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 やけに見られている。主にスリザリン生から。
 彼らはみんな揃って意地の悪い含み笑いを浮かべていた。
 
「気にしなくていいよ、行こう……」
 
 不愉快な視線から私を庇うようにネビルが私の横に並ぶ。通路側に立った彼は私の肩を抱いて歩調を早めた。青白い顔で、それでも怒ったように口を結んでいる。私はネビルが怒るなんて珍しいなぁと呑気なことを考えながらクスクス笑いが蔓延る廊下を進んでいった。
 
 
 『穢れた血』
 
 
 先日、マルフォイがついにハーマイオニーに言ってしまったと人伝で聞いた。純血としての歴史が長いマルフォイ家の子息がとうとう放った言葉は、一種の許可のようなものでもあって。スリザリン生はいよいよ大手を振って我々(特に獅子寮の)マグル生まれを嘲笑しはじめたのだ。もともとよくなかった風当たりがますます強くなってしまったけど、ネビルがとっても頼もしいので今のところそこまで嫌な思いはしてない。
 
 だがこれでハリーたちとマルフォイたちは決定的に対立したといっていいだろう。今年起こるこの事件を忘れていたわけではない。しかしそんなの『価値観の相違』の一言で片付けられる問題だろうとあまり気にしていなかった。ゆえにスルーしてしまっていたが、これはもしかしたら間違った選択だったのかもしれない。
 だってこれじゃあもう彼らの仲が修復に向かうことはそうそうないだろう。それこそヴォルデモートが敗北するくらいのビッグイベント後じゃないと無理だ。つまり少なくとも五年はかかる。このままじゃ原作通りの展開しか迎えられないが、如何せん一度口からでた言葉は消すことができない。どうしてあんなこと言っちゃったのマルフォイ……可愛さ余って憎さ百倍? だからグリフィンドールにはそれ通じないってば……。
 
 ハーマイオニーだって当然自分の血が穢れてるなんて思ったことないだろうが、実際に言われたらまた違うのだろう。
 どこか浮かない顔で羽根ペンを動かすハーマイオニーの横顔に、誤った選択をしたことを後悔した。
 
 
 
 ほとんど首なしニックの絶命日パーティー、要はハロウィーンにフィルチの猫が石になった。可哀想に。なんてバイオレンスなトリックだろうか。しかしぶっちゃけていうと石で済んでよかったね、という気分だ。というかホグワーツ生運良すぎでしょう。だってたまたま水溜まりが張ってあったり、カメラやゴースト越しで遭遇できたり。あと対抗策を知ったハーマイオニーと一緒に行動できたりとか。バジリスクwithトム・リドルに鉢合わせしてしまったマートルだけは不憫不運としかいえないが。
 
 
 さて、ホグワーツで始まってしまったこの怪奇現象(?)、心配症の母に伝えるべきか否か。

 用意してきた手紙を手にふくろう小屋で一人悩む。伝えればクリスマスが残れなくなるのは確実だろう。うんうんと唸っていればアンブルが「早くしろ」と言わんばかりに不満げに私の手先を甘噛みした。お待ちなさいよ。宥めるように彼の頭をくすぐる。

 叔父さんには当然伝えてある。本職だし、なにかアドバイスとかくれるかなって期待してつい先日手紙を送ったばかりだ。今回こそ返事をくれると信じてる。ことが事だし。

 ……隠しておく? でもあとからバレたときのほうが怖い気がする。一応「ダンブルドアもいるし心配ありません」って書いてあるし大丈夫かな? お母さんダンブルドアへの心象あんまり良くなさそうだったけど……うん、まあ大丈夫でしょ、多分。送っちゃおう! 困ったときのダンブルドアだ。平気平気、あのお爺さんチートの極みだからあの人がいれば大抵の事はなんとかなる。
 ……今年度、彼が特別なにかしてた覚えがないけど、多分それは記憶違いのはすだ。
 
「じゃあお願いね、アンブル」
 
 やっと手紙を託してもらえたと、私の可愛い愛鳥は元気よく鳴き声をあげ、飛び立っていった。翼を目一杯羽ばたかせて、あっという間に小さくなり山々の向こうへと消えていく。荷物運びが苦手と言われていたけど、少なくともうちとホグワーツの往復はもうお手の物だ。立派になったその姿をしっかり見届け、寮へ帰ろうと踵を返した。
 
「うわっ……えっと、いつからいたの?」
「……」
 
 しかし振り返ると飛び込んできたマルフォイの姿に驚く。彼はふくろう小屋の出入り口に寄りかかって静かな表情でこちらを眺めていた。質問には答えないまま、つかつかと近付いてがしっと私の腕を掴む。
 
「……マルフォイ?」
「……」
「あの……」
「……」
「(うーん、困った)」
 
 これは一体どういう状況なんだろうか。
 むっつりと口を噤んで、一向に口を開こうとしない彼に腕を掴まれたまま首を捻った。彼は私と話そうとするときいつも黙り込んでしまう気がする。そんなことを考えているとマルフォイがやっと口を開いた、
 
