8.5



「で、どういうつもりなんだ?」
「へ?」

 ベッドの上に明日の授業で使う道具を並べ、満足そうにするネビルへ、ロンは胡乱げに問いかけた。ネビルはきょとりと目を瞬かせる。そんな彼に苦笑しながらハリーはロンの言葉を補足した。

「ほら、さっきの。『エレナに頼らない』ってやつ」
「ああ、それ……」
「エレナ、すごい落ち込んでたよ」
「えっ……そ、そっか……」

 彼女のショックの受けようを思い出し、ハリーの声にはほんのり責めるような色が混じる。落ち込んでるとは思っていなかったのか、ネビルは申し訳なさそうに眉を下げた。そんな彼にロンが肩を竦める。

「ま、あれは半分くらい兄貴たちのせいでもあるけどな」
「フレッドたち? 二人がエレナになにかしたの?」
「え、いや、なにかっていうか……」

 ベッドから降りて詰め寄られたロンはしどろもどろになりながら先程のことを掻い摘んで説明する。最後まで聞き終えるころには、ネビルの眉はぐぐっとつり上がっていた。すごい、こうして見ると、夏休みに見かけた彼の祖母にそっくりだ。
 変なところに感心しつつも、まあそれはそれとして……と、ハリーはたじたじになっているロンを押し退け話を本題へと引き戻した。

「それで結局理由はなんなの?」
「さ、さっきエレナに言った通りさ。やっぱり頼りすぎかなって」

 再度の問い掛けにネビルは途端にお祖母さんの面影をすんっと引っ込めて気まずげにうろうろ視線を泳がせた。確かに先程通りのもっともな言い分ではあるがそれにしては様子が怪しい。ロンとハリーの二人からじいっと見つめられた彼は観念したのか長い息を吐いた。

「……エレナ、新しく友達ができたと思うんだよね」
「友達って……他寮にか?」

 聞き返すロンにネビルはこくりと頷き肯定する。『友達が出来た』だなんていいことじゃないか。それを何故そんな深刻な顔して語るのだろうか? 首を傾げたハリーに、ネビルは焦れたように「だって、」と続けた。

「だって教えてくれないんだ、その人のこと」
「教えてくれないって……でもネビルはその新しい友達? のこと、知ってる風じゃないか」
「まあ誰かは分かってるよ、多分だけどね。でもエレナから直接教えてもらったわけじゃないし……」

 言いづらそうに口をもごもごとさせる。しばらくはそんなふうにはっきりしない態度でいたが、続きを待つ二人にしぶしぶと小声で呟いた。

「……『隠しごと』なんて、寂しいじゃないか」
「……え?」
「だって僕はエレナの親友なのに」

 口を尖らせたネビルは少しだけ拗ねたような表情を浮かべる。予想外の理由にハリーは目を丸くさせる。彼女を頼らない──つまり避けたがっているのは、てっきり『みんなに揶揄われるのが嫌だ』とかそんな理由なのかとあたりをつけていたからだ。しかし親友に隠し事をされて寂しい気持ちは分からないわけではない。なんと声をかけるべきかとロンを見遣るがロンの方も困った顔でハリーを見ていた。どうするのさ、これ。分かんないよ、ロンがなんとかしてよ。いや無理……。
 そんな二人のアイコンタクトを他所に、ネビルは顔を上げてパッと明るい笑みを浮かべた。

「だから僕、その人に紹介しても大丈夫だって思ってもらえるようになろうと思って」
「……そっか」
「そういうことなら僕らも応援するよ」
「うん! あ、これ、みんなには内緒にしてね」

 その笑顔に、かけなきゃいけない言葉はなさそうだと二人は内心ほっとする。どこか照れくさそうに念押しをする彼の背中をロンは「分かってるって」と言いながら軽く叩いた。それを見ながらハリーはふと気になったことを尋ねる。

「ところでその『新しい友達』ってどの寮の誰なの?」
「えーっと……、……言えない、かな……特に二人には」

 揃って不思議そうな表情を浮かべたロンとハリーに、ネビルは乾いた笑い声を零した。

###

「……あ」
「ん? あ、エレナ」

 翌朝、談話室でハーマイオニーを待っているとハリーが小さく声を上げる。声につられてロンが視線を辿るとエレナがちょうど女子寮からでてくるところだった。降りてきた彼女は二人に近付いて手を振る。

「おはよう二人とも。……ネビルってもしかしてもう行っちゃった?」
「おはよう。もしかしなくても行っちゃったかな」
「ああ、やっぱり」

 ハリーの言葉に彼女はがっくりと肩を落とし「置いてくなんてひどい……」と悲しそうに目を伏せた。その姿になんだかハリーは可哀想になってフォローの言葉を付け足す。

「今日は一応道確認の為に一人で広間まで行くって言ってたから、明日からは一緒に行けるよ」
「そうさ、ネビルだってさすがに寮から広間までくらい……多分……」
「途中で自信なくすのやめてよ……」

 ハリーに続いたロンだったがみるみる声が小さくなっていく。それをエレナに半目で咎められ彼は気まずそうに笑って誤魔化した。

「まあネビルなら大丈夫だよね! じゃあ私先行くね」
「うん、またあとで」
「……お、ハーマイオニーも来たな」

 談話室から出て行く彼女と入れ違うように女子寮からでてきたハーマイオニーにロンが嬉しそうに口を開ける。

「もうお腹ペコペコだよ僕」
「……昨日のネビルの話さ、」
「うん?」

 やたらパンパンな鞄を抱えて階段を降りるハーマイオニーを眺めながらハリーが不意にぽつりと呟いた。

「僕らも『親友』に隠しごとはできないよね」
 

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