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「それで?」
振り返った叔父さんは、私をじろりと睨んだ。こんなに怒ってる叔父さんは初めて見る。
「それで、一体どうしてお前はこんな所にいるんだ」
「えっと……迷っちゃって」
「明らかに人の波とは逆方向だろう、ここは……」
叔父さんは自分の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に掻き混ぜた。たまに見る仕草だ。イラついたときの癖なのかも。だから髪の毛薄いんじゃないかな……「聞いているのか」余計な考えを察知したのか厳しい声が飛んできた。今のは私が悪かったです。ごめん。
「叔父さんこそどうしてここに? なんで私の場所が分かったの?」
「お前のチケットに魔法をかけてある。何処にいるか分かる呪文だ」
「……GPS?」
「に似たようなものだな」
な、なにそれこわぁ。いや今回は助かったけど……。そのうち知らない間に魔具とか埋められそう。叔父さんって意外と過保護なんだな。放任主義かと思ってた。あとGPSが通じるとは思わなかった。闇祓いになるとマグル文化にも詳しくなるのかな。
「呪文は当たってないな? 何かされてないか?」
「なんにもないよ、大丈夫」
それを聞いてやっと気が抜けたのか、叔父さんが大きなため息を吐いて私の頭を撫でた。挙げるとするなら例の蔑称使われたことくらいけど……顔も知らない人に言われても特に気にならなかったしノーカンだろう。
「会場に死喰い人が現れたと聞いて急いで確認したらお前は一人ふらふらとどこかへ離れていくし。どれだけ肝が冷えたと……」
「ごめんなさい……」
「死喰い人が現れた時なんかに単独行動をするのはやめろ。どんなに危険なことか、お前なら分かっていただろうに……」
「……え? どうして私なら分かるの? 死喰い人を見たのなんて初めてだよ」
当たり前のように言われて一瞬頷きかけたが、その内容に首を捻った。一度瞬きをした後、叔父さんは「お前はネビルの友達なんだろう?」と告げた。それはそうだけど、それがなに……?
「だからそれなら……、……まさか聞いてないのか?」
「な、なにを」
「ネビルの親のことだよ」
「(ああ、なるほど)」
言われて納得した。が、叔父さんに対しては首を横に振った。ネビルからご両親のことを聞いたことはない。
フランク・ロングボトムとアリス・ロングボトム。
ネビルの親であり優秀な闇祓いだった2人。彼らのことがネビルの口から話されたことは一度もない。
今日の昼間シリウスと話していたのもそれに関する内容だったんだろうなとシリウスたちと別れてから気付いた。話してる最中に突撃しなくてほんとよかったよね。止めてくれていたハリーたちに感謝だ。だってこれまで話されたことがないってことは私には聞かれたくないってことだろうし。
叔父さんはしまったというように表情を強ばらせていた。そんな顔しなくても、問い詰めて聞いたりはしないから安心してほしい。
「そうだ、早くネビル達のところに戻らないと」
「あ、ああ……そうだな……ってどこに行く気だエレナ」
「え、さっきこっち側から人の声したから」
「いやそっちじゃない、真反対だ」
「あれ、そうだっけ……えへ」
まじか。意図せずしてさっきの『迷子』の言い訳 を後押ししてしまった。いや〜うっかりうっかり! 笑って誤魔化せば呆れた顔をされる。戻る道中、私の肩は拘束するようにがっちりと掴まれていた。本当に迷子のような扱いをされてる。遺憾だ。もう十四歳なのに。実際の年齢を考えると尚更に遺憾。それに人と一緒だったら逸れたり迷ったりは流石にしないのに。……と思う。多分しない、はず。
「エレナッ!!」
「ヴアッ」
「私の監督不届きでした。手を離すだなんて……本当にごめんなさいエドガー」
「そんなことをするのはやめてくれ、貴女が謝る必要はないのだから。この子がぼんやりしていたのが悪い」
合流するなりネビルが飛び付いてきた。ぐ、首が締まる。苦しい。潰れたトレバーみたいな声がでた……緩めてもらおうとしたが、鼻をすする音が聞こえたので上げかけた腕はそのままネビルの背中へ回した。
その後ろでは彼のお祖母様が頭を下げている。謝罪の声が震えていた。叔父さんが顔を上げさせてフォローしながら、キッパリと断言した。責められてる……が、文句は言えない。その通りなので。ネビルの肩越しから私も彼女に謝った。
おもむろにネビルまでもが「ごめん」と涙混じりに呟いた。え、なんで?! ネビルが謝る理由なんてどこにもないのに!
