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◆◆◆
大理石の階段は氷で飾られ、大広間には何本ものクリスマスツリーが並び、空っぽの兜がクリスマス・キャロルを歌いはじめる。
我らが学び舎は、着々とクリスマスを完璧に迎える準備を整えだしていた。
その日、談話室に戻ってからずっと頭を抱えていたロンは、急に「そうだ!」と起き上がった。『素晴らしい案を思い付いたぞ』と言わんばかりに目を輝かせている。十中八九ろくな案じゃない。
「僕ら、きみかハーマイオニーのどっちかと行けばいいんだ!」
「五点」
もちろん百点満点中のだ。相手がいなくとも絶対受けたくない部類の誘い文句だからねそれ。むしろ五点もあげたことに感謝してほしいくらい。ロンってば本当にビッグウィジョンと踊る気なのだろうか。
「それで誘われてくれる子なんてそうそういないと思うよ」
「そんなこと──」
「たった今フラーに玉砕したの忘れたの?」
「それとこれは別の話だろ!」
ロンは大声をあげたが、首まで真っ赤なのでまるで怖くない。落ち込む兄を慰めていたジニーもついに耐えきれなくなったのか、くすくすと笑った。ネビルは辛うじてまだ堪えている。そんな中、ハリーはぴくりとも笑わなかった。 自身の玉砕と重なったのだろう。チョウね。実はセドリックがチョウからオッケーをもらったという話は、十二月が入ってすぐにセドリック本人から聞いていた。
教えてあげればよかったかなと思うけど。失恋も経験のうち……あれ、そういえば来年のハリーとチョウどうなるんだろう。もう完全に実らないってことになるのかな。
「とにかくさ、僕たちまじでパートナーが必要なんだよ。もうあと数日しかないんだ……頼むぜ二人とも……」
「私、一緒には行けないわ」
ロンはフラー大玉砕に加え、パートナーが見つからないことでかなりまいっているようだ。素直に頼み込まれ、ハーマイオニーが赤くなった。少し困った顔をしている。
「だって、もう、他の人と行くことになってるの」
「そんなはずないよ!」
いやないことはない。だって本人が言ってるのに。どういう理屈で言ってるのそれ。なんてツッコミをいれたくなるが口を噤む。邪魔しちゃいけない。
ハーマイオニーが硬い笑みを浮かべた。信じられないと顔いっぱいに書いて隠そうともしないロンを強く見据える。
「あなたは、三年もかかってやっとお気づきになられたようですけどね、ロン。だからといって他のだれも私が女の子だと気づかなかったわけじゃないわ!」
ハーマイオニーはイライラを見事に抑えて言い切った。そんな彼女をわざとらしくまじまじと見て、ロンはニヤッと笑う。
「オッケーオッケー。僕たち、君が女の子だと認めるよ。……これでいいだろ? さあ、僕たちと行くかい?」
「だから言ってるでしょ! 他の人と行くんです!」
今度は怒りで顔を真っ赤にしながら、ハーマイオニーは女子寮のほうはとさっさと行ってしまった。手が出なかったのとっても偉い。素晴らしい。あとでたくさん愚痴を聞いてあげよう。
「あいつ、嘘ついてる」
ハーマイオニーがいなくなったほうを見たまま、ロンはきっぱり呟く。完全にムキになっている声に、ジニーと二人顔を見合わせてため息をついた。
「嘘じゃないよ」
「じゃ、だれと?」
「言わないわ。あたしたち関係ないもの」
静かな様子のジニーに、これは口を割らないぞと悟ったらしい。ロンは一旦追及を諦めた。「じゃあさ」と私に向き直る。
「きみなら行けるよな? 代表選手同士だしちょうどいいだろ?」
「私も相手がいるから行けないよ」
「ああ、ネビルか」
「僕じゃないよ」
「そうよ、ネビルは私と行くの」
「なんだって?」
ネビルとジニーの言葉にハリーもロンも口をあんぐりさせた。たしかに意外な組み合わせではあるよね。私も初めて知ったときはちょっと驚いた。
しかし彼らが言いたいのはそういうことじゃないらしい。二人して私とネビルを忙しなく交互に見る。
「なんできみたちがペアじゃないんだ?」
「なんでって……」
ロンから問われ、ネビルと二人、同時に顔を見合わせる。そんなの、当然じゃないか。
「じゃあロンとハリーこそなんでペアじゃないの?」
「いやそりゃ、僕たちはさぁ……違うだろ?」
「同じさ」
「えぇ?」
「要はそういうことだし、私たちはそういうんじゃないってこと」
ネビルが当たり前のように言った。二人は解せぬと眉をひそめたが、私が続けた言葉にハリーはやや納得した面持ちになる。しかしロンだけはまだいまいち釈然としない様子だった。
もうそれがハーマイオニーへの答えみたいなものじゃんね。
言わないけど。
「聞いて! さっきハリーからパーティに誘われちゃった!」
