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シリウスと膝を突き合わせてお話をする。
これを実現させるためには、やはりスキャバーズに関してのあれやこれやをなんとかしなければならない。
あの人の──もといあのネズミの偽装工作が具体的にいつ行われるのか、実のところはっきり覚えていない。ここらへんの時期にこんなような事件あった気がするな〜……? というあやふや具合で作られたのが私の記憶メモだ。なので実は実は虫食いもいいとこの穴抜け具合だったりするんですね。一年の頃はめちゃくちゃ頑張って細かいところまで書いたりできてたけど。学年が上がるにつれてあれこれ読んでもそんなに意味ないのでは……? って出来になっている。世知辛いね。
そもそもこの世界がハリポタだって知ったときには生まれてからもう十一年も経ってたし。読んでから数年、とかならもう少し詳しく覚えていられたかもだが十一年はちょっと。さすがに無茶。はいここまで言い訳。
兎にも角にも。
記憶が曖昧な分、推測推量で補う必要があるのだ。
もし私がスキャバーズ、ピーターだったら……私がピーターだったら?! なんか嫌だなこの仮定。いやそんなこと言ってる場合じゃなかった。私がピーターなら、偽装工作を決行するなら寮に人が少ないときだ。万全を期せるなら学内全体に気を配りたい。学校が伽藍堂になる日。例えばホグズミードの日やクィディッチの試合日……試験の日なんかもいいかもしれない。でも確か期末試験よりは前だった気がするのでここは二択だ。
この二つから選ぶならば、クィディッチの試合日だ。
ホグズミードの日は普段よりかは生徒は少ないけれどその分出入りが激しめだし、一,二年生は確定で校舎内にいる。
比べてクィディッチの日は生徒のほぼ全員がピッチにいるし教職員だって殆ど揃って観戦している。あのアルバス・ダンブルドアでさえも、一時ではあるが視線をグラウンドへと集中させる日だ。この日以外に最適な日はないし暫定的に決定でいいだろう。私だったら絶対この日に決行するし。次のクィディッチ戦はグリフィンドールVSレイブンクローで二月だっけ……この試合は見に行けないかな。
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一月はあっという間に過ぎ去り、週に一度、魔法史の教室で行うルーピン先生とハリーとで行う守護霊の授業も今日でもう四回目だ。
ルーピン先生から吸魂鬼のキスについて聞いたばかりの私達は押し黙って歩いていた。
シリウスは脱獄したせいで刑が重くなったのでキスをされそうになった。それなら、十二年逃げ果せたピーターはキスを執行されるのだろうか。そんな疑問が頭の中でぐるぐる回る。今学期のグリフィンドールの試合日がもう今週の土曜日に迫っていた。捕まえることが出来たらどうしようか。ダンブルドア先生に引き渡す?
「二人とも、何故そんなに暗い顔をしているのです?」
怪訝そうな声に顔を上げる。マクゴナガル先生がすぐ目の前に立っていた。先生はハリーを見て笑みを浮かべた。その手には何かを持っている。見覚えのある、素晴らしい箒だ。ハリーが目を輝かせた。私も内心でホッと息を吐く。よかった、これでロンと以前のように気兼ねなく話せるようになる。ハリーが取り成してかれたみたいでそんなに風当たりは強くなくなったけど……それでもまだ気にしてますよオーラばしばしだったし。
そういえばたしかハリーがロンにこの箒を試乗させてあげた理由って慰めるためだったっけ。……慰めるって、なんでだっけ。心臓が嫌な音を立てた。この時期のロンが落ち込む理由なんて──。
先生と少しなにか喋ったあと、夢を見ているかのような笑みでそれを受け取ったハリーはものすごい勢いで走り去っていく。立ち尽くす私にマクゴナガル先生が声をかけた。
「どうかしたのですか、ワイアット?」
声につられて先生を見れば、先生は「まあ!」と目を大きく見開く。そして心配そうに眉を下げた。
「酷い顔色ですよ、あなた。早く寮に戻ってお休みなさい」
『人が少ない』ときがいい?
