8
◆◆◆
「レイブンクロー!」
古ぼけた帽子が次々と生徒たちを振り分けていく。帽子が大声をあげるたび、それを飲み込むくらいの大きさの拍手が広間を包んだ。
興味津々に頭をぴょこぴょこと動かすロンに小声で話し掛ける。
「ロンは初めて見るもんね、組み分け」
「あ、去年は車で来たんだっけ」
「やめろよ。……でも、なんならハリーは見たことすらないんだぜ」
どこか尊敬するような眼差しのネビルとは対照的に、去年のことを思い出したのか、ロンはうげぇっと口をひん曲げた。それからチラッと広間の出入口を見る。誰も来ていないのを確認すると眉を顰めた。
「だいたい、なんでハーマイオニーまで呼ばれたんだ?」
この短時間で何度も聞いた疑問の言葉だ。返事は期待してないのか、視線は合わない。それをいいことに、ネビルと顔を見合わせて肩を竦めた。
「フォルチュナ・マジョール!」
宴も終わり、皆へとへとになりながらやっと懐かしい肖像画まで辿り着く。しかし誰も合言葉を知らず立ち往生していたところにパーシーの高らかな声が響いた。唱えられた合言葉にネビルが悲しげな声をあげる。それを揶揄うようにシェーマスが私を指さした。
「そんなに心配しなくても、ネビルにはエレナがいるじゃないか」
「いいよなー、ネビルは覚える必要なくて」
今回の、少し覚えづらいもんね。でも任せて、ちゃんと覚えるから! グッとサムズアップしながら笑えばネビルはキュッと口を結んだ。やけに気難しい顔をしている。
「僕、今学期はエレナに頼り過ぎないって決めてるから」
「……えっ?!」
何を言ってるかすぐに分からなかった。一拍遅れてネビルの言ったことを理解する。それは、聞きようによればある種の拒絶のような台詞だった。他でもないネビルの口からそんなことを言われ、ショックのあまり一瞬身体の力が抜ける。体勢を崩した私を誰かが支えてくれたが、正直お礼を伝える余裕はなかった。
「な、なん、……えっ?!」
「驚くことじゃないよ。だって今までが頼りすぎだったんだから」
「そんなことないよ?! 全然、いやむしろもっと頼ってほしいですけど?!」
「……うん、エレナならそう言ってくれると思った」
掴みかかる勢いで手を握れば、ネビルは寂しそうに微笑んだ。小さく「ありがとう」と言ってから、やんわりと掴まれた手を解く。明らかな拒絶に、開きっぱなしだった自分の口が微かに震えた。
「へえ! ネビルもついにエレナ離れか!」
陽気な声が妙な静けさを含む空気を霧散させる。ネビルの背中をフレッドとジョージがそれぞれ両サイドからバシッと叩いた。苦しそうに呻いたネビルをよそに二人はニヤニヤとしている。叩かないで、というかエレナ離れとか言わないで。追い討ちしないでほしい。
「喜ばしいことだな」
「ああ。俺たちは応援するぜ、ネビル」
「……なにか企んでるでしょ、二人とも」
態度があまりに白々しすぎる。睨みつければジョージが「ご冗談を!」といい、フレッドが芝居がかった仕草で大仰に両手を上げる。
「『企んでる』だなんてとんでもない!」
「我々は清く、正しく、そして誇り高いグリフィンドールの先輩として疚しい気持ち一切なくネビルの独り立ちを祝福しているのさ」
「……それで、本音は?」
「「悪戯グッズを試せる相手が増えるから嬉しい!」」
「ちょっと!!」
どうせそんなことだろうと思ってたよ!
憤慨する私を面白がるように、フレッドはニヤリと笑みを深めた。
「なんたって、余計な障害がなくなるのは俺たちにとっては喜ばしいことだからな」
「しょ、障害……?!」
鈍器で頭を殴られたような衝撃が襲う。障害って、余計なって……私って二人からそんなふうに思われてたの? かなりショックだ。まさか、ネビルも私のことを疎ましく思っていたりしたのだろうか。第三者が傍から見ててそう感じていたってことはその可能性は高い。でもネビルは優しいからそんなこと、いや優しいからこそ今までずっと言えなかった……?!
「……少しからかいすぎたか?」
「かもな……。おいエレナ! ネビルが行っちまうぞ!」
「え、あっ、待っ……!」
ジョージに声をかけられハッと顔を上げる。見慣れた背中はすでに寮の扉を潜って行こうとしていた。呼び止めようとした形のまま口が止まる。もしネビルが本当に私にうんざりしてるなら追いかけない方がいいんじゃ……。
不意に「もう!」と声が上がる。背後のハーマイオニーが私の腕を強く掴んだ。
「早く行きましょうエレナ!」
「でも、」
「でもじゃないの!」
彼女は私を引っ張りながら、叱りつけるように言い放つ。なにをそんなに怒ってるの? あ、道塞いじゃってたのかな? そう謝れば彼女はこれでもかというくらいに険しく顔を顰めた。そしてギュッとほっぺを抓られてしまった。
そっか、さっき支えてくれてたのはハーマイオニーだったんだ。いきなり倒れ込まれて大変だっただろうな。謝罪と感謝を伝えると、掴む力が少し弱くなった。
「……エレナ、多分二人の言葉本気にしちゃったよね」
「あーあ、見たかよハーマイオニーのあの顔……二人とも、あとでエレナに謝れよな」
「アー……うん」
「こればっかりはロニー坊やの言う通りにしたほうがよさそうだな」
◆◆◆
- 41 -
←前 次→