寝室に入ってくるなり、パーバティは喜色満面で言った。すごく嬉しそうだ。そんな彼女にラベンダーが「よかったわね」と言うが、その顔はほんのちょっとだけ不服そうだ。
「ふふ、きっと、とっても目立つわ。だって代表選手のパートナーですもの!」
パーバティは頬に両手を当ててうっとりと微笑んだ。代表選手とそのパートナーがこの部屋に三人もいるの、よく考えるとすごいな。そんなことを思っていると、ラベンダーが悔しそうに口を尖らせた。
「あーあ、私も誘われるの待ってればよかった」
ラベンダーは随分前にシェーマスから誘われて、オッケーをしていた。素直に羨ましがるラベンダーに、パーバティの顔が得意げになる。
同学年一の美女と評されるパチル姉妹が、こんな時期まで誰からもパーティーに誘われていないなんて──フレッド流に言うと『売れ残ってる』なんて、本来ならありえないことだ。
つまり、彼女たちはきっとハリーに誘われるのをずっと待っていたに違いない。すごい策士だ。
「私も前で踊りたかった」
「できることなら変わってあげたいよ」
「気持ちは嬉しいんだけど、別に代表選手にはなりたくないのよね。そうだ、エレナは誰と行くの?」
「みんな知らないと思う、ボーバトンの人だから」
「それほんとう?!」
「え、ほんとだけど……」
いきなり叫ばれて少し驚く。ラベンダーは「ずるい!」とベッドから身を乗り出した。しかし口ではそう言いながらも、その顔は興味で輝いている。パーバティも瞳を爛々とさせた。
「なんて誘われたの?」
「なんてって……普通に、『一緒に踊ろう』とかそんな感じで」
「どんな人? イケメン?」
「優しそうだったよ。それに、うん、かっこいいと思う」
「身長は? 髪とか、目の色は?」
「目?! そんなの見てないよ……背は高くて、髪は金髪だったけど」
「金髪」
ラベンダーとパーバティの二人から矢継ぎ早に聞かれたじろぎながらも答えていく。目って。そこ気になるところなの?
最後の言葉をハーマイオニーが意味深に繰り返した。ついギシッと身体が固まる。いや別に、疚しいことはないんだけど。ただなんとなく、その声に含みがあるように聞こえたから。なんとなくだけど。私はぎこちない動きで彼女へと視線を向ける。ハーマイオニーはいつも通りの顔だったけれど、その目だけは私を詰るように非難がましい──ように見える。
「なに?」
「別に」
特に言いたいことはないらしい。本人がそう言ってるんだし、よかった、やっぱり気の所為みたい。そうだよね、だって責められるようなことしてないしね、私。
うんうんと一人満足していると、パーバティが「なぁんだ」とつまらなそうに声をあげた。私のパートナーに対する興味はもうすっかり失せてしまったらしい。
「結局セドリックじゃないのね」
「まだ生きてたんだその説」
「ほぼ死にかけだけどね──じゃあセドリックは誰と行くのかしら」
「当日になれば分かるよ」
セドリックとチョウ、映画でもすごくお似合いだった。私も当日が楽しみだ。ハリーには申し訳ないけど。
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いつも通りの時間に目が覚める。早寝したおかげで寝起きはすっきりしていて絶好調だ。しかしいくら待ちに待ったクリスマスといえど、休暇中だからかまだみんな起きるつもりはないようだ。談話室から声は聞こえないし、部屋の中で起きているのもハーマイオニーだけだった。
ハーマイオニーは私からのプレゼントを開けてにっこりする。
「このリップ、買おうか迷ってたの。ありがとう」
「ほんと? よかった」
私があげたのは『塗る前に呪文をかけると匂いをかえることができる』というのが売りのリップクリームだ。知ってたんだ思いながらハーマイオニーからのプレゼントを開けると、中にはまったく同じブランドのハンドクリームが入っていた。もちろん効能も同じ。まあ冬だもんね。考えることは一緒にもなる。とりあえず無香料のままで手に塗った。
ネビルやセドリックからのプレゼントをあけ、そして最後に叔父さんからの贈り物を開いた。叔父さんにしては珍しく、少し長めのメッセージカードだ。しかもちゃんとした文字で書かれてる。走り書きじゃない。
【エレナ
選手になったと聞いた。なかなか連絡出来ずすまなかった。ゴブレットの件は魔法省のほうでも調査する予定だ。
それはそうと第一課題。ダンブルドアが、お前がどうやってドラゴンを出し抜いたか教えてくれた。ドラゴンはあまり目がよくないから、岩で目くらましするのはとてもいい作戦だったと思う。】
「(あっそんなことは全く考えてなかったな……)」
