なるタイプライターじゃない? 活字を印刷した手紙じゃん。その出来上がった手紙を届けるのもきっとフクロウなんだろうし……そうなると『電』の要素もうほぼなくない? ほぼっていうか、全くないよね? 最初から……――ていうか電報持ってるってなに?

 ……と、込み上げてきたありとあらゆる疑問を数秒の間になんとか全て捩じ伏せて、私はなるたけ寄り添った返答を心掛けた。ドラコがマグルの私に合わせてくれたんだから、私だって融通を利かせなくちゃフェアじゃない。これは今私が考えうる限り最もマシな返しだ。誰も傷付かないで済む無難な返事。
 私の努力の甲斐あって、ドラコは哀しむこともなく、なんならちょっと嬉しそうにはにかんだ。細められた瞳にはなぜか奇妙な慈しみが帯びていた。

「きみも一般的な通信手段についてそんなに詳しくないんだな」
「………………」

 ドラコは知る由もないことだが、たしかに私はもはや人生の半分近くを魔法界で過ごしてきている。マグル世界の流行り廃りには疎い自覚があった。それにまだ時期未定とはいえ、魔法界の学校での勤務だって決定しているのだ。将来的にも、今以上に詳しくなることは今後恐らくないだろう。

 しかし、だ。
 それを差し引いたとて、彼の言い分はすごく、それはもう途轍もなく心外だった。表情がまるっと奥へ引っ込んだ顔を繕うこともできないくらい心外だった。以降はずっとその無表情のまま、口内にあるマンドレイクの葉脈を舌で数えることだけに全神経を注いでしまうくらい、心外極まりなかった。


 そうして私が無言を貫いていたせいですっかり静まり返っていた車は、やがて路肩へと丁寧に停車した。

「……ええと、エレナ? 僕はなにか……気に障ることでも?」
「いいえ別に? ただうちにも電報を導入しようかなって悩んで考え込んでただけ」
「ああ、そういうことか! うん、是非するといい。非常に便利だし、程々に格式がある。おすすめだ」
「じゃ、もし買うってなったらドラコに相談するね。随分お詳しいようだし」

 愛想良く、にっこりと笑ってみせる。シートベルトのボタンを押し込んで外し、私はさっさと車から降りた。
 新鮮な外の空気――とはいえ、めちゃくちゃ街中なので排気ガスが蔓延してるけど。でもそれはあの色んな意味で空気の淀んだ車内に比べたら、の話だ。――を肺へ吸い込み、一呼吸つく。……ちょっと嫌味だった? でもあの程度のチクチク言葉は許されて然るべきだ。と思いたい。ていうかこれ以降はまた抑えるから今回だけはもう許してほしい。

 ドラコがちょっと遅れて、慌てた様子で車から降りてくる。ボンネットの向こう側からこちらを窺う視線に、私はテカテカ光る車の装甲を指差した。

「使い始めて……もう二ヶ月くらいなんだっけ? 綺麗に乗ってるね」
「週末には掃除してるからな。――もちろん杖なしで!」

 ドラコはやっといつも通りの雰囲気に戻って話題を振る私へホッとしたような顔をしながら答えた。笑顔のまま、また要らない付け足しもした。ドラコ、あのね。そういうところだよ。言わないけどさ。

「ブラシを使わずやってるんだ? とっても時間がかかりそう」
「ああ、正しく。その通りだ」

 生真面目に深く頷くドラコを見たらこれ以上皮肉を言う気すら起きなかった。目を上へぐるりと回す程度のリアクションだけで我慢する。「早く行こう」と踵を返し、私は携帯ショップを目指してさっさと歩き出した。



  ###



 コーマック・マクラーゲンとは、大体二週間に一度いつものパブで会う約束をしている。私に断酒の進捗報告をすると思うと『こなくそやってやらァ』の闘志とやる気がもりもり湧くそうだ。友達だよね私たちって、と思わず確かめたくなったが、心に秘めておいた。世の中、曖昧にしておいた方がいいことっていっぱいある。

「お前、マルフォイ家の長子と恋人なのか?」
「ゥエ゙ッ、……ッハアァ?!」
「うーっわ、きったねえな」

 友人が陸で溺れかけたというのに大丈夫かの一言もなく椅子を引いて距離を置くなんて、いくらなんでもあんまりじゃない? 零したジュースは私の服にしかかかってないのに! 大体誰のせいで噎せ返ったと思ってるんだ。
 シャツについたオレンジ色の斑を杖で消しながら、元凶を睨みつける。

