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ハグリッドの小屋に行き彼を慰めたり、図書館でヒッポグリフの判決について調べたり。そうやってロンとハーマイオニーに引っ張られる形でハリー達三人と休暇を共に過ごしながら、クリスマスの朝を迎えた。
「メリークリスマス、ハーマイオニー!」
「メリークリスマス! クリスマスを一緒に過ごせて嬉しいわ」
プレゼントを交換しながら、ハーマイオニーは少し照れくさそうにしながらにっこりはにかんだ。学年一の才女がこんなに可愛い。愛……。
「ハリー達にも渡してくるわ」
「いってらっしゃーい」
ヒラヒラと手を振ってから、ベッドの足元を覗く。まだ三年目だが、叔父さんからのプレゼントは毎年の楽しみになりつつある。今年はどんな便利グッズが貰えるんだろう。包みの中身は細いリングだ。手首に嵌るくらいの大きさってことはバングルかな? えっあの叔父さんがこんなシンプルなアクセサリーをくれるの? 絶対ダウトでしょ……。
不審に思いながらメッセージカードを読む。忙しかったのか、その文字はひどく斜めな走り書きだった。
【伸縮自在のリングだ。ブラックを捕まえたらこれで捕縛しなさい。働き詰めの叔父の仕事を減らすと思って。頼んだ】
「本気で言ってる??」
素の声がでた。職務放棄、いやそれ以前に学生になんてことを。しかもつい半年近く前に魔力暴走させたばかりの子どもに。冗談にしてもどうなん。相当疲れてるのかな。綿あめ羽根ペンあと五本くらい追加で送ってあげたほうがいいかな……。
だけどこれは正直ものすごく助かる。スキャバーズ捕獲グッズ、ゾンコのお店でそれっぽいものは買えたけどいまいち不安だったのだ。仮にも闇祓いがくれた品だしこっちをうまく使えたらいいな。
「(あ……)」
それは贈り物の山に隠れるようにひっそりとあった。ミントグリーンの小さなボックスだ。檸檬色のリボンを引っ張り蓋を開けた。小さなメッセージカードと花のピアスが入っている。カードには手描きのイラストが1つあるだけだった。どこにも宛名はない。しかし宛名がなくたってこれが“いつもの人”からだと分かる。
カードに描かれていたのはトラックだった。紙の上に立体となって浮き上がったトラックはぷるぷると震えたあとパッと破裂して色鮮やかなシャボン玉を幾つも噴出させた。頬が緩む。最初イラストをみたときはボガートを思い出して複雑だったけど……。こんなトラックならもう全然怖くない。我ながら単純だ。
ピアスを手に取る。例年のごとくムネモリアの花を模しているようだ。でもピアスか〜……。前世でもピアスホールは開けてなかった。だってなんか怖いし。でもせっかく貰ったしこれを機に開けちゃおうかな。ピアスホール専用の魔法具とかあるのかな、痛みをまったく感じません、的なやつ。鏡を前に、ここら辺かなとピアスを耳にあてながら考える。その瞬間耳元でバチンという音がした。そして耳朶を挟む圧迫感。
「えっえっなに?!」
「あなたまでなにを騒いでるの?」
「はははははハーマイオニー耳が!! 私の耳どうなってる?!」
「あなたの耳?」
扉を開けるなり、つんけんした声で咎められる。あんなご機嫌で出て行ったのにどうしたの、いやごめんそれよりちょっとこっちも今緊急事態なんだよね!
彼女は訝しげにしながらクルックシャンクスをベッドにおろすと、私の耳をみてくれる。
「痛い?」
「痛くはない……」
ただ突然だったからめちゃくちゃパニックにはなった。ハーマイオニーは念入りに調べたあと、「なんともなってないわ」と告げた。
「これ、魔法でくっついてるのよ。ピアスホールがなくてもピアスが使えるように」
「マグネットピアス[魔法界ver]ってこと……?」
「そんなようなもの。若い魔女の間で流行ってるみたいよ。ところでこれも“いつもの人”?」
「うん、多分そう」
ハーマイオニーは置いてあったカードを手に取ってしげしげと眺めた。私は返事をしながら開封しっぱなしで放っていた床を片付けていく。クルックシャンクスがリボンをガジガジと引っ掻いていた。遊び終わったらちゃんとゴミ箱に捨ててくれるかな。頭いいしお願いしたらやってくれそう……。
「クルックシャンクス〜遊んでいいからそれあとで捨てといてね」
「なぁお」
「これでまた一つハッキリしたわね」
「え、なにが」
「この人が同学年だってことよ」
あ、やっぱりそう思う?
