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 他の代表選手たちにあって私にないものなんて数え切れないくらいある。それでも、私にだって他の誰にも真似することができない特異性はあった。

 それは自惚れでもなんでもなく、私の、私だけの“強み”といっていいものだろう。


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 第一課題もあと二日となった朝。
 談話室の肖像画を這い出るなり、横から腕を引っ張られる。私の腕を掴んだのはハリーだった。どうやら待ち伏せしていたようだ。その顔色は白く目の隈もひどい。眠れてないのかと少し心配になった。

「ドラゴンだ」
「え?」
「明後日の課題はドラゴンなんだ。一人に一頭」

 私がなにか声を出すよりも早く、ハリーは深刻さをもって囁いた。目を瞬かせる私に、彼は焦れったそうに言葉を少しつけ加えて、今度はもっと分かりやすくしてくれる。噛み砕かれた説明にやっと状況を飲み込むことができた。

「あ、うん」
「うんって」

 あっさり受け流した私の反応に、今度はハリーが目を丸くさせる。

「知ってたの?」
「知らなかった」
「うそだぁ……」

 疑う眼差しにほんとだよ、と笑う。うそだ、当然知っていた。でも本当なら知らなかった。初見の反応にしてはかなり変だったな、と少し反省する。朝だから気が抜けていた。

「そういうハリーはどこで知ったの?」
「それは──いや、それは気にしないで。偶然だから」

 突っ込んだ質問に、今度はハリーがちょっと困った顔をした。私の気を逸らすためか、「フラーやクラムもきっと知ってるはずだし」と早口で続ける。そんなこと言われたらなんで私だけハブられたん? って聞きたくなる。聞かないけどさ。

「そっか……ドラゴンって具体的にはなにすればいいの?」
「え? そこまでは分からないけど……でもとにかく出し抜けって」
「ふぅん……」

 ハリーは虚をつかれたような顔になった。答える声はどこか自信なさげに萎んでいく。あれ、これって卵のことまでは教えてもらってないんだっけ。まあ流石にそんな事細かには説明してもらえないか。
 勝手に納得した私とは反対に、ハリーは「確かに出し抜くってなんだろ」と小さく呟いた。余計なことを聞いたせいで混乱させちゃったみたいだ。顔色がさらに悪くなってきている。大丈夫かな、貧血で倒れちゃいそう。

「戦って勝てってことかな」
「多分そうだと思う……でも無理だよあんなの!」
「実際に見たんだ?」
「夢とかでね!」

 私の意地悪な追求をやけくそ気味に躱し、ハリーはそれよりもどうしようと頭を抱えだした。不意に後ろで扉が開く。

「あっ……」
「……じゃあ、とにかくそういうことだから」

 肖像画の裏から姿を現したロンは、私とハリーを見つけると小さく声を上げてその場で動きを止めた。肖像画の前でたたずんだまま、視線をキョロキョロと忙しなく動かして何か言いたそうにしている。だがハリーはそんなこと知るもんかと拒絶するようにロンから背を向けると、下へ続く階段の方へさっさと向かっていった。

「(あーあ、意地張っちゃってまあ……)」

 遠ざかるハリーの背中に、ロンは引き留めるように体を動かす。しかし結局、彼は上げかけた手を力なくおろすと重いため息をはいて項垂れた。なにこれ少女漫画? いや茶化しちゃだめだ。
 朝から落ち込むロンを前にどうしたものかと思案する。なんかもう仲直りはハリー次第みたいなところまできてるのかな。ハリーって結構頑固なとこあるもんね。……でもだからってこんな重い空気の中に私一人残していくことなくない??

「……えっと、おはようロン」
「ああ、うん……おはよう、エレナ」

 気まずい心地になりながらも、とりあえず挨拶をしてみた。すると思っていたよりもずっと普通に返事が返ってきてつい目を見張る。てっきりもっとこう、素っ気なくされるかと。
 ロンはぎこちなく笑いながら、「下まで一緒に行かないか?」と言った。意外な誘いにまた驚いたが、断る理由もないので頷いた。

「なんか久しぶり。だよね?」
「ほんとにね」

 歩きながら、ロンは軽い調子で言う。何気なく聞こえるように努めているようだった。それに合わせて私も同じように軽く同意する。実際本当に久しぶりだ。私は皆を避けていたし、ロンもハリーと私を避けていたから。

「代表選手になった気分はどうだい?」
「最低最悪だよ」

 誰にも言ったことのない本音がすんなりと零れた。そのことに自分でも驚く。ロンは言葉を詰まらせたが、すぐに「だろうね」と静かに返した。その声色には僻みでも同情でもなく、ただ純粋な理解だけが含まれている。