これっぽっちもだ。目くらまし。なるほど、ダンブルドアからはそういうに見えてたのか。まあ単に岩で沈めようとしてたって思われるよりはよかったのかもしれない。こういう理由のほうがなんか理知的に聞こえるし。ありがとう偉大なるダンブルドア先生様。そして願わくば去年のやらかしは忘れてください。
【それに岩雪崩で絶滅しかけた種もいるくらいだし、岩攻めは基本的に効果抜群だったはずだ。よく考えついたものだ。直接この目で見ることができなかったのが非常に悔やまれるよ。
さて、第一課題こそなにも手伝ってやれなかったが、せめてこれが第二、第三課題でなにかの役に立つことを祈る。そうは言っても貰い物なんだが、しかしなかなか貴重なものだ。うまく使ってくれ。
エドガーより】
手伝うもなにも、課題って一人でこなさなきゃいけないし。だから気にすることはないのに。でもそうは言っても気持ちは嬉しいし助かる。使えそうなら課題で使いたいな。私は手紙をベッドの上に置き、わくわくしながら紙袋を開けた。中に入っていたガラスケースを取り出す。
丸いガラスケースに入っていたのは深緑色の物体だった。生き物の尻尾をぐるりと丸めたようなそれははっきり言って気味が悪い。なんかすごい生臭そう。フタ越しからでもヌメリを帯びているのが──
「どうして?!」
「なにが?」
「なんでもない」
それがなにかを理解した途端思わず私は大声を上げた。ハーマイオニーの怪訝そうな声に上辺だけは冷静さを取り戻したように、素早く答えて謝る。他の二人を起こさなくてよかった。そう安堵しつつ、私は自然な動作で叔父さんからのプレゼント──エラ昆布をトランクの奥に押し込んだ。
「(いやエラ昆布って)」
これは叫んじゃうのも仕方ないだろう。だってどうして?? いや使えません、使えませんよこんなもの……ハリーと被るし。ていうかもう知ってるでしょこれ。次の課題知らないとプレゼントの選択肢に入らないでしょこれ。貰い物だっていうし実際はたまたまなんだろうけどさぁ……叔父さんからのプレゼント、なんか毎回絶妙というか。もしかして未来知ってるんですか? 高度な匂わせやめてほしい。勝手に幻臭嗅いでる私も悪いんだけど。
「これって”いつもの人”じゃない?」
「え──ああ、ほんとだ」
ハーマイオニーが指さした先には、手のひらサイズの可愛らしく装飾された小箱が置いてあった。エラ昆布のことは一旦忘れようと、花のように結ばれたリボンをゆっくり引き抜いて解く。
でてきたのは細かい宝石が散りばめられた小瓶だった。片手で包み込めるくらいの大きさだ。その瓶の、オーロラを溶かしこんだような色には見覚えがある。それから瓶に彫られている花にも。少量の液体が瓶の中でちゃぷんと揺れた。
「香水かな」
「みたいね。……やっぱりムネモリアの」
「ああ、うん、ね……」
私は香水を、少しの傷もつけないようにゆっくり慎重に綿が敷き詰められた箱へと戻した。なんともいえない沈黙がひろがる。
魔法界のことにはまだ疎く、流行りにもブランドにも詳しくない。でもこの香水がとんでもなく高級なんだろうということは一目で分かった。それにムネモリアを原材料に含むものは価値が高いということは、初めてくれたあの図鑑にも書いてある。
だからこの香水がどれほど貴重なものなのかは、さすがの私でもしっかり理解出来ていた。
ハーマイオニーが眉根を寄せて口をキュッと結ぶ。それは複雑そうな──まあ端的に言ってしまうとドン引きした顔だった。
「なんか……年々高価になってる気がするんだけど」
「言わないで……」
薄々気付いてはいたけど。しかし去年まではまだおかしくなかったはず……。もしかしたらこのピアスもかなり、その……値が結構あれするものなのかもしれない。あれね。なにがとは言わないけど。
いややめよう、下世話だよねそんなこと考えるのは。気にしちゃだめだ。……でもやっぱり気軽につけるのはやめようかな。
「ねえ、気付いてるんでしょ?」
「……贈り主の話?」
「そうよ。……今日確かめてみたら?」
ピアスを外すか悩んでいると、ハーマイオニーがもどかしそうに問いかけてきた。彼女はとっくに分かっていたようだ。本当になんでも知っている。
「今日はだめ」
「どうして」
「きっとそんな機会ないよ」
だって彼は最初から最後まであの人と踊ってるに違いないし。パートナー様からわざわざ宣戦布告まがいなことまでされたんだから間違いない。きっと、パーティーが終わるその瞬間までずっと二人で踊ってるんだろう。説明し切ってから、私はにこりと口角をつりあげた。
「だから、私と話す時間なんてないと思うの」
「……エレナ、あなた──」
ハーマイオニーは何か言いかけた。しかし途中で言葉を切る。彼女は「あなたがそれでいいならいいけど」と諦めたようにため息を吐いた。
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