22



 クィディッチでグリフィンドールが華々しい優勝を飾ったあとは六月の期末試験まであっという間だった。なおイースター休暇は大量の課題によって忙殺された。イースター休暇とかいて課題地獄と読む。これテストにでるので覚えておきましょうね。


 ハシゴを降りて占い学の教室からでていく。受験者は私で最後だったので、教室の外にはもう誰も残っていなかった。

 螺旋階段を降りながら中庭を眺めれば、試験から解放された生徒たちがはしゃいでいるのが見える。あの花火、前に双子が作ってたやつかな。あんなにたくさん飛ばしたら危ないんじゃ、あっ向こうからスネイプ先生が、あっ……暴発した花火たちが黒い蝙蝠に飛び掛る直前に窓から顔を逸らした。見なかったことにしよ。


 試験課題だった水晶玉は相変わらずなにも見えなかった。でも何も言わないわけにもいかないし、とボガートのことを思い出しながらふえぇトラックみたいなもの怖いよぉってしてみたらトレローニー先生も「酷な思いをさせてしまいましたわね」って言って早々と解放してくれたのでなんとかなった気がする。視線が優しすぎて罪悪感抱いちゃったよね。きっと根はいい人なのだろう。悲観的な予言ばかりしようとする所さえなければ……。

 大広間を横切る際、一瞬寮の砂時計を確認すればスリザリンを除いた寮のポイントが全体的に分かりやすく減っていた。花火で遊んでた人達結構いたもんな……。生徒たちを叱る、地を這うような低い声を背にして中庭を抜けていく。


 向かうはハグリッドの小屋だ。



 小屋の戸を叩くとすぐに笑顔のハグリッドが姿を現す。そんな彼の大きな体の後ろから、ちょうど遊びに来ていたらしい三つの頭がひょっこりと顔を覗かせた。不思議そうな彼らを伴うハグリッドについてカボチャ畑へでると、私はバックビークに向かい合った。

「挨拶の練習?」
「そう。たまにハグリッドに見てもらってたの」

 挨拶を返してもらえたことは未だにないが、ウザそうに目を逸らされる回数は減った。ただ今度は見つめ合う時間が長すぎて私の方が先に根を上げてしまうんだよな……。ドライアイになりそう。そんなことを考えてたせいか、瞬きを数度続けて繰り返してしまった。

「あー……またダメだった」
「あと少しな感じもするね」
「そのあと少しがなぁ……」

 お辞儀が返される頃にはほんとにドライアイになってそうだ。滲んだ涙を袖で拭う。

「最初に比べたらかなり進歩しとる。そう気を落とすこたねぇ、なんせ練習する機会はこの先まだまだある」
「……そうだね」

 ハグリッドは嬉しそうにバックビークの翼を撫でる。なにがどう作用してルシウス・マルフォイが引き下がったのかは分からないけど……今回はラッキーだったと思うことにしておこう。

「そうだ、聞いてよハグリッド。ハーマイオニーったらトレローニーに喧嘩売ったんだぜ」
「そんなことしてないわ、ただ事実を言っただけよ!」
「トレローニー先生……ああ、占い学か。確かに、ハーマイオニーにはちと合わんかもな」
「合わないってどっちが? 占い学? それとも先生?」

 答えづらそうに視線をさ迷わせたハグリッドを笑っていれば、ハリーが「そういえば」と思い出したように私を見る。

「エレナってマルフォイと話したことあるの?」
「え? そりゃ、まあ。話したことくらいは……」
「へえ、いつ?」
「魔法薬学でテーブル被ったときとか」

 友達だったと言ったらきっといい顔はしないだろうな。特に彼らは。そう思って曖昧な言葉で濁す。なんとなく気まずくて、ハリーたちの視線から逃げるようにバックビークの方へ顔を向けた。

「ああ、あの時の。怒ってたやつな」
「よく覚えてるねロン」
「そりゃそうさ。だって君、相当おっかなかったぜ。ニコニコしてさ」
「ニコニコしてるなら怖くなくない?」
「何言ってるんだよ怖いに決まってるだろ!」
「今すぐニコニコしてもいいんだよロン」

 バックビークと見つめ合ってる途中だから実際にはしないけど。それでもロンには十分効いたらしく小さな悲鳴が聞こえた。
 確かにあの時はちょっとイライラしてたけど、そんなにいうほど怖かったかな……。

「ピクシーに『挽肉にするぞ』って脅した時と同じくらい怖かった、怖い」
「いやそんなかな?? あと現在進行形で怖がらないでよ」

 そもそもそんなこと言った覚え、あ、言ったな去年。
 ていうかロンはなんでそんなこと覚えてるんだ。忘れてよ。もしかしてロンから見た私って怖いイメージばっかりなの……? ロンに優しくする週間でも作ろうかな。でもそれはそれでまた怖がられそうだ、やめよう。

「……エレナがマルフォイに怒ってたの?」
「いや、マルフォイは確か関係なくて……なんか誰かが約束破ったとか、だっけ?」
「あー、ウン。そんな感じだよ」
「そう……」

 納得したのかしてないのか、ハーマイオニーの声はどこかはっきりしない。ずっと黙っていたハリーが小さく呟いた。

「……やっぱりそのくらいだよね、きみたちの接点って」

 咄嗟に瞬きをしそうになったので慌ててぎゅっと目に力を込めた。アンブルの瞳より深みのある橙色が静かに揺らめく。彼が纏う空気が変わった気がした。

「去年さ、きみが石になってる時マルフォイと話す機会があったんだ。それでその時──」
「待って」

 小さな早口でハリーの声を止めた。しんとした沈黙がひろがる。辺りを飛んでいたカラスでさえも動きを止めたようだった。
 不意にバックビークが後ろ足をゆっくり後退させた。身体を低くし、そして頭を──

「スキャバーズ!!」
 

- 56 -
 ←前 次→
 back
 >>HOME