「(なんて馬鹿なことを)」
ホグズミードもクィディッチも関係ない。だって彼にとっては"その日"はいつだっていいのだ。あのネズミは、あの人は、周りに大勢マグルがいたのに“それ”をやってのけたのだから。どうしてそんなことを忘れていたのか。
「斯様な焦燥をみせるとは何事なるか、うら若き──」
「オヅボディキンス!」
「嗚呼! なんたる無礼極まりない──」
廊下を走って、階段を駆け登り、角を曲がり、カドガン卿の声を遮り合言葉を叫ぶ。キーキー叫ぶ声を無視して開いた穴に飛び込んだ。
「見ろよ!」
ロンがハーマイオニーに詰め寄ってベッドのシーツを見せつけていた。この距離からでも見える、転々とした赤黒いそれは、
「血だ! スキャバーズがいなくなった! そして、床に──」
言葉と共に、ロンは机の上になにかを投げ付ける。
それがオレンジ色の猫の毛だろうというのは近付かなくても分かっていた。
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「エレナ、本当に大丈夫?」
「平気だから、気にしないで」
「でも……」
「本当に寝てれば大丈夫だから。ほら、もう試合始まっちゃうよ」
心配する声に、無作法とは思いながらも布団に潜り込んだまま答える。それでもなおハーマイオニーは心配してくれていたが、「試合が終わったらすぐ戻るから」という言葉を残してガチャンと扉を閉めた。
暗闇の中、きっかり一分数えてから布団を跳ね除けて起き上がる。
「クルックシャンクス!」
どうせ誰もいないんだから、と寝巻きのまま寮内を叫んで回る。彼女は談話室の暖炉の前で寝転がっていた。『なんだうるさいな』というかのように胡乱げな眼差しをしている。私が近付くと体勢を変えていつでも逃げれる姿勢になった。目を合わせながら警戒させないようにゆっくり座る。
「ネビルのメモ、持ってるよね」
「……」
「それ、返してほしいの」
当然返事はない。というか伝わっている気配もない。シリウスが彼女と心を通わせられたのは犬に変身してたから? もしかして人間の言葉は分からないのかな? でもバックビークはドラコの暴言をきちんと理解できてたみたいだし……。一縷の望みにかけてもう一度話しかける。
「お願い」
「……」
ネビルのメモが返ってくれば、ネビルがホグズミード行きを禁止されることも、ロンがシリウスに襲われかけるということもなくなる。でもこれらは絶対回避させる必要があるかといわれたらそれはノーだ。どちらも一過性のもので、最終的な結果に大きな影響はない。
だから私のしていることに意味はない。だがそれはシリウスにも言えることのはずだ。なぜならば。
「スキャバーズはもうこの寮にはいないはずだよ」
クルックシャンクスはそこで初めて私の言葉に反応する素振りをみせた。大きい目をぎょろぎょろさせて私を見つめる。正直真偽は定かではない。でも少なくとも談話室にはいないはずだ。いたらクルックシャンクスがこんなに大人しくしているはずもない。
「あのネズミは、ついこの前あなたの毛を使って死んだフリをした」
いないだろうと思いつつも自然と声が小さくなった。内緒話をするように囁き声で話す。
「少なくともロンの傍にはもういないの。だからネビルのメモを返してほしい。……それから、ここに忍び込むのはもうなんの意味もないことだって伝えてほしい」
誰に、とは言わなかったがクルックシャンクスは身体を起こして低い声で鳴いた。警告しているように聞こえる。毛も逆立っている気がして、私、あなたのご主人様の友達なのにな、と笑いたくなった。
あなたのご主人様は親友と絶縁しかけてるのに。それでもあなたはまだシリウスに味方できるんだね。
彼女はハーマイオニーが好きじゃないのだろうか、と一瞬考えたがすぐにそれを否と打ち消す。
「あなたはどうするのが正しいかちゃんと考えられるんだね」
ピーターは殺人鬼だ。そんな人間を野放しにしてはいけないと、シリウスに協力してるわけだ。元を正せば人間同士の問題なのに。ロンに蹴り飛ばされそうになりながら。何回も邪険にされながら。そう考えると、ご主人様とよく似ている。
いいなぁ、と口が勝手に動いた。
思慮深くて聡明。羨ましい。なんだか力が抜けてきてので、その場にごろんと寝転んだ。
「私はろくな事を考えられないよ」
偉そうに推測した結果が大ハズレって、それ一体どんなギャグだろうね。全然面白くないね。もう嫌になっちゃう。
クルックシャンクスは自己嫌悪に浸る私を、珍妙なものを見るように訝しそうにして尻尾をパタパタと揺らした。
「ハリー、大丈夫かな……」
ダンブルドア先生が前回の吸魂鬼凸イベにキレ散らかしてたし奴らももう軽率に邪魔しに来れないはずだけど。でもそれとは別で、ハリー新しい箒で調子に乗って普通に怪我とかしそうで怖いよ……。
暖炉に燃え盛る炎をぼんやり眺めながらゆっくりと瞬きをおとす。視界の隅でふわふわしたオレンジ色がのそりと動き、やがて見えなくなった。
「エレナ、起きて……起きてちょうだい」
ハーマイオニーだ、と目を開ければ彼女はホッとしていた。起き上がると、少し怒ったように目を細める。
「どうしてこんなところで寝ていたの?」
「ちょっとウトウトしちゃって。寝るつもりはなかったんだけど……試合は?」
「二三〇対三〇でグリフィンドールが勝ったわ。マルフォイ達が吸魂鬼のフリをしてハリーにちょっかいを、……それなに?」
ハーマイオニーが何かに気付いて言葉を止めた。彼女の視線の先は私の手だった。そのときやっと自分がなにかを握っていたことに私も気付く。……なんか今マルフォイ達がとか聞こえたけど気がするけど気のせいだよね。ていうか点差えぐ。そんなことを思いつつ手を開く。
「これ──」
「ネビルのメモよね。失くしたっていってたやつ」
手の中を覗き込んだハーマイオニーが「どうしてあなたが持ってるの?」と尋ねる。言葉がでないまま、合言葉が連ねられた紙を見つめる。そしてやっとのことで声を絞り出した。
「慈悲かな」
「え?」
「なんでもない、たまたま見つけたの。それより、クルックシャンクスの好きな食べ物ってなんだろう」
私の質問にハーマイオニーはわけがわからないという顔をしながら、「チョコレート以外ならなんでも好きよ」と律儀に答えた。
その夜は晴れやかな勝利の余韻を残して粛々と明けていった。
誰一人として悲鳴を上げることはなく、ただ穏やかに、全員がいつも通りの朝を迎えた。
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