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声が聞こえた。
『────』
懐かしい名前だ。今より十二年くらい前に、ずっと呼ばれていた名前。その名前を紡ぐ声は一つじゃなかった。二つの声がその名を、私のことを呼んでいた。どちらも悲痛な色をたっぷりと滲ませている。
誰だろう、なんて悩んだのはほんの一瞬だった。だって自分の両親の声を忘れる人間がどこにいる? 少なくとも私は忘れていなかった。
『────』
どうして私のお父さんとお母さんはこんなに哀しそうなんだろう。いくら考えても分からなくて困り果てる。よく分からないけど、ごめんね。私はなにか悲しませるようなことをしてしまったようだ。親不孝だなぁ。
──でも、
『────』
もうちょっとだけ眠らせてほしい。
なにしろ全身が恐ろしく重いのだ。何もしていないはずなのにこんなにも倦怠感に蝕まれるなんてことあるだろうか。とにかく、もう、考えることすら億劫で。絡みついてくる睡魔に大人しく身を委ねた。
ごめんね、すぐ起きるよ。でももう少しだけ────
声が聞こえた。
『エレナ』
聞き慣れた名前だ。ここ十二年、ずっと呼ばれている名前。たった一つの声が私の名前を何度も何度も繰り返す。縋るように、または祈るように。
誰だろうと、頭を捻ってみるがどれだけ考えても答えはでなかった。いや、喉元まででかかっているような気もする。それでもやっぱり結局は分からなかった。
『エレナ』
どうしてこの人はこんなに哀しそうなんだろう。酷く苦しそうに聞こえる。ちゃんと呼吸できてるか心配になるほどだ。それに、寂しそう。ポツリと私の名前を呼ぶ言葉尻が微かに震えた。
──ああ、
『エレナ』
この人に泣いてほしくないなあ。
誰かだなんて分からないのに、なぜだかただ漠然とそう思った。
この声を止めてあげなきゃ。耳に馴染む、心地いい声だけど、こんな哀しそうな声はもう聞きたくない。言わせたくない。全身にねっとり纒わりついてくる黒い靄を無理矢理に振り払って声の方へと手を伸ばした。
大丈夫、すぐ起きるよ。だからもう────
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