「……クィディッチだ」
「え?」
「だから、明日はクィディッチの試合がある」
「ああ、そうだね。うちとスリザリンが戦うんだっけ」
 
 私の問いにマルフォイはこくんと頷く。そう、猫が石になったからといって試合が中止になることはないのだ。ホグワーツ、つよい。知ってた。まあハロウィーン以降暗く沈んでしまった校内の雰囲気を変えるためというのもあるのだろう。なんとなくお国柄でてる気がする。日本だったら多分自粛でこんにちわんのぽぽぽぽーんだろうな、きっと。
 
「僕はシーカーになった」
「うん、知ってる。おめでとう」
 
 マルフォイが所謂『コネ』を使って──つまりチームメンバーに箒を配ってシーカーになったということはグリフィンドール全体に知れ渡っていることだ。「箒がなんだよ」「目にもの見せてやる」とフレジョは息巻いていたし、ウッドだって「こっちは完全実力主義なんだ」と据わった瞳で呟いていた。……ちょっと怖かった。


 祝福の言葉を送れば、彼はハッと嘲笑うかのように鼻を鳴らす。偉そうにふんぞり返って顎を突き出し見下ろしてくるが、その瞳は動揺しているかのようにゆらりと微かに揺れていた。
 
「よく祝えるな。僕はスリザリンだぞ」
「それ関係あ、……るっちゃあるけど、でもやっぱりおめでたいことだとも思うよ」
「……随分余裕じゃないか。やっぱりお前もコネだと思ってるのか」
「思ってないけど」
 
 目をぱちくりとさせ、口をぽかんと開く。動揺を隠そうと貼り付けられていた仮面が一瞬で剥がれた。マルフォイは年相応のあどけなさが残る顔で私を見つめる。

 
 『箒を寄与した』
 ただそれだけの理由でメンバーに選ばれたなんて、そんなことはないはず。……と私は思っている。ピリピリと殺気立ってるみんなの前では当然言えないことだが。オフレコオフレコ。

 だって寮杯がかかってるんだから、さすがのスリザリン生だって納得いかないだろう。彼らは純血主義で上下関係がはっきりしているが、それでも個々のプライドは恐ろしく高い。権力におもねた結果惨敗だなんて許せないに決まってる。しかしそんな暴動が起きてないということは、マルフォイ本人にだってシーカーに選ばれるだけの実力はあるということだ。……多分。
 
 それにしても。おうちの庭で飛ぶ練習する子どもマルフォイ……想像したらはちゃめちゃに可愛い。ありよりのあり。余裕であり。むしろあり。逆にあり。要するにどう足掻いてもありだ。
 
「沢山練習したんでしょう? すごいなあ」
「……あ、たり前、だ」
 
 彼は吃りながらそう返した。口ぶりだけは尊大だが目元がうっすら赤い。……うそ、まさか照れてるの? 驚いて目を瞬かせるが何度見ても彼の頬にはほんのりとした朱が差されたままだった。やだ、めちゃくちゃ素直、なにそれ可愛い……褒め言葉であればグリフィンドール生からでも素直に受け取ってくれるのか。ピュアピュアなマルフォイに胸を高鳴らせていれば、彼は気を取り直すようにごほんと咳払いをした。
 
「ちゃんと見ておけよ」
「……え、試合のこと?」
「それ以外になにがあるんだ」
「だ、だよね……試合、うん、ちゃんと見るよ。ハリーもでるし」
 
 私の言葉の何かが彼の地雷を踏んでしまったのか、端正な顔が一瞬でぐにゃりと歪んだ。……何かっていうか『ハリー』かな、もしかしなくても! 怒りで顔を赤くした彼が私をグッと睨みつける。
 
「この僕が! あのポッターを! 無様に負かすところをしっかり見ておけと言っているんだ!!」
「ひぇ……」
 
 歯をむき出してそう怒鳴ると「分かったか!」と念押しをして肩をいからせながらふくろう小屋を後にした。
 ほんの数秒前までは普通に話せてたと思ったのに、気難しいなぁ……まあさっきのは完全に私のやらかしですけどね。素直にごめん。
 ていうか結局手紙ださないで帰っちゃったし……いいのかな。何しに来たんだろ、あの子。わざわざ怒りに長い階段登って来たみたいになっちゃったね。
 

 それにしても、今のは新手の宣戦布告? でもそれを選手でもない私に言う意味とは……それにこの前からやけに絡まれてる気がする。なぜだ……マグルだからか? 節子それヒントやない答えや。自分で導き出してしまった回答にちょっぴりへこんだ。
 

 でも、と思い出す。

 私を映す彼の瞳にはマグルだという『嫌悪感』だとかそういうものは、一切含まれてなかったような気もする。……思い違いだろうか?
 

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