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岩の上に横たわって眠りこけているナツを最初に発見したのは、空の騎士、ガン・フォールだった。キャンプファイヤーの暖かい光に当てられてもなお血の気の薄い顔色のナツにギョッとする。しているかいないかほとんど分からないくらい微かな呼吸に、空の騎士は声を上げて一味を集めた。人間たちのただならぬ様子に、ノリのいい、そして空気の読める森の獣たちは、またなと手を振り巣へと帰っていく。
「この能力は多分、すごく脳を使うんだ」
チョッパーは軽く診察を終え、疲れて眠っているだけと伝えてから、そう話し出した。だから体力も、“聴いてる”分だけ消耗する。顔色、指先の震えや、過剰な塩分の摂取等が、ナツの疲労を顕著に証明していた。無論、過剰といっても身体に障る量ではない。であればチョッパーとて止めている。ナツがシチューに落としたのは、少し味を変える程度の欠片だった。しかし今日のシチューは、サンジもみんなの疲弊具合を考えて元々濃いめに味付けしていたし、そもそもナツがサンジの作る料理に手を加えたことなど、これまで一度としてなかった。だからチョッパーも、青が白濁の中に溶けていく様を思わず凝視してしまったのだ。
「試練の時もよ、こいつ、ずっと頭抑えてて……血を吐くみてェにしながら声を聴いてたんだ」
「そりゃ正直、あれにはすげェ助かったが……それでもナツちゃんにあんな無理をさせちまって……不甲斐ないったらねェぜ……」
ウソップとサンジは顔を暗くさせたが、ルフィはなにも言わず、死んだように眠り続けるナツを見つめていた。
一味には、例えナツへ「無茶はしなくていい」と伝えても、ナツは聞かないだろうという確信があった。ルフィに仲間になれと勧誘された時、困ったような顔をしたナツが「私、特になんにもできない」と言っていたことは、まだ記憶に新しかった。
浮かれていたのも忘れて深刻な面持ちになる一味だったが、空の騎士だけは言葉の意味が分からず、「聴く?」と首を傾げた。ナミが実は、とナツのことを話し出す。聞くにつれて、空の騎士の顔つきが次第に険しいものへと変わっていった。
「何の実を食ったのかは結局分かってねえけど――」
「ヤクヤクの実……」
「なに?」
「この世に生きとし生ける全てを解き、明かし、語り、綴ることができるようになる能力……それが、ヤクヤクの実の能力だ」
騎士の重々しい語りが森の静寂へ吸い込まれていき、先程までの喧騒が嘘のように辺りはシンと静まり返る。空の騎士は、深い眠りに落ちているナツへ不憫そうな眼差しを向けた。
「年端もゆかぬ異邦の少女がまた……業の深い実を食べたものだ」
「……で、でもよ?! 言葉なんて普通は誰にでも通じるもんだろ?! 文字だって、別に……そんな大変な実のはず――」
ない、と続けようとしたウソップだったが、空の騎士に鋭い視線に、ギクリと口を噤ませる。ロビンは秘かに息を呑んで顔を強ばらせた。
全てを、ということはまさか、あの言葉も含まれるのだろうか。今はもはや私以外に扱える者はいないはずの――大事な人達を喪うことになった、あの言葉までも?
「……さ、む……」
硬直が解かれた一味は、ビクリと肩を跳ねあげさせた。沈黙を破ったか細い声の方を見遣ると、硬い岩の上で、ナツは眉間に皺を寄せて腕を摩り、身体を丸めるようにして、もぞもぞとしていた。慣れた動作でルフィが素早くナツを抱き上げる。条件反射的にサンジが噛みつきかけたが、無言を貫いている船長の顔を見て、開いていた口をゆっくり結んだ。
女部屋へ向かうルフィの背中をちょっと見つめてから、残った面子は、火の始末や片付けのため、それぞれ三々五々になって散っていく。一人その場に座ったままのガン・フォールは、深く息を吐いて、空を見上げた。
「――万物の声を紡ぐ者……か」
血は争えんな、“――”。
旧き騎士が懐かしそうに誰かの名前を零す。そんな呟きを拾ったのは、天高くで朧に霞む、白く光る月のみだった。
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