「なんだその不細工面は。いや元からか……」
「……ちょっと表に上がらない?」
「お断りだね」

 口元をハンカチで綺麗に拭ってから親指を地上《表》へ向けた。この“ツラ貸せや”のジェスチャーはホグワーツ式の伝統的なご挨拶だ。
 素気なく断ったコーマックは丸椅子を行儀悪くがったんがったんさせながら、ふてぶてしくレモネードを傾けていた。やめなよその座り方。コーマックが怪我する分にはまだいいけど、椅子が悪くなる。素面の時でもお店に迷惑をかけなきゃ気が済まないの?

 コーマックは穴ぐらのモグラに来てもお酒を頼まなくなった。が、それでも三ヶ月近く羽振り“だけ”はいい厄介な金ヅルをしていた実績もあり、酒を頼まずともこの店での滞在を容認されている。もちろん、容認されてる理由は金銭関連だけじゃない。毎度律儀に店主および周囲のテーブルの人たちへコーマックの目も当てられない醜態を謝って回ったエレナ・ワイアットの尽力のおかげ――というのもかなりある。自分で言うけど、ほんとかなりね。お陰様でこのパブでの顔見知りも増えた。

「つまりさ、コーマックには私に対する感謝の心が足りないよね」
「感謝」
「なに薄ら笑ってんだ」

 そういえばちょっと前の話になるが、常識的な量で見繕ったファッジを実家から差し入れされた妹さんは、“このファッジは永久保存する”と、興奮で乱れた筆跡の手紙で、そんな感謝と恐ろしい誓いを綴っていたらしい。食べてくださいとはコーマック越しにお願いしたけど、その願いが受理されたかは定かではないし、今になって改めて確かめる勇気もちょっとなかった。妹さんほどになれとはさすがに言わないけど、しかし欠片くらいは見習ってほしいところだ。

「で、どうなんだよ?」
「なにが……ああ、ドラコの話? あのさ。そんなこと、あるわけなくない? コーマックもたまには常識的な思考ってやつをしてみなよ。せっかくお酒が抜けてきてるんだからもっと社会の役に立つようなことへ脳の容量を割いたら? でなきゃ貰ったばかりの断酒一ヶ月記念メダルもやるせなさでブラートヴルストシュネッケみたいな形に変形しちゃうかも。それでもいいの?」
「おい俺のメダルを脅迫するな、返せ!――お前まさか、キレてるのか?」
「今頃気付いたの?」
「へえ……ちょっとばかし揶揄ってやるだけのつもりだったが、そこまで取り乱すとは予想外だったな。じゃ、マジってことか?」
「なにが」
「マジで恋人?」
「なわけないっつってんのがなんでまだ分かんないの? さっきまでのやり取り何だったの?」

 こちらは青筋立てるほどキレてるのに、コーマックはケラケラと腹を抱えて笑っている。どうやら私たちの気分は反比例するようだ。それって友だちの相性としては大分最悪じゃない? まあそれは前から分かってたことだから今更だけど。

「……で、なんで急に妄言吐き出したの?」
「あ゙ー……」

 バカ笑いが鎮まった頃、じろりと凄んで切り出す。笑いすぎて掠れ声になってるのムカつくな。涙が滲むほど全力で笑ってるのもムカつく。笑いすぎて若干疲れてるのも、めっっっちゃくちゃムカつく!! 

「お前とマルフォイがロンドンの街を歩いているのを見たんだよ。あの日は俺もあの辺でAAの会合があったからな。で、お前らは二人で……携帯、ショップ? とか、なんかそんな妙ちきりんなマグルの店に入っていってた」
「……えっ? たったそれだけ?」
「それだけじゃない。マルフォイのやつ、歩いてる間ずっと『完璧惚れ込んでます』ってふうな吐き気がするほど甘ったるい目でお前を見てた。あの純血主義のお高く止まった捻くれ臆病フェレットのあんな熱烈な視線、そうそう拝めるもんじゃない。真横にいたお前だってそれは分かってるんだろ? ン?」
「……いや? 全然?」
「下手なとぼけ方だ」
「何の話? ていうか私の友達の過度な悪口やめてください。……そう友達。ただ一緒にちょっと街へ出掛けただけ。別に手だって繋いでない! ドラコは本当に単なる――ああもう、ティーンってのはどいつもこいつも!」

