11.ポンコツ・チルタイム
「スッ、好きな人ができ、た……んだぜ……」
ロナルドは、熟れたトマトよりも赤い顔をして絞り出した。
ロナルドと一緒に退治人になる時は、大抵このルートに行く。好きな人相談応援頼む、からの鬼強吸血鬼戦であえなく敗北。こんな何十回とやったお決まりの流れもまるっと頭から抜けていた。まあ数百年ぶりだから仕方ない。そんな時期なのかぁ、と熟れたトマトをある種の感慨深さとともに眺めていれば、端正な相貌の朱がさらに濃くなる。
「な、なんか言ってよぉ……」
「うーん」
「うーん、て」
「いや、そうだなー……」
退治人ルートで必ず八月七日に現れるあの吸血鬼、めちゃ強なんだよね。もうリンボーダンサー派生かよってくらい強いのだ。バカの考えたサイキョーの吸血鬼って感じ。しばらくロナルドと離れた人生を送っていたため、記憶経験値も振り出しだ。なにも対策できていない。
とにかく、今の私があの吸血鬼からロナルドを守れる気がとてもしない。今世もボツかぁ。と、早くも諦めムードである。そんな気持ちの『うーん』だった。
「……ロナルドさぁ」
今世はもうちょっとアレなので。今から足掻いても、ぶっちゃけどうしようもないので。もう来世に期待ということで。
……だから今世は、おふざけに走ってもいいだろうか――少しくらい、好きにしても。
「私と付き合わない?」
「…………はい?」
テレビの方からガシャンと物が落ちた音がする。視線を流した先の液晶では、ガチャガチャとしたゲームオーバー画面が映し出されていた。ドラルクとジョンが、ソファの背もたれからぴょこっと顔を出す。一人と一匹は『え、えーっ⁈』みたいな、ギョッとした顔をして私をガン見していた。
「どうした⁈ どんな論理の飛躍だね⁈ もしやご乱心か⁈」
ご乱心。色々と失礼な言葉ではあるが、あながちまあ間違っちゃいない。けどここで迂闊に肯定すると繊細なロナルドは傷付いてしまうかもしれないので、なにか適当に誤魔化さなくてはと思った。
「あー、ほら、予行練習的な? 恋人という存在に慣れるアレをするために? お試し? 的な?」
「どういう理屈だ! おいロナ造浮かれて流されるなよ。本来の趣旨を忘れるんじゃないぞ」
「ェアッア、お、おう……ぅ、で、でも、でも……!」
「なに、コソコソ話して……ねえロナルドだって好きな人にみっともないとこみせたくないでしょ? だからほら、一回、お試し的な。ちょっとだけ私と付き合お? ね?」
「はい、よろしくお願いします」
「オイバカオイ‼」
縮こまって深々お辞儀するロナルドの頭をドラルクが殴って、その反作用で死んだ。……のを見て、勝手に黒歴史をほじられた気持ちになり、私も密かに死にそうになった。ごめん、殴ってごめん、ほんとにごめん……。
「どうすんだオイってなにしとる! 溶けるな立て! お前が始め(ようとし)た物語だろ‼」
ムキーッと言いながらドラルクはロナルドのマントをぐいぐい引っ張ったが、ロナルドはでろっと床に溶けたままだった。メタモンみたいになったロナルドとバチッと目が合う。途端ロナルドは「ピャッ」と甲高く乙女のように鳴いた。
「これからは恋人としてよろしくね、ヒデくん」
「コイッ、ウッ、アッよろっ、アッ末っ! 末永く‼ よろ、ヨろヒくおねがいしまっ……!」
恋人っぽさを意識しながら、愛想いっぱいに微笑んでみる。ロナルドははわわ、と軽く握った両手を、顔の輪郭を隠すように顎元へ添えた。私よりよっぽど乙女な態度が面白くてかわいくて、愛おしさで口元が綻ぶ。
……ていうか、末永くもなにもどうせ死ぬまでの一ヶ月間だけだけどね。そもそもこれ、お試しなのに。好きな人がいるのに、偽恋人相手にもこんなガチで挨拶しちゃうって、ほんと律儀で真面目だ。……うん、やっぱり好きだな。そういうところ、本当に。
「……ウーワもう。幸せそうにしちゃってさァ、こっちも……ヤダヤダ! 私、お砂を吐いてしまいそうですわ」
「お黙りあそばせ」
パンと鼻先で猫騙しただけで、足元に砂山が錬成された。ロナルドに聞かれていないことに内心で胸を撫で下ろしながら、健気に泣いているジョンを抱き上げる。まったく、きみのような勘のいい砂は嫌いだよ。
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