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 曰く。

 『一番気難しいのをクリアすればあとは楽勝だろう』

「……と、いうわけでよろしくお願いします」
「そうはならないと思うなぁ、僕」
「理にかなってるような、滅茶苦茶なような……いえ、滅茶苦茶ね」
「ハハ……まあハグリッドらしくはあるかもね」

 一番気難しいの、つまりバックビーク。彼を混じえて練習するハリーたちのグループに混ぜてもらって、ハグリッドの主張を説明すると、同情するような眼差しを向けられた。ほんとにね。ちょっと無茶があろうかと思われますよね。まあ思うんだけど、ハグリッドの言い分も分からなくはないし、なによりここでバックビークと一緒にいれたらこの後起きるかもしれない事件もなんとかうまいこと防げたりしないかな、とか考えたり。とにかく頑張るしかない、なるようになれだ。


 そう決心しつつも、バックビークから送られる痛いほどの視線に思わず半歩下がってしまう。さっきまでお相手してくれてたヒッポグリフと違って敵意みたいなものは感じないけど、まあシンプルに圧がね……ちょっと怖いよね……。バックビークはすぐに興味が失せたようで、私から視線を逸らすと足元の草木を啄むように頭を下ろした。

「……ちなみに私が動物に好かれづらいって皆は知ってました?」
「まあ」
「薄々」
「なんとなく?」
「う、うそぉ……?!」

 もしかしてグリフィンドール三年の中では周知の事実だったりするの? 気付いてなかったのは私とネビルだけ? な、なにそれ、嘘だといってよバーニィ!

「私もハリーみたいに背中に乗って飛んでみたかったのに……」
「練習したら出来るようになるよ、きっと」

 バックビークの翼を撫でながらハリーはそう私を慰めてくれた。ありがとう。でも「僕は箒で飛ぶ方が好きだけど」って小声で呟いたのもちゃんと聞こえてたよ。

「でもハリーはもうあんな真似するのはやめろよな。死神犬のことだってあるんだし」
「ロンったら、まだそんなこと言ってるの」
「『そんなこと』だって?!」

 難しい表情でそう言ったロンに、ハーマイオニーがむっと眉を吊り上げる。それに対抗するかのようにロンは声を荒らげた。大きな声にバックビークがロンの方をギロリと睨んだが、彼はそんなことはお構いなしで「君は分かってないんだ!」と言葉を続けている。ロンの言葉にハーマイオニーは目を細めて落ち着いた様子で口を開いた。かぁん、とどこからかゴングが鳴ったような気がする。

 激しい口調での言い争いを始めた二人に、ハリーは疲れたように小さくため息を吐いた。自分に関係することでこんな風に揉められて大変だよね……。心中お察しします。そう肩を叩けばハリーは意外そうに目を丸くさせた。

「エレナは死神犬のこと信じてないの?」
「まあ……。マグル育ちだから魔法界の迷信には馴染みがないし」
「迷信?!」
「うっわごめんごめんごめん軽んじた訳じゃないんだよほんとにだから怒らないでロン」

 興奮からか、顔を若干赤くさせたロンにものすごい勢いで詰め寄られ急いで謝る。なんでよ。ハーマイオニーと議論してたじゃん。突然意識こっちに向けないでよびっくりするでしょ……。若干怯えながら少し距離をとる。

「マクゴナガル先生だって、気にする必要はないって仰ってたし」

 ハリーが今年の選ばれちゃった大賞と知ったときの顔ったら。『まあそうでしょうね』とありありと刻まれた表情を思い出して笑いが洩れる。そんな私を不謹慎だと責めるようにロンは顔を顰めた。そんな顔されてもなぁ……。

「ロンは二年間お世話になってる寮監よりついさっき会ったばかりの人を信じるの?」
「うっ、それは……」
「……ね、だからそこまで重く捉えないでも、」
「いやでもマクゴナガルはハーマイオニー気質みたいだから占い学に関してはあんまり信用ならないっていうか……」
「なんですって?!」
「うーわ」

 なんてこと言うんだ。いい感じに収めようとしたのに。台無しキングのあんまりな言い分にハーマイオニーも当然噛み付く。そうして当たり前のように第二ラウンドへと突入した二人に背を向け、ハリーに向き直った。ハリーが「……思ったんだけど」と口を開く。

「『死』じゃなくて『仲違い』の暗示なんじゃない?」
「……そうかも」

 あながち間違ってないと思う。激しさを増す諍いの声にハリーと二人肩を落とした。

「もう二人のことは放っておこ。それより私もバックビークとソウルメイトになりたい」
「えっ僕ソウルメイトになったつもりはないんだけど……」

 困惑するハリーを横目に再度バックビークの瞳をじっと見つめた。しかし何度相対しても、バックビークは値踏みするように視線を返してはすぐつまらなそうに逸らしていく。まだ威嚇はされてないし他のヒッポグリフと較べたらずっとマシな反応だけど……。

「心が折れちゃいそう」
「気負いすぎなんじゃないかな」

 一向に進展しない状況に小さい呟きが零れた。弱音を吐いた私に、ちょっと考えてからハリーが助言をくれる。気負いすぎか……。確かにそれはあるかもしれない。だって周りで出来てないのはもう私くらいなんだもの。いくら能天気な性格とはいえさすがに疎外感とか劣等感とか感じてしまうよね。

「一生仲良くなれない気がする」
「大丈夫だって。ソウルメイトになるんでしょ?」
「なりたいけどさぁ……」
「じゃあ頑張ろう」

 その顔はにっこりと笑っているが有無を言わせない迫力がある。意外とスパルタというか、スポ根というか、さすが未来のキャプテンというか。
 ハリーは「ほらもう一度」と私の腕を引き、バックビークの正面へと立たせた。容赦がない……ちょっと休憩させてくれないかな。結構本気で心が砕けてるんだけど。そう縋るように見つめてもハリーは変わらずニコニコとしているばかりだ。ただ掴まれた腕の力は少し強くなった。
 そうして無言の攻防をしていると、背後から「おい!」と剣呑な声がかかった。枯葉を踏み付けるように荒い足取りで、怒った顔のドラコがズカズカと近付いてくる。その後ろではクラッブとゴイルが慌てて追い掛けてきていた。

「いつまで、……ヒッポグリフを独占してるつもりだ?」
「別に独占なんてしてないだろ。ヒッポグリフなら他にも沢山いるんだから、あっちへ行けよマルフォイ」

 不愉快そうに眉を顰めるドラコに、ハリーが素っ気ない態度で静かに言い放った。ロンとハーマイオニーもいつの間にか言い争いをやめてスリザリン組と対峙している。不穏な騒がしさに気付いたのか、少し離れた場所からハグリッドが向かってきていた。

 嫌な予感に胸がざわつく。原作では、どうだったんだっけ。どんな状況であの事件が起きたんだっけ。記憶を掘り起こす前にドラコの「イヤだね」という声がする。

「なんで僕がきみの指図を受けなきゃならないんだ」
「ああもしかして、ハリーにコツでも教えてもらいに来たのか?」

 そんなわけはないだろうと分かっていて、ロンは馬鹿にするように言った。ドラコはハッ、と鼻で笑う。そしてバックビークの方へ一歩踏み出し見上げると、冷たく目を細めて口の端を吊り上げた。

「コツだって? そんなもの必要ないね」

 あ、と気付く。遅かった、もう間に合わない。

「こんな、ただ醜いだけのデカブツごとき────

 鋭い鉤爪が、ギラリと陽の光を反射させた。
 

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