14.許され難い朝
目蓋の向こうから刺す陽がいやに眩しい。それによって、私は夜が明けたこと、そして同時に世界が廻ったことを悟った。
しかしいくら待っても、ヒデくんの声がしない。ループは必ず、幼い彼が私を起こすところから始まるのに。私は自身を取り巻く感覚が、いつもと全く違うことに気が付いた。初夏の風も葉のさざめく音も、青い葉の匂いもしない。かわりにあるのは、室内にいるような閉塞感だ。それに、いつもと違って横たわっているらしい。背中にあるはずの木の幹の感覚もしなかった。いったいどういうことだろう。百回以上繰り返してきたことがいきなり変わって、目を閉じたまま困惑する。私にわかったのは、とにかく瞼の向こう側はきっととても眩しいのだろうということだけだった。
躊躇いながら恐る恐る目を開ける。視界に飛び込んできたのは、柔らかい銀、透けるような青――。
「……え?」
「お前さ、こんなとこで寝るなよな」
陽の光を背後に私を見下ろしていた彼は、「風邪なんだから、ベッド行けよ」と呆れ笑いをしながら言った。緩んでいた眦が、ますます落ちる。彼が私の顔横に手をつくと、ソファが揺れ、垂れた銀髪がキラキラと光った。揺れる髪からは、雨の匂いがした。
「――ただいま」
低く掠れた声が、耳元で鼓膜を揺らした。聞き慣れた、いつも通りな声。だけど本当の意味でいつも通りの声ではなかった。
呆然と見開いた視界が、彼の向こうにある空を捉える。雲一つない。青く、どこまでも、晴れ渡っている。そんな晴天――そんな朝だ。
朝。
理解して、心臓がドクンと大きく拍動した。全身の血がどこかへと消えていくような悪寒に襲われる。
世界が動き出してしまった。
愛する人が、愛する人と結ばれないまま、世界は新しい空を刻み始めてしまった。
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