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 ウィーズリー家最後の子供、ジニーがグリフィンドールに無事組み分けされ、ついに新学期が幕を開けた。
 
 他寮の生徒もハリーとロンの劇的到着の噂は既に耳にしているようで、二人は好奇の視線を一身に浴びていた。にやにやが隠せないという表情で私の隣にロンが腰を下ろす。……ロンって確かこのあと吠えメール来るんだよね。なんだってそんな日に限って私の隣に……バレない程度にそっと距離を開けた。
 朝の挨拶をつっけんどんな声音で告げるハーマイオニーにロンがこっそり私に耳打ちをしてくる。
 
「ハーマイオニー、まだ怒ってるのかよ。相変わらずオカタイやつだな」
「うーん……」
 
 いっそ呆れたようにため息をつくロンへ曖昧な返事をする。
 昨日の夕飯の席で、心配そうに大広間の出入り口を何度も何度も確認していたハーマイオニーを知っているだけになんとも言えない。というか、むしろどちらかといえばハーマイオニーの味方をしたい気分だ。もうちょっと彼女の気持ちを汲んであげてもバチは当たらないと思う。
 
 そうしてやがて、よろよろと『バチ』を運んできた灰色のフクロウにとりあえずテーブルの上を少しだけ片付けた。
 
 
 
 
 多分、後にも先にもこの人が一番の教師なのではないだろうか。もちろんワーストで。ガーゴイル女だって一応教科書は理論を学ばせるものだったし。まあろくな授業じゃないって点に関してはやっぱりどっこいだろうが。
 勉強するのは別に好きでも嫌いでもない。けれどここまで学ばせてくれと強く思うことはこの先きっとないだろう。
 
 配られたテスト用紙を見た瞬間そう痛感した。
 
 
一.ギルデロイ・ロックハートの好きな色は何?
二.ギルデロイ・ロックハートの密かな大望は何?
三.現時点までのギルデロイ・ロックハートの業績の中で、あなたは何が一番偉大だと思うか?
 
「(知らっな〜〜い……)」
 
 三問目から既に答えが抽象的だと……? ふざけてる。見た瞬間『忘却術が得意なこと』って書いてやろうかと本気で迷ってしまった。どれもこれも知らないし、知りたくもない。 斜め後ろの才女がいる方向から聞こえるカリカリカリカリという淀みない羽根ペンの音に慄く。意外とミーハーな所も可愛いけどさぁ……こればっかりは、ちょっと。
 あっいや待てよ、一番好きな色は確かライラック色だった気がする。……なんでこんなの覚えてるんだろう。あきらかに脳のメモリの無駄遣いだ。なんだか悔しいかったのでどどめ色と記入した。
 
「チッチッチッ……まだまだこのクラスの子たちは私の本の読み込みが足りないようですね」
 
 教科書を読んで、どうして個々人の趣味嗜好を暗記することになるのか甚だ疑問である。そんなものは教科書とは言わない。自伝書はプロフィール帳じゃないんだぞ。
 ロックハートに満点であることを褒められ、頬を真っ赤にして恥ずかしそうに俯くハーマイオニーにうっかり半目になってしまったがどうかそのくらいは許してほしい。
 
 
 
「うわぁ、誰かっ……!!」
「ネビル!」
 
 シャンデリアにぶら下げられてしまったネビルへ慌てて杖を向ける。文字通り地に足をつけたころにはネビルはもう半泣きだった。そんな彼を揶揄うようにピクシーたちがキーキーと囃し立てながら集まってくる。一番近くにいたピクシーがネビルのフードをぐいっと力強く引っ張った。その振動で吊られたネビルの体が不安定に大きく揺れ、震えた悲鳴が上がる。その途端、私の中でこれまで溜まっていた苛立ちが一気に爆発した。

 衝動のまま、ネビルの耳を引っ張っていたピクシーに呪文をぶつけた。吹き飛ばされたそれは勢いよく壁へと衝突し、ピクピクと四肢を震えさせてやがて床へとくしゃりと丸まる。甲高い喚き声や生徒の悲鳴が一斉に止まって教室が水を打ったように静まりかえった。固まる妖精達の群れに向かって杖を突きつける。
 
「まだ何かするつもりなら、次は皮を剥いで身体を粗挽きにして骨をすり潰して粉にしてやるから」
 
 自分の頭で思いつく限りの残虐な言葉を並べてそう脅すと、妖精達はピュイ……と小さく鳴いてゆっくりと宙から降りてきた。ネビルを丁寧に床へと降ろすと、列をなして粛々と籠の中へと帰っていく。頭の冷静な部分が『ピクシーは脅しを理解できるのか』と分析していた。
 
「け、結構! グリフィンドールに十点!」
 
 一匹残らず籠に収まると、上擦った声でロックハートがそれでも威厳たっぷりに言おうとする。杖をピクシーに取られた時点で威厳は彼方へと砕け散ってしまったことにまだ気付いてないようだ。ボサボサになった髪を必死で撫で付ける彼に呆れたため息しかでなかった。
 
 
 
 
 ガーゴイル女、五年目のDADAの教師。あの女(と保留のピーター)を除いて、基本はみんな好きだ。ただロックハートに関しては、少々複雑な思いである。
 だって私が彼を好きというか、色目なしで見れるようになるのはその五年目で可哀想な姿を見てしまうからであって……。あの哀れな末路に情状酌量の余地を感じてしまうからであって……。だが今の姿から同情を誘われろなんて到底無理な話だ。
 

 つまり何が言いたいかというと、現時点で彼を好きになれる要因がないのだ。授業には期待できないし、顔も性格もセドリックの方が好み。ほら皆無。
 
「あの先生、教師としてどうなの? ネビルがあんなになったのに助けようともしないし」
「いいと思ってる人の方が少ないと思うよ……」
「そもそもきみ、ネビルのこととなるとどうしてそうちょっと苛烈なんだ……?」
「でも──」
 
 五人で談話室へ戻りながらそう語気を強めれば、げっそりとした顔でハリーはそう賛成してくれる。しかし正直それに関してはどうだろうと思った。だってほら、事実今ハリーの隣には『いいと思ってる人』がいるんだから。
 ハリー的見解で少ない側に入る少女はロックハートを庇うように複雑な表情でロンの後に口を挟む。
 
「彼ってとっても素敵だと思うわ──だってほら、色々目の覚めるようなことをやってるし」
 
 ハーマイオニーの言うことには基本全肯定したいなと思うし、大抵のことはおべっかなんてなしにできるのだが、こればっかりはどうしても首を縦にふることはできなかった。先程の醜態を見てよくそれが言えるなと逆に感心しそうになる。
 
「ご本人はやったとおっしゃいますがね」
「なんですって?」
 
 ロンの言葉に心のそれなボタン百回押した。いや本当にそう。鋭い。グリフィンドールに百点あげたい。同意の声をあげようとしたが、ハーマイオニーの眉が高く上がっているのを見て口を閉じた。

 言い合いを始めたロンとハーマイオニーに、残された私たち三人はただ黙って歩いていた。ネビルもハリーも口を挟む気はなさそうだ。正直な話、私はロンに加勢したい。だが、ロックハートが原因で仲違いだなんて笑えないのでこの件に関しては口を噤ませてもらう。負けるなロン! 


 チェスならともかく弁論でハーマイオニーに勝てるわけがないと分かりつつも、心の中でひっそりと激励を送った。
 
 

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