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目を開ければ見知らぬ天井。……なんかつい二ヶ月前にもこんなことあったな。デジャブ。もぞもぞと身を起こす。今度は力が入らずたおれ込む、なんてことはなかった。
銀色の水差しを手に取りながら部屋内を見渡す。ここはどこなんだろう。
本がギュウギュウに詰められた大きな棚の隣には怪しい色彩の薬品が入った小瓶が所狭しと並ぶ棚。書類や小物が乱雑に置かれたごちゃごちゃとした木机。色褪せたステンドガラスが嵌め込まれた窓。
……えっと、どこをとっても何一つしとて見覚えがないんですが……? あ、あの隅にあるのってもしかして私のトランク? アンブルもいるし……一人困惑していれば、古びた木の扉がギィと音を鳴らしておもむろに開いた。
「お、目が覚めたか」
「……叔父さん?」
姿を見せた叔父さんに目を丸くする。なんでここに。不思議そうな私の表情からそんな疑問を読み取ったのか、彼は「ここは私の家だ」と笑ってみせた。
なるほど、ここが叔父さんの家。よく見れば魔法道具と思しきものがわんさかとある。一度も来たことがなかったし見覚えがなくて当然だ。……でもなんでここにいるんだろう。再び顔を顰めた私を見て、彼はベッドに座って事情を話してくれた。
なんでも、『魔力暴走』。
つまりあの手紙の動きやテーブルが壊れたこと、そして窓が割れたことなどは全て私のせいだったというわけだ。あのときたまたま魔法省にいた叔父さんが派遣され、事態を収めるために私を眠らせてここに連れてきた、と……。
……要するに、ハリーが叔母さんを膨らませちゃったあれと同じ現象ってことだろうか?
事態を理解すると同時にドクンと心臓が大きく跳ねる。
じゃあ私は、あの時、怒って、母を殺そうと、
「大丈夫!」
「……ぁ、……」
パニックになりかけた思考を止めるように、叔父さんが声を張り上げた。ハッと叔父さんを改めて見ればおおらかな笑みを浮かべていた。……気付いたら手元がびしょびしょだ。持っていた水差しから水が溢れ出してしまったみたい。……もしかしてまたやっちゃったの?
私が落ち着いたのを確認すると、叔父さんは杖を振って水差しを消す。彼はショックを受けている私の背中を安心させるように軽く叩いた。
「感情が爆発して魔力がコントロールできなくなることは子供の魔法使いにはよくある」
退学にもならないしそんなに気にするな、と付け加えてにっこりする。
「今回のは事故なんだ。それに、あの二人も喜んでるんじゃないか?」
「え?」
何言ってるんだと眉を顰める。お母さんなんて怪我したのに。「現にウィリアムは喜んでたぞ」嘘でしょお父さん疲れてるの??
「『やっと子供らしくなった!』ってな。エレナは昔からどこか達観してたというか……大人びてただろう」
「……そんなことないよ」
「ほら、そういう所とか」
揶揄うように突っ込まれてぐっと口を噤む。まあ確かに、子供って大人扱いされたがるものだもんな。これまでは『今は子供だし』と大体受け入れて、……でもそういえばお母さんと言い合ってたときはものっっっすごくむしゃくしゃして嫌な気分だったような?
「エレナもついに反抗期か〜」
「…………は?! いやない、そんなわけない!!」
「そうか? ほんとに?」
「ほっ…………」
しみじみと頷く叔父さんの言葉を全力で否定する、が小首を傾げて聞き返された。肯定できなくて中途半端に声が止まる。アンブルがホー! と楽しそうに鳴いた。違う、今のは鳴き真似じゃないの。
いやそんな人生二回目なのに反抗期とか、そんな、子供みたいな……! うそうそやだやだ、信じたくない!……ないけど『親のいうことなんて聞きたくない聞くもんか!』っていうこの感覚、非常に身に覚えがある。たしか前世で中学に入ったくらいのときだ。あのとき軽くグレたみたいになってて……つまりその時と同じ思春期真っ只中の反抗期ってことじゃないですかやだー!!……いやほんとに冗談抜きでいやだ。
うおおおと唸っていれば、叔父さんは生暖かい眼差しをしながら穏やかに話し始めた。
「ヘレンもお前が嫌いだから言ってるわけじゃない」
「……」
「すごく心配で、少し暴走してしまっただけなんだ」
「分かる、分かってるけど……」
わがままな子供に言い聞かせるような口調にむず痒くなる。
本当に、母が私を思っているというのは分かるのだ。この十二年の間に、それはもう痛いほど伝わってきている。いっそその愛で潰されそうだ。……母の愛について考えてたらついでとばかりにこんな皮肉まで浮かんできてしまった。やだ、反抗期じゃんこんなの……反抗期なの……?
「『けど』、なんだ?」
「え、……あ、けど、私ホグワーツに行きたい、って思う、から……」
優しく続きを促され、飛んでいた意識を引き戻して返答した。自分勝手なことを言ってるという後ろめたさから言葉尻が萎んでいく。
だって、あそこは楽しいんだもの。好きなお話の世界だからとか、そういうのを抜きにしても。知らなかったことがこんなにあるんだって学ぶたび、経験するたび歓喜に包まれる。あの喜びをもう味わえないなんて、そんなの嫌だ。なにより彼らと別れたくない。ドラコとだって、せっかく友達になれたのに。……あ、そういえば手紙書いてないや。まあそもそもドビーもきてないしいっか……。
叔父さんがふむ、と唸る。
「そうだよな、あそこは楽しいもんな」
「……うん」
「うん。それはとても大事なことだ。それ以上に優先するものはないよな。よし、それなら行きなさい」
「えっ」
「ヘレンのことは私に任せてくれ。説得してみせる」
あっさりと肯定し、背中を押してくれた叔父さんが意外でぽかんと口が開く。てっきり母の援護に回ってしまうものかと思っていた。彼は「夏休み中、エレナはここにいるといい」と、そう言いながらベッドから腰を上げた。しかし「でもな」といって、私より深い水色の双眸がこちらを見下ろす。
「母さんはお前が心配なだけだったってことだけは、ちゃんと理解しておくんだぞ」
「……理解は、する、ちゃんとできてる。──でも、納得はできない」
そんな私のクソガキムーブを、叔父さんはふんわり微笑んで受け止めた。
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