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 全体的に締まりがなく、集中できない一日だった。

 グローブを忘れて遅刻したことが始まりだ。その後も移動教室を間違えたり、かぼちゃジュースを引っかけてしまったり、何もないところで転んだり。しかも挙句の果てに魔法薬学では失敗までしてしまった。もう減点されまくりだ。みんなは「課題が終わったから気が抜けてるんだろう」と言って笑ってくれたけれど。もちろんそんな理由じゃない。むしろそうであったほうがよかったのに。

──『四年前の夏にドラコ坊っちゃまのご命令で──』

 ぐだぐだな一日を過ごしてしまった理由はドビーから聞いたこの言葉にある。彼が何気なく呟いた発言は、私の中でそれはもう大きな悩みの種になっていた。

「(つまりこの栞はドラコからの贈り物ってこと?)」

 この仮説が正しいとなれば、もはや栞だけじゃない。図鑑も髪飾りもピアスもクリスマスカードも、これら全部がドラコからということになる。……えっなんで?

 去年ならまだ分かる。一応あのときはまだ友達だったから。微妙にすれ違ってはいたけど、それでも納得はできる。ただ一年と二年はおかしいだろう。だってなんの関わりもなかったはずだ。しかも栞に至っては入学前に作られたものらしいし。入学前に作ったものを入学後に知り合ったほぼ面識のないグリフィンドール生に渡す。……えっどうして? 文にするとおかしさが際立つ。

 それに花。ムネモリアは確かに私にとって思い出の花だ。この花のおかげで入学が決まったんだし。でもそれをドラコが知っているわけがない。その話をしたことはないし。

 考えられる可能性としては、たまたまこの花が好きだったのかなくらいしか思い浮かばない。まあ一番妥当なところではある。うん、多分そうでしょ、きっと。それ以外で他にあげるとしたら──入学前に実は会っててこの花の話をしたとか?

「(いやいやまさか)」

 自分であげておいてバカバカしいと一笑に付す。こんなのリディクラスですよリディクラス。ねえルーピン先生。荒唐無稽にも程がありますよね。イマジナリールーピン先生にそう語りかける。

 だって、もし会っていたら、私がドラコを忘れるはずがないもの。


──『ねえ、私、今日のこと絶対忘れないよ』

 
 急にこめかみが鋭く痛んだ。咄嗟に頭を抑えたが、それは一瞬のことで痛みはすぐに治まる。

 いまの言葉、どこかで聞いた、いや言ったことがあるような───


「……そんな、有り得ない」

 零れた声はやけに掠れている。喉がはりついたように乾いていた。


###

「ポッター、ワイアット──ちょっと話があります」

 ドラコの気紛れで贈られてきている──と飲み込むことにして数日。私たちは変身術の最後にマクゴナガル先生に呼び出された。次の課題のことかな。先生はほかの生徒が全員いなくなるまで待ってから話しだす。

「あなたたち代表選手とそのパートナーは──」
「なんのパートナーですか?」

 あ、話ってそっちか。私がそう思った直後にハリーが食い気味で先生の言葉を遮る。先生とハリーはそれぞれ『何を言っているんだ』という目付きをしてお互いを見合っていた。

「ポッター、クリスマス・ダンスパーティの代表選手たちのお相手のことです──あなたたちのダンスのお相手です」

 先生の言葉にハリーの顔がサッと赤くなった。ちょうどさっき、クリスマスのダンスパーティーについて説明があったばかりだった。
 彼は「ダンスのパートナー?」とオウム返しする。信じられない、という声色だ。

「僕、ダンスなんてしません」
「いいえ、するのです。伝統に従い、代表選手とそのパートナーが、ダンスパーティの最初に踊るのです」
「僕、ダンスするつもりはありません!」
「(めちゃくちゃ食い下がるじゃん)」

 ハリーは早口で言い切ったがマクゴナガル先生も素早くばっさり切り返した。容赦がない。ハリーは気圧されて一瞬怯んだが、それでもまだ諦めなかった。ちょっもうやめときなよ……マクゴナガル先生相手に勝ち目なんてさぁ……。隣でハラハラしていると、案の定、マクゴナガル先生の眉毛が厳しく吊り上がった。あーあ、スイッチ入っちゃった。

「あなたたちはホグワーツの代表選手なのですよ。予期せぬ出来事で選ばれたにしても、正式にもう決まったことです」
「それは分かってます、でも──」
「いいですか? 選ばれたからには、あなたたちは学校代表として、しなければならないことをするのです」
「でも──僕には──」
「それが伝統で、規則なのです」

 うだうだどうにか逃れようとするハリーに、マクゴナガル先生はぴしゃりと言い放つ。とうとうハリーは口を噤んだ。勝敗は明らかだった。問答無用な畳み掛け、さすが。お見事です。
 マクゴナガル先生は、次にずっと黙っていた私に向かって、「わかりましたね」と念を押した。私は頷いて返事をする。それに続いてハリーも、渋々、かなり、とてつもなく嫌そうにのろのろと頷いた。



「どうしてなにも言ってくれなかったのさ」
「だって口を挟む暇なんてなかったよ」

 教室からでるなり、ハリーに責められる。仕方なくない? 完全にタイマンだったもんあれ。口を挟むほうが野暮ってものでした。いやうそ、なにか言ったら倍返しにされるのが目に見えてたから日和ってなにも言えなかっただけです。
 ハリーはまだ「ダンスパーティなんて」とぶつくさ文句を垂れていた。そこまで嫌がることかなと少し不思議になる。

「別に一人で踊るわけじゃないんだし」
「それはそうだけど……でもいやなものはいやだよ」
「それに、──あっでもそっか、ハリーか……」
「……なに?」
「いやぁ……」
「なんだよ!」

 私がこんなに余裕綽々なのは、どうせ私を見る人なんていないだろうと思っているからだ。
 だって他校の代表が世界的有名クィディッチ選手とヴィーラの血が入ってる絶世の美女。こんなの、いくら代表だからといって私に視線が集まる道理はない。これは卑下とかではなく、純然たる事実である。そもそもここに並んでるだけでもおかしな話だ。本当にどうして私は代表選手になってるんですか? なんで??

 まあとにかく、クラムとフラーがいるんだから。
 視線はあの二人が持っていってくれるはずだから。

 と、ハリーにも言おうかと思ったのだが、そういえばハリーもハリーでかなり有名なことをたった今思い出した。生き残った男の子、注目されないわけもなく……。

 ハリーは早く続きを言えと私を睨んでいる。言ったら落ち込むんだろうなぁ。だけどこればっかりは私にはどうしようもないことだった。

「ハリーのダンスさ」
「……うん」
「やっぱり目立つんだろうなって」
「ああぁぁぁ……」

 私がそう言えば、ハリーは頭を抱えて悲壮感溢れる嘆き声をあげた。
 

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