「分かるの?」
「そりゃあ少しくらいは。きみたち程じゃないけど」
「……ロンは今でも代表選手になりたいって思う?」
「……分からない。なりたいような、なりたくないような」

 私たちは息をひそめるようにひっそりと会話をした。夜更かしでもしたのか、今日の絵画たちは随分と寝坊助で、珍しく静かな朝だった。

「明後日だけどさ、あるのかい? なにか策とか」
「一応考えてはみてるよ」
「そっか。……ハリーもそうかな? ちゃんとなにか──?」

 ロンはやっぱりなんでもないことのように明るく話そうとしていた。しかし隠しきれない心配が声に滲んで揺れている。そういえば、たしかロンはドラゴンのこと知っていたような。

「ハリーなら大丈夫だよ、きっと」
「……そう、だよな。……うん、そうだよな」
「ハリーが心配?」

 ロンは一瞬黙って「どうかな」と小声で呟いて視線を落とす。自分の感情を整理するようにゆっくり考え込んだあと、彼は小さく笑った。穏やかな笑みだ。

「それはあんまりしてないかも」



 グリフィンドールの一番手前のテーブルにはハリーが座っていた。テーブルの上に本を何冊も広げ、顔を近付けて読み耽っている。ロンは小さく手を上げて私に別れを告げると、ハリーの後ろを通り過ぎて奥の離れた席へと腰掛けた。
 私もハリーの斜め前に座ってシリアルを取り分ける。すると本にべったりだったハリーが唐突に顔を上げ、何か言いたげに私を見た。なんならどことなく責めているような視線だった。素知らぬ顔をしていたくせに、一緒に入ってきたのはしっかり見ていたようだ。

「なに?」
「なんでもない」

 なんでもないことないでしょうが。ほんとになんでもなかったら恨みがましいその目はなんなの。

「……言っておくけど、ロンは別に私のことは応援してるとかそういうわけじゃないからね」
「へえ、そうなんだ」

 全然信じてないのが丸わかりな返事だった。このティーンは。呆れる私に気付いて、ハリーが「別に気にしてないけど」と顔を背ける。いや全くこのティーンはさぁ。

「あのね、ロンはむしろハリーを──」
「……僕を?」
「……やっぱ今のなし、忘れて」
「変なところで切らないでよ!」
「ごめん。でも気にしてないんでしょ」
「そ、れは、そうだけど……」

 ハリーは拗ねるように口を尖らせた。めちゃくちゃ気にしてるじゃん。あと一歩素直になれば仲直りできそうなものを……ハーマイオニーもさぞもどかしいことだろう。
 ハリーに向けてにっこり笑う。ハリーはなぜかぎくりと身をこわばらせた。

「教えないよ、自分で聞いたらいいじゃない」
「聞くって……」
「応援してくれるかどうか」
「……応援なんて、そんな、僕は別に……」

 ハリーは途端ごにょごにょとまごつきだした。『素直になればいいのに』って、もう今日朝から何回思ったことか。

「あ、ねえハリー、ドラゴンって炎を吐くよね?」
「そんなの当たり前じゃないか。どうして?」
「確認しただけ」
「きみ、なんでそんなに余裕なんだ?」
「余裕なわけないでしょ。失神の呪文とかって効くかな」
「それ、使ったらダメらしいよ」
「まじか。……誰から聞いたの?」
「シリウス」
「それは言うんだ……」

 一応先生方からの助言はルール違反ってことになってるんだけど。ハグリッドから聞いたことは隠すのにシリウスからの助言は隠さないのか。シリウスは身内だからハリーの中ではノーカンなのかな。
 そんな会話をしていれば入口からネビルがやってくるのが見えた。私はボウルの中身を手早くかきこんで立ち上がる。名前を呼んで声をかけると、ネビルはパッと顔を明るくさせて小走りで駆け寄ってきた。

「おはようエレナ!」
「おはよ。……あのさ、明後日のことなんだけど」
「うん、どうかしたの?」
「私、頑張るから、その──応援してくれたら嬉しいなって。……もちろん、いやなら全然いいんだけど」
「いやってどうしてさ? そんなの頼まれなくったってするに決まってるよ!」
「そ、そっか。……ありがとう」

 ネビルはきょとんと不思議そうに首を傾げる。それなりに緊張してたけど必要なかったみたいだ。安堵感で口元が緩む。しかしそれと同時に、少し擽ったい気持ちになった。


 大広間をでて足取り軽く廊下を進む。ここ数週間で一番晴れやかな気持ちだった。ネビルの応援もそうだし、ハリーがくれた情報もその気持ちを後押ししてくれている。


 『ドラゴン』『火を噴く』

 私の“強み”を活かす戦法はもう決まっていた。
 

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