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 ロックハート主催の決闘クラブなんてよく許可したよなぁ、ダンブルドア先生も……あ、だからスネイプ先生が助手に選ばれてしまったのか。子守り的な意味で。ほんとに損な役回りだ、可哀想。『なんでもする』とか約束しちゃうから……ヴィラン丸出しの凶悪顔を見せるスネイプ先生に内心で合掌する。いや、この場合哀れむべきはこの後吹っ飛ばされるロックハート先生なのか?
 
 予定通り気取った見栄張り教師を吹き飛ばして多少は溜飲が下がったのか、手際よくペアを振り分けていくスネイプ先生はどこか満足気な顔をしていた。
 
「僕の相手はエレナか。悪いけど手加減はしないよ」
「手加減もなにも、武器を取り上げるだけでしょ?」
「三つ数えたら、相手の武器を取り上げる術をかけなさい──取り上げるだけですからね……いーち、にーぃ──」
 
 私の相手は近くにいたディーンになった。ニヤリと口角を上げて杖を構える彼にしっかり釘を刺しておく。意味深な笑みを浮かべるだけで彼からの返事はなかった。……ほんとにやめてよね?! 果てしなく不安だ。
 
 でもそれなら、
 
「さん!」
「エクスペリアームス!」
「うわっ!」
 
 まず何もさせなければいいだけの話だ。
 
 赤い光線はディーンの杖に的確に当たり、クルクルと回転して宙を舞う。生徒達の間に落ちていく杖を二人で見つめる。シーカーでもなければ運動神経も並の私ではさすがにキャッチすることは出来なかった。てへ。

 だって変な呪文かけられたら嫌だし。エレナ・ワイアットはこれでもそれなりの優等生で通ってますから。ポンコツだろうと先生の言うことにはきちんと従いますよ、ええ。
 
「卑怯だ!」
「ふふ、ごめんね〜」
 
 ぶすっと口を尖らせるディーンに軽い調子で謝罪をし、お詫びもかねて彼の杖を探しに行く。……いや一瞬で終わらせられて不服なのは分かるけど、でも卑怯はなくない? 杖を探しながら彼の言葉を反復して遅ばせながら顔を顰めた。変な呪文かけようとしてた方が卑怯じゃないか。やっぱりディーンに自分で取りに行ってもらえばよかったかも。
 少し後悔していれば辺りに蔓延していた緑がかった煙が晴れて視界が開ける。……なんでみんな素直に武装解除の呪文使わないんだろう。そんなの指導者がロックハート先生とスネイプ先生だからですね分かります。うわっマルフォイめっちゃ笑ってるしハリーはすごい踊ってる。一見すると愉快だがその形相は両者とも憎しみに充ちていた。怖い、仲良く……は、無理か……。

 あ、ディーンの杖あった。床に転がる杖へ、膝をついて手を伸ばせば触れる目前で杖がゴリと踏みつけられる。
 
「……あの、足退けてもらえませんか?」
「あら気付かなかった、ごめんなさい」
 
 スリザリンのローブを着た黒髪の女生徒はくすくすと意地悪く唇を歪めた。目元がきついが、でも美人だ。整えられた柳眉を釣り上げて馬鹿にするように私を見下ろしている。気付かなかったとか言ってるけど明らかにわざとだ。それに全然足退けてくれないし。初めて見るし随分と大人びた顔つきをしているからきっと上級生なんだろうけど、なんなんだろう……なんで私今こんな喧嘩売られてるんだろう……? まさか呪ってほしいのかな? えっ足縛りの呪文でもかければいい? かけるのも吝かではないですけど?
 
「レベッカ?」
 
 『レベッカ』と呼ばれたその女性はついと顔を上げる。踵を返して声の方へと向かっていく。すっかり興味を失くされた杖は無造作に爪先で蹴飛ばされた。えっ何今の。私あの人になにかしたっけ……? 謎の絡みに首を傾げながらディーンの元へと戻る。
 
「おっ杖ありがと、……ってなにかあったのか?」
「……なんか、当たり屋にあった」
「は?」

 ……スリザリン、こわ。
 感想としてはそれに尽きる。


 
 そうして辺りの喧騒が一通り落ち着いたあと、マルフォイとハリーがモデル演技をすることになった。よりにもよってそのペア……スネイプ先生私怨が過ぎませんか……? 確かに物語の進行上には必要なことだが、こうして実際に見ていると『マジかこの人』ってことが多い。うーん、いやほんとマジかこの人。これが私怨じゃないなら教師適正を疑うところだけど、まあどう足掻いても私怨なので……うん、マジかこの人。
 
「サーペンソーティア!」
 
 マルフォイの叫びとともに、ハリーとマルフォイの間に艶々とした黒い鱗を持つ蛇が現れる。勢いよく床に落ちたからか蛇は酷く機嫌を損ねてしまっているようで、鎌首をもたげて鋭い牙を剥き出した。
 