完全に『ボガートなんて怖くないよ』っていうメッセージだもんねこれ。優しい、いい人だ。前ドラコが知ってたから噂になってるのかと思ったけど別にそんなこともなかったし。それにボガートをやるのは三年生だけらしいから。
しかしそうなると、ドラコは本当に私が倒れたことを誰から聞いたんだろう。いやそれを言うならカードの人もなんだけど。三年生では広まってるってこと? それはそれで恥だ。つら。
「でもなぜ名乗らないのかしら」
「照れ屋さんとか?」
「……宛名のないプレゼントなんて危険だわ」
「これに限っては“ない”ことが“ある”みたいなものだと思うな」
ネビルのお祖母さんからのケーキを食べながら答える。なおいい募ろうとする彼女の口にも1切れ突っ込むと睨まれてしまった。
「美味しいでしょ!」
「……美味しいけど」
ひとつ咀嚼する度、彼女の強ばっていた顔はやんわりと溶けていった。食べ終わる頃には落ち着いたようで、「ハリーに」と静かに語りだす。
「ファイアボルトが届いたの。それも無名で」
「それって凄い箒なんだよね」
「現存する箒の最高峰だそうよ。……ねえ、おかしいと思わない?」
「シリウス・ブラックが送ったのかもって?」
ハーマイオニーはこくんと頷き、そして俯いた。その手はクルックシャンクスを撫でている。
「……マクゴナガル先生にお伝えするべきだと思うの」
「そうだね、あとで一緒に行こう」
肯定されると思っていなかったのか、ハーマイオニーは驚いて顔をあげた。不安そうに目が揺れている。そんな彼女を安心させるように微笑んだ。
「ただ、約束してほしいことがあるの」
「これが、そうなのですね」
昼食後、談話室にやってきたマクゴナガル先生は、ハリーの持つファイアボルトを見てきゅっと眉を顰めた。ハリーとロンは座り込んだままポカンと先生を見上げている。
「彼女たちがたったいま、知らせてくれました。ポッター、あなたに箒が送られてきたそうですね」
ハリーとロンが同時にこちらを見た。ハーマイオニーはパッと顔を背けたが、その顔はあっという間にじわじわと赤くなっていく。そんな彼女の背中をちょっとさすってから、寝室の方向へとそっと押す。彼女は少し戸惑って振り返ったが、私が笑顔で頷いたのでおずおずと談話室をあとにした。
先生は箒を上から下まで慎重に調べあげ、ハリーにいくつかの質問をしたあと、彼を真っ直ぐ見据えた。
「さてポッター。これを預からせてもらいますよ」
「な──なんですって?」
ハリーの声が上擦った。彼の動揺を全く気にせず、マクゴナガル先生は「呪いがかけられているかどうか調べる必要があります」と説明した。
「専門の先生方に頼んでこれを分解して──」
「分解?」
有り得ない、とロンがオウム返しにした。その横でハリーも死刑宣告を受けたかのように顔を真っ白にしている。
「この箒はどこも変じゃありません!」
「飛んでみないことには分からないでしょう。この箒が変にいじられていないかがハッキリするまでは、これで飛ぶことなど論外です。今後の成り行きについてはちゃんと知らせます 」
厳格な顔を崩さずマクゴナガル先生はそう言ってファイアボルトを持って出ていく。肖像画が閉まったのを確認してから、私は近くの椅子に腰をかけた。誰も喋らない中、最初に口火を切ったのはロンだった。
「いったい君たちはなんの恨みで、マクゴナガルに言いつけたんだ?」
「シリウス・ブラックが送ってきたと思ったから、“私”が先生に伝えたの」
予想外の理由だったからか、ロンは少したじろいだ。しかしすぐに調子を立て直して「どうやったらこの箒をブラックが送ったなんて考えがでてくるのさ」となおも食ってかかった。
ハリーはやってられない、というように音を立てて暖炉前のソファに座った。パチパチと炎が弾ける音をロンのがなり声がかき消していく。
「魔法界中がアイツを警戒してるこのご時世にのこのこダイアゴン横丁にやってきて買い物した、だなんて馬鹿馬鹿しいこと本気で思ってるのかい?」
「本人が直接買いに行っただなんて思ってないよ。誰かに頼んだのかもしれないじゃない」
「あんな殺人鬼に誰が協力するっていうんだ!」
「魔法を使えば誰だって協力してくれるよ」
話にならない、とロンはイライラと頭を掻き毟ってぐしゃぐしゃにした。
「ちょっと厳重にメンテナンスをするだけだよ」
「『ちょっと』?! ちょっとどころじゃない、バラバラの分解だ!」
「……なにがそんなに気に食わないのか分からない。本当になにもなければちゃんと返ってくるのに」
宥めようと思って紡いだ言葉は逆効果だったようだ。睨む視線に含まれた剣呑さが増した。あまりにもロンが落ち着かないので思わず本音がこぼれてしまった。私がそう言った途端、遂にハリーが立ち上がる。緑の瞳が怒りで燃えていた。
「僕、今すぐ箒が必要なんだ! 次の試合に向けて練習だってしなくちゃいけないのに!」
「ブラックもきっとそう思ったんだろうね」
だからこそまだスキャバーズを仕留めていないのにこんなものを送ってきたんだろう。親友がチームメイトだったのだから、練習の重要さは充分理解しているだろう。それでいてもたってもいられなくなったに違いない。長い間会えてなかった大事な息子分だもんね。出来ることがあるならすぐさましてあげたいよね。気持ちは分かる。まあ正直自分が脱獄したてほやほやの逃走犯だって自覚はおありですか? とは思うけど。もっと全力で隠密しなさいよ軽率キングめ。
ハリーは放っていた高級箒磨きを乱暴に掴んで無言のまま寝室に入っていった。ロンも最後に私をひと睨みしてからそれに続く。バタンという大きな音にほんの僅かに後悔した。
「はー、疲れた……」
脱力して机にべたりと顔を伏せる。もう少し諭す路線で話せばよかったかも。無駄に煽っちゃった。
とりあえず明日からは談話室にはいれないだろう。図書館で調べ物でもしようかしら……。
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