「だって、すぐに追いかければよかった! 僕、最悪なことばっかり考えちゃって……もし君が死喰い人に捕まってたらって……」
「……心配かけてごめん」
「違う、僕が──」
「ごめんね」
彼が怖がっていた本当の理由がやっと理解できる。状況は全然違うけれど、ご両親と私を重ねてしまったのだろう。ネビルにこれ以上謝らせたくなくて遮るように言葉を続ければ、無言で腕の力が強くなった。
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両親からの連絡は特にないまま、ホグワーツへ向かう日が来た。叔父さんもワールドカップでの出来事は伝えなかったのだろう。うちの家が日刊予言者新聞を購読してなくてよかった。そう零すと、叔父さんはなにか物言いたげな顔をした。
だってもし母が死喰い人やら闇の印やらの存在を知ってしまったら。きっと魔法界との縁をなにがなんでも切ろうとしていたに違いないはずだ。ただでさえ転学リーチかかってるのに。
「ここ、いいかしら?」
「ハーマイオニー」
汽車が動き出してすぐ、コンパートメントの扉が開かれる。ハーマイオニーの後ろから顔を覗かせたロンが「もう他に空いてないんだ」と付け加えた。広げていた荷物を片付け、スペースを作る。私の隣にハーマイオニーが、ネビルの隣にロンとハリーが腰掛けた。成長期の男子三人が詰め込まれて少し窮屈そうだ。一人こっちに来たら、と言おうとしてむっつりと浮かない顔をしているハリーの様子に気付く。
「ハリーどうかしたの?」
「あ、おいバカやめろ」
「え?」
「……あのね」
私と同じく不思議に思ったのか、ネビルが声をかければロンが慌てて止めようとした。しかし制止の理由を聞く前にハリーが口を開く。ロンは「あーあ」と諦めたように首を振った。ハーマイオニーはトランクから本を取り出して無関係を装うように本の影にその顔を隠した。
「シリウスが」
「はい」
「駅まで来てくれなかった」
「……はい?」
理解が追いつかず間の抜けた返事をした私をハリーはキッと睨んだ。そしてぶすくれた表情で「だって!」と声を荒げる。
「あと三ヶ月は会えないのに!」
「ハリーってば、朝からずーっとこの調子さ」
「ああ、うん。熱々みたいでなによりだね」
「どうして来れなかったの?」
ロンとハーマイオニーの態度の意味が分かった。早くも恒例となっている“親子漫才”のようだ。ネビルが最もな疑問を投げかける。ハリーは不機嫌そうに首を振った。
「理由は知らないけど凄く忙しかったみたいで……早朝から出掛けて行っちゃった」
「仕事かなぁ?」
「シリウスって働いてたっけ?」
「さあ? そんな話聞いたことないけどな」
「だとしてもハリーに内緒にするのは変よ」
思い思いに好き勝手言ってる中、ハリーが自身の膝をどんと叩いた。
「『近いうちに会える』って言ってたけど、でも最短で三ヶ月、クリスマス休暇だよ?!」
「ええ、まだ言ってる……」
「ハリー……?」
「はいはいそうだな……あ、ねえエレナ、エドガーから何か聞いてないか? 今年学校である“なにか”についてさ」
付き合いたてで遠距離恋愛をし始めたカップルかな?? ホグワーツでの三ヶ月なんてあっという間じゃない。今までにないハリーの様子にネビルと二人困惑する。しかしロンは全く気にかけないで宥めるように適当な相槌をうっていた。この夏でもうすっかり慣れてしまったんだろう。
ロンは思い出したように口を開き、期待を込めてこちらを見つめた。私は静かに首を横に振る。
「なーんにも。仄めかしてはニヤニヤするばっかり」
「やっぱそうだよなぁ」
ロンはがっくりと肩を落とした。「規則が変わったとかドレスローブが必要とか……」意味が分からないとぶつぶつ文句を言っている。ドレスローブという言葉にハーマイオニーがぴくっと反応してロンを見た。しかし何も言わずにすぐ本へと視線戻した。
叔父さんからはなにも聞いてない。……が、実際は知ってる身としては少し顔がニヤけそうになる。いざこう、目の前に『気になって仕方ない』って様子の人がいたらこうも愉快になっちゃうものなのね。叔父さんたちの気持ちが分かっちゃうな。笑うのを我慢するために百味ビーンズに手をのばす。
「ハーマイオニー、度胸試ししない?」
「しないわ」
ハーマイオニーは上級呪文集から目を離さないままばっさり切り捨てた。また断られてしまった。毎回誘ってるのに一度ものってくれない。断られた回数、もうそろそろ三桁なるんじゃないか? 卒業するまでに一度くらいは……口に放り込んだグミを噛み締める。歯磨き粉味だった。
それにしても、シリウスの言ってた『近いうち』って本当にクリスマスの話なのかな。今年のクリスマスは殆どの生徒は帰省しないだろうって知ってそうなものだけど……もしかして対抗試合を観に来るつもり? でも保護者が試合観に来れるのって最終課題が特別だった気がするけど。流石に今年は息子分に会いに不法侵入はしな、……しないよね? 言い切れない上にやりかねないと思わせてしまうのがシリウスの残念なところだと思う。
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