「(……やっぱり本物は違うなあ)」

 前世で生きてたとき、シューシューと歯の間から音を鳴らして「パーセルマウスだー!」とか友達同士でふざけたりしたけれど。あんなものの比じゃない。

 なんてそんなことを、蛇に囁いて語り掛けるハリーを見て考えた。
 
 しかし隣のハッフルパフ生はそんか呑気なことを考えられなかったようだ。蛇をそそのかされた(ように見えた)ジャスティンが浅い呼吸で、それでも精一杯強がってみせた。
 
「いったい、何を悪ふざけしてるんだ?」
 
 彼は困惑するハリーを無視して広間から小走りで出ていった。
 
 痛いほどの沈黙。しかしやがてヒソヒソとした騒めきが波打つように広まっていく。ショックを受けたような顔でその場に立ち尽くすハリーをロンがそっと連れ出した。
 
 
 
 
 ホグワーツ生は強運すぎるといつだかに評した気がするけれど。ハリーはその強運を上回る不運の持ち主だとジャスティンが石になったことで証明されてしまった。タイミングバッチリにその場に居合わせてしまって、しかも昨日の今日。しかも首なしニックも一緒に。しかも即ピーブズに拡散される。はいもうこれ完全証明。はっきり分かりました。ハリーの不運WINNER。
 
 一度に二人が襲われた件が城中に広まるのは一日もかからなかった。校内ネットワークが早すぎる。いよいよほとんどの生徒はハリーを腫れ物扱いして避けて歩いた。畏怖の視線に晒されるのは確かに気分はよくないかもしれないけど、歩きやすそうで私はすごくいいと思う。だからそんなに落ち込まないでほしい。落ち込むよりニックの話を聞かせてほしい。
 
「ニックの話ならもうし尽くしたじゃないか……」
「だって扇ぐって……扇いで移動させるって……」
「ニックが石になったことじゃなくて運ばれ方をそんな気にするのエレナくらいだよ」
 
 込み上げる笑いを抑えきれずくっくっと笑う私に、ハリーは呆れたような、安心したような、そんな奇妙な顔をした。そして息を吐きながらそう呟く。パチパチとはねる暖炉の火をぼんやりとレンズに映していた。


 グリフィンドールの生徒──もちろん全員ではないのだがほとんど大多数──はハリーが継承者だとかそういうことは気にしていなかった。そのおかげで彼の癇癪玉も不穏な火を宿してはいない。いまのところ。

 だがハリーが継承者かどうか置いとくとしても、ネビルはすっかり怯えきってしまっていた。不安がった彼は再び魔除けグッズを大量に買い込むことに勤しんでいる。今や学年で1番魔除けグッズに詳しいんじゃないだろうか。今年度のお小遣いを全てこのパチモン、じゃなくてあまり効果の期待できなさそうな代物に注ぎ込んでしまいそうな勢いだ。それだけは阻止したい。あとこれ以上臭う物を持ち歩いてたらそろそろ私も生徒達に避けられてしまいそう。こんな不名誉なモーゼってある? そんなことになる前に断固として止めねば。

 さて、話を戻すが。
 ニック。ほとんど首なしニックだ。扇いで移動させたの? なにそれすごく見たかった。そりゃあハリーはその場にいたしそれどころじゃなかったのかもしれないが、冷静になってみてほしい。うちわに扇がれて移動するニック、本当に申し訳ないんだけど相当面白い。数年後に思い出してみてほしい。絶対私の気持ちが分かるから。
 しかし『不謹慎』だと言いたげに眉を顰めたハーマイオニーに睨まれてしまったのでそろそろ自重することにする。
 
 不意に、ごほんと咳払いをしたハリーがなんでもない風を装って「ところで」と声を出す。
 
「あー……エレナは今年のクリスマスもホグワーツに残るんだよね?」
「えっ家に帰るけど」
 
 あれ、言ってなかったっけ?
 平然として告げれば、当のハリーは口をあんぐり開けて絶望的な顔をした。そ、そんな驚くことかな。今年はほとんどの生徒が帰ってるし、別におかしなことではないと思うんだけど。
 
「やっぱりエレナも僕がスリザリンの後継者だって思ってるんだ!」
「違うよ?!」
 
 漂ってきたあまりの悲壮感に間髪入れずに返事をする。もうほとんど反射だ。何故話をそう飛躍させてしまったのか。
 
「だって去年は残ってたじゃないか……」
「去年はホグワーツのクリスマスを体験してみたくて。だからお母さんに無理を言ったの」
「あ……そ、そっか……僕、あの……ごめん」
 
 教えた理由にハリーは納得してくれたのか、やっとぎこちなく相好を崩した。
 
 まあ実際はそんな約束していないし、『絶対戻ってきなさい』と母から強く念押しされたから帰るのだけれど。しかしハリーを継承者だなんて微塵も思ってないんだから別にいいだろう。嘘も方便というやつだ。
 本音をいえば残りたかった。だってクラッブとゴイルになった二人、見たかったし。あとガチ猫ハーマイオニーも。
 
「今年は一緒に過ごせると思ったんだけど……残念ね」
「私もだよ……あ、プレゼントは楽しみにしててね!」
 
 私の言葉にハーマイオニーは残念そうに歪めていた顔をぱっと明るいものへと変えて「エレナもね」とにっこりした。
 

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