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 取ってきた参考書を机に広げる。目次を確認して目当ての呪文のページを開いた。やっぱり図だけだと杖の動きって分かりづらいな。フリットウィック先生に聞けたらいいんだけど……こんな呪文、怪しまれちゃうよね。

 不意に落ちてきた影が杖の動きを指し示した図を覆う。

「『失神の呪文』?」
「使えたらなにかと便利そうじゃない?」
「そうかなぁ……。ここ、いい?」

 どうぞと笑えばハリーは向かいの席に腰を下ろした。いまいち賛同を得られなかった、残念。まぁ確かに、今はまだヴォルデモートが完全復活してるわけでもないもんね。いやそれを踏まえると今の私すこぶる物騒なこと言ったな……。誤魔化すためにページを捲って他の呪文をみていく。

 ハリーはなんの本も持っていないようだった。課題をやりにきたというわけではなさそうだ。そわそわとした視線を感じる。

「もしかして私になにか用?」
「アーうん、実はね。この前のクィディッチのことなんだけど」

 だされた話題にぎくりとする。ハリーは私のパトローナスを見たのかもしれない。でも彼はあれが私のだって知らないはずだ。きっとバレてもない、はず。隠している後ろめたさに呪文集から目が離せなくなる。

「雷が落ちる直前まで吸魂鬼の……というより僕の周りにずっと銀色に光るフクロウが飛んでたんだ」
「へ、へぇ……」
「フクロウがいる間、全然吸魂鬼の影響を受けなくて」
「そう……」
「それで、ルーピンに聞いたら『それはきっとエレナのパトローナスだろう』って」
「すみませんでした!!」

 しらばっくれようとしたけど無駄だった。バレてると分かり即座に謝って机にぶつける勢いで頭を下げる。人間諦めと潔さが肝心。
 ルーピン先生なんで教えちゃうの……。いやそりゃ教師なんだから質問されたら答えられることは答えるよね。あんだけ汽車内で元気溌剌に吸魂鬼をつつきまわしてたパトローナスを、まさか秘密にしたがってたなんて到底思うまい。内緒にしてとかってお願いも特にしなかったし。全てにおいて私が悪いです。私とフクロウ。

「ど、どうして謝るの?」
「セドリックもハリーも怪我しちゃったし、箒だって……」
「そんな、どれもきみのせいじゃないだろ」

 そうだろうか。私がちゃんとパトローナスを維持できていれば。雷なんかに怯まなければ。もっと強いパトローナスをだせていれば。そんな後悔が浮かんでやまない。勝敗に左右していたかは分からないけど、しかし少なくともハリーは怪我をしなかっただろうし箒も壊れなかっただろう。

 考え込む私に、ハリーは困り顔で「僕、お礼がしたくて」と言った。

「だってきみのお陰で吸魂鬼が近くにいても平気だったんだ」
「そんなことは……」

 否定しようとしたが、不可解そうに首を傾げられて閉口する。そりゃ多少は力になれたかもしれないけど。結果は散々だっただろう。お礼をいわれるようなことは何も出来ていないのに。

「ありがとう、エレナ」
「……どういたしまして」

 釈然としない気持ちになりながらも、ハリーのお礼をこれ以上無下にはできず曖昧に笑った。

「あ、それで休み明けからルーピンと守護霊の練習するんだけど、エレナもアドバイスとかしてくれないかな」
「うわ、それ私に頼むの?」
「え?」
「いやいいけどさ……あんまり期待しないでね」

 私のアドバイスなんて、叔父さんの教え方よりきっと酷いに決まってるんだから。




 二回目の学期最後のホグズミード行きの日が決まり、談話室内は浮き足立っていた。なんたってクリスマス休暇直前だ。私は悩みながらネビルの袖を引く。

「ねぇ、一緒に行かない?」
「え? でも……。……いいよ、もちろん!」

 ネビルは一瞬困惑した顔で口を開いたが、すぐに頷いてくれた。何も聞かない彼の優しさにホッと胸を撫で下ろした。


 “あの日”以降、ドラコとは話していない。



 そうして訪れた週末。キラキラしたハニーデュークスの店内に瞬きを繰り返す私に、ネビルがにっこりとした。

「わ、黒胡椒キャンディだって。ネビル食べてみてよ」
「これものすごく辛いやつじゃないか。イヤだよ、僕……あ、こっちのキャンディーおすすめだよ!」

 ニコニコと「僕これ好きなんだ」と言って鮮やかな赤色のペロペロキャンディーを二本買うと、そのうち一つを私に渡す。この飴、どこかで見た気がする……。ネビルが嬉しそうに大きく口を開けた。その途端、飴は彼の手からヒョイと逃げだし店の外へとひとりでに飛び出して行ってしまった。

 映画で見た光景だ。既視感の正体はこれだなと納得する。
 今のはきっと透明マントを被ったハリーだ。忍びの地図を使って店の地下から来たんだろう。じゃあこの後シリウスについて知るのか。そろそろスキャバーズ対策に本腰を入れなきゃいけなさそうだ。

「え……?」
「……私のやつ食べていいよ」

 でもそれにしたってなんであんな悪戯を……。訳が分からず呆然とするネビルに貰ったばかりの飴を差し出した。

「……あ、羽根ペン売ってるお店とかあるのかな?」
「あるよ、この前見たんだ。後で行ってみようか」


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「それじゃあ、休暇明けにまたね」
「うん、良いクリスマスを」

 帰省する生徒たちに紛れたネビルを見送って、寮へ戻る。談話室にはロンとハーマイオニーが不安そうな表情でなにかを話し合っていた。私の姿にぴたりと口を止める。
 そっか、ハリー昨日聞いちゃったんだった。二人は彼をどう落ち着かせるか話してたんだろう。復讐に燃えてるんだろうなハリー……。二人にはぜひ頑張ってほしい。私は関わらんとこ、気まずいし。部屋に戻って二度寝でもしようかな。

「エレナも残ってたんだ!」
「まぁね。邪魔しちゃったよね、ごめん。もう部屋に戻るから」
「そんなこと! チェスでもしようって話してただけよ。……そうだわ、エレナも一緒にどう?」
「え゛っ」
「……あっそうだね、やろう!」

 ハーマイオニーの提案に名案だ、とロンまでもが乗っかってくる。予想外の引き留めに硬直した。なぜ?! ……あっ私がいたらシリウスの話題だせないからか! でも絶対空気悪いでしょ目の前でピリピリされるのやだよ私!

「いや私その、……課題、課題やらなきゃと思ってて!」

 苦し紛れにそれっぽく聞こえる言い訳をする。ロンがうげーと口を歪めた。「休暇初日だぜ!?」信じられないと声をあげる。ハーマイオニーの瞳がキラリと光った。

「あら、それはいい考えね。私もやらなきゃいけない宿題が沢山あるんだったわ」

 そう言って彼女は女子寮へ走っていく。扉を開ける直前に「ロン、貴方も持ってきなさい」と釘をさして部屋の中へ入る。ロンからの恨みがましい視線が突き刺さった。

「君のせいだぞ」
「痛み分けということで……」
 

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