 弁解の途中でこの前の不本意すぎる誤解も関連してファッと思い出してしまい、言葉にならない感情が突然爆発した。自暴自棄になって唸りながら頭を掻き毟る。コーマックは当然面白がって、意地悪く目を細めた。

「ハ、アイツと恋人かって相当色んな奴らから言われてるわけだ?」
「そういうわけじゃ……、……ハハ、聞いて驚け絶句しろ。なんとこの前、私とコーマックが付き合ってるのかって聞かれた。色恋沙汰に辟易してるのはそのせい、残念でした」
「……ア?! 誰だンな気持ち悪いことを言ったウスノロ馬鹿は!」
「アッハッハッその顔が見たかった!」

 悪役の高笑いをして大分減ってしまったオレンジジュースを優雅に飲む。ざまぁみろ。と勝ち誇っていたら、憤ったコーマックがテーブルを乗り越えようとしてきたので慌てて魔法を使って元の席に座らせた(貼り付けた)。酔ってなくても時折とんでもないことするよねこの男。まあそうじゃなきゃスネイプ先生を前にしてルンルンでバタービールにペロペロ酸飴を入れたりできないか。

「ワイアットと、この俺が? 人をゲテモノ食い扱いしやがって!」
「たしか九月頃だったかな。私がコーマックをこのお店から連れ出した所を見て、勘違いしちゃったみたい」
「最ッ悪だ……人生の汚点すぎる」
「ちゃんときっちり訂正したから安心してよ」
「訂正だけじゃ全く足りないだろ。そいつらの記憶は消したか? 勘違いされたって事実だけでもウィゼンガモットに訴えたいくらいに不名誉だ。俺にはその権利があるね。なにせこの勘違いは確実にアル中よりも遥かに深い人生の傷になる。……だめだ、言ってて吐きそうになってきた。ドクシーの卵を丸呑みしたときより酷い気分だ……おい、なにをグズグズしてる? 今からでも関係者の記憶を消してこい。早急に。この無駄な問答の間にも俺の不名誉と不健康が更新され続けてるんだぞ。少しは申し訳ないと思わないのか?」
「いい加減にしてくんない? 申し訳ないと思わないのかってこっちの台詞だよさっきから全部」

 私を罵倒することに躊躇が無さすぎるなこのお口。私がいつかホグワーツ就任したら覚えてろよ、絶対妹さんにあることないこと吹き込んでやるからな。
 内心で密かに決意を固めていると、「見ろよこれ、サブイボ」とか不気味げにして腕を摩っていたコーマックが突然はたと口を噤んだ。どこか恐怖がチラつくような眼差しに、私も目を眇める。

「なに。まだ罵り足りないの?」
「……その、二ヶ月前――九月にこの店にいる俺とお前を見たのは……ロングボトム、か? もしくは、グレンジャー?」
「見られた現場を厳密にいうと店の中じゃなくて地上入口ね。表の路地裏。誤解してたのは大体その辺で合ってるよ。あとはラベンダーとかパーバティとか――」
「じゃあ話したのか?」
「なにを」
「……俺が、酒に……溺れていることを。お前はアイツらに言ったのか?」
「言ってない」
「なぜ」
「言う必要がないと思ったから」

 コーマックはいまいち感情の読み切れない顔で何かを言おうとしては口を閉じる、という行為を少しの間繰り返した。意図が読めない。でも困惑しているのだけは如実に伝わってくる。ので、私はとりあえず安心させるように微笑んでみた。

「だってコーマックのアル中話題以外にも共有すべき楽しい話題はごまんとあるからね! コーマックのことは私たち、まあ、ドクシー程度の関心しかないっていうか……平たく言うとそんな興味ない、かな、みたいな――ね!」
「――……だから、ね、じゃねえっつーんだよ。お前は本当……」

 深い溜息を吐くコーマックの顔は、笑っているように見えた。俯きがちではっきりとは見えないけれど、それでも皮肉も嘲りもない、これまで見た中で最も毒気のない笑顔のような気がした。

「マルフォイも悪趣味なヤツだよな……珍味目当てってことか? 貴族らしく? にしても悪食な……」
「私がいつまでも強硬手段にでないと思ったら大間違いだからねマクラーゲン。表に上がるぞ」

 悪意しかなかった。気の所為だったみたい。
 

- 243 -
 ←前 次→
 